地域戦略ラボ

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ピッツバーグに見る産業都市の盛衰

2月18日のブログで、20世紀を代表する産業都市としてデトロイトを紹介しましたが、本日はもう一つの代表的な重工業都市であったペンシルバニア州ピッツバーグを紹介します。

 

1.ピッツバーグ概要

 

ピッツバーグとはペンシルバニア州西部に位置する人口約31万人(都市圏人口約266万人)の産業都市です。人口の推移として1960年代までは約68万人程度いましたが、その後、地域の基幹産業であった鉄鋼業の衰退とともに人口は減少していき、現在は約30万人程度となっています。

 

地域資源として、ピッツバーグ大学(1787年)、 カーネギーメロン大学(1912年)とレベルの高い大学が市内に立地しています。主な産業としては、医療、 教育、 金融、 ハイテク(ロボット産業)などが挙げられます

 

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ピッツバーグ市の人口動態

 

2.地域経済史 USスチールの設立

 

地域産業の形成要因として元々アパラチア山脈に位置し、石炭が産出したことから始まります。以下地域経済の年表を示しています。
19世紀前半 鉄鋼・兵器の生産拠点
1860年   石油精製所の開設
1875年   アンドリュー・カーネーギーがエドガー・トムソン・スチール会社設立
1901年   USスチール創設
1940年~1984年 製鉄業の雇用の減少 9万人→4.4万人 失業率18%
2004年   Act47適用 財政破たん
2009年   G20サミット開催 

 

なぜピッツバーグで製鉄業が盛んになったのか、いくつか要因がります。

先ず、戦略的な場所という地の利です、イギリスによるアメリカ開拓時、フレンチインディアン戦争では前線基地(オハイオ領土)として要塞が建設されました。
それは、オハイオ川、アレゲニー川とモノンガヒラ川と3つの川に囲まれた恵まれた水運があるからです。
南北戦争時にも軍需産業拠点となり、鉄鋼や兵器の生産拠点となりました。

ピッツバーグの製鉄業を世界に知らしめたのはアンドリュー・カーネギーの貢献が大きいです。

1835年スコットランド生まれ、

1848年に一家でピッツバーグに移住。その後、電信局通信士などを経て、

1872年にエドガー・トムソン鉄鋼会社を創設しました。鉄道レール銑鉄で事業を拡大し 鋼鉄への転換に成功し、巨大工場を建設し、規模の経済を達成しました。また、工程の垂直統合を図り、鉱山や橋梁会社などを買収していきました。

1889年にはアメリカ鉄鋼生産1位になり、

1892年にカーネギー製鉄を創設、

1901年にJ・P・モルガンに約4.8億ドルで売却し、USスチールが誕生しました。

彼はビジネスで蓄えた富をもとに慈善事業を積極的に行いました。ピッツバーグ市内にあるカーネギー博物館、カーネギー・メロン大学は彼の寄付をもとに設立されたものですし、ニューヨークのカーネギーホールも彼の慈善活動の賜物です。

 

しかし、1960年代から技術革新の遅れや顧客ニーズへの対応の遅れなどから、アメリカの製鉄業は競争力を失っていきました。それと同時にピッツバーグも衰退していきました。

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アンドリュー・カーネギー

3.復活の胎動  メディカルコンプレックスとイノベーション地区の形成

 

ピッツバーグの復活の機動力となったのは2つの大学です。

下の写真は1971年オープンした”US Steel本社ビル”です。64階建、ピッツバーグ一の高さを誇り、USスチールの経済的繁栄を象徴するです。しかし、現在では、USスチールはテナントとして入居しているのに過ぎず、UPMCが最大のテナントであり、塔屋にUPMCのサインがあります。このようにピッツバーグの地域の主力産業は鉄鋼業から医療産業へと転換が図られています。

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US Steel Tower

UPMCとはピッツバーグ大学メディカルセンターの略称です。UPMCは、全米有数の規模を誇るメディカル・コンプレックスで、職員数約65000人、年間収入約120億ドル(JETRO2017)と大企業と言っても良い規模の組織です。

 

アメリカには、ミネソタ州ロチェスターミネアポリス)、テキサス州ヒューストン、
オハイオ州クリーブランドなどにメディカル・コンプレックスがあります。

メディカル・コンプレックスが形成される要因として、大規模(大学)病院、産業化の受け皿となる企業の存在、政府のバイオ・製薬分野における多額の研究開発投資、国の
高い医療保険が考えられます。

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UPMC

 

カーネギーメロン大学は、ロボット工学、機械学習AI、自動運転の研究が盛んで世界的に有名な大学です。

カーネギー・メロン大学との連携を求めて、GoogleUberなどのシリコンバレーの企業が大規模な研究所を市内に建設したり、大学発ベンチャーの立地が進み、大学と企業が連携する場所としてイノベーション地区が形成されています。

イノベーションのための学習と空間(4)イノベーションの空間的分業

イノベーションのための学習と空間として

(1)拡散する知識と凝集する知識

(2)イノベーションの価値連鎖  

(3)関係構築のための信頼と評判 について見てきました。

今回は(4)イノベーションの空間的分業 について考えていきます。

 

1つのイノベーションの創出はいくつものプロジェクトにまたがって展開されてます。そのことは、イノベーション分業されたプロジェクトが連鎖・統合されて創出されることを意味します。

 

地域の技術シーズをもとにした実用化の取組みでのイノベーションの空間的構成を見ると、地域内では大学を中心に基礎研究が行われ、また部材の製造が行われていました。地域外では、応用研究としてのアプリケーション開発ではキープレイヤーとして地域外企業が多く参画しており、物質の製造では製造・販売経験のある地域外企業が参加して行われているなど、イノベーションのプロジェクトは分業で行われています。

つまり、イノベーション創出プロセスの空間とは必ずしも一つの地域内で完結したものではなく、イノベーション活動はいくつかの場所で行われていました。

よって、イノベーションのプロセスは、多様な場所において生み出されたという意味において空間的に分業されていると言えます。

 

そのイノベーションの分業において、地域の機能は異なっているとされています。

具体的には、イノベーション活動の中心となる中核地域、活動の部分を担う周辺地域、その両者の中間地域の3つに分けられます。

一般的に言って、イノベーション中核地域とは、大企業や優れた大学・研究機関が集積する大都市であり、人材や資本が世界的にマグネットのようにあつまるイノベーションのエコシステムを形成している地域です。

周辺地域とは、自立的なイノベーションを創出させることは困難であるが、要素技術開発などで中核地域と連鎖する地域です。

中間地域とは、中核地域ほどはイノベーション・エコシステムが世界的に評判を得ているわけではないが、特定分野に強みがあったり、中核地域への成長段階であったりする地域です。

そして、地域の機能によって創出される付加価値が違うため、周辺地域や中間地域に位置する地域はその機能をアップグレードさせることが求められます。

 

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

人口減少社会において持続可能な地域をつくれるのか?

 『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)』 が書き示すように、日本の地域は人口減少により将来消滅すると言っても決して驚くような言説ではなくなりました。

 

下図は愛媛県八幡浜市の人口動態を示したグラフです。1950年に7.3万人だった人口が2010年には約半分の3.8万人にまで減少しています。八幡浜市60年間以上も人口が減り続けています。

八幡浜市は元々、漁業とミカン栽培で栄えた地域でした。魚肉ソーセージを初めて生産したのは八幡浜市の西南開発という会社です。太陽石油も元々は八幡浜市で創業されました。しかし、漁業は漁獲高が大幅に減少し、ミカンも健闘していますが昔ほどの生産量はありません。

さらに、山がちな地形で平地が少ないため、隣接市(大洲市西予市)で宅地開発が行われ、人口が流出していきました(両市とも今では人口が減少していますが…)。

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愛媛県八幡浜市所在地

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八幡浜市の人口動態

人口は減少していますが、地域は消滅していません。集落がいくつかなくなったり、商店街が閉まったり、町の個人クリニックがなくなったり、バスが減便になったりしています。

しかし、商店街がシャッター通りになっているのは八幡浜だけではなく、病気になれば市立病院があるし、バスがなくなっても自家用車があるので、生活はできるので人々は本当の意味で困っていると感じない状況です。

 

人口が半減すれば、地域も大幅に変わっているはずである。しかし、60年に渡る変化であるので、そこの住民は緩慢な衰退に適応しています。多少の不便には目をつむり、日々の生活を送っています。

 

地域に人間関係や信頼、生活文化などの社会関係資本が埋め込まれていれば、地域に対する思いが深くなり地域に骨を埋める行動をとるでしょう。一方、そうでない若年層は地域から出ていきます。

 

人口移動には以下3つのモデルがあると言われています。

①所得格差モデル (住民は効用最大化を目指して行動する〈仮定〉)
効用格差をもたらす最大の要因が所得(賃金)格差である。これは、現住地と移動先で獲得できる所得(賃金)の格差が人口移動を引き起こすという理論である。

②就業機会格差モデル (仕事があるかどうか)
労働市場は完全ではなく、賃金は所得(賃金)格差モデルが想定するほど伸縮的でないとする立場から、人口移動は所得(賃金)格差よりも就業機会の格差に依存する。

 ③人的資本モデル (投資行動として考える。一時的でなく生涯給与)
移動することで将来にわたって得ることができると期待される便益とそのために負担しなければならない費用を比較して、移動の是非と移動先が決定される。

 

なので、チャンスを多く抱え、地域に大きな社会関係資本がなく、危機感の大きな若者たちは地域から出ていくという選択をしていきます。

 

地域の危機感とは継続的ではないと言えます。危機感のある人は地域に居続けて対策を打っていく人たちもいますが、地域外に出てしまうという人もいるということです。つまり、本当に危機感を持ち続けて地域を良くしようとしている人たちは少数にすぎないのです。地域には多少の不便に慣れてしまった高齢者や、富農家、公務員、医者など所得がある程度確保できている職業の人達しか残らなくなります。

  

2015年の1期まち・ひと・しごと総合戦略立案時の方が、現在の2期より話題になり、もう少し地方をいうものをどうしたら良いか考える機会があったように感じます。

 

 <持続可能な社会を考える参考文献>

持続可能な社会を考える文献はSDGsの流れもあり、近年多く刊行されています。その中で学生の学習に役立ちそうな文献をいくつか紹介していきます

 

①筧裕介(2019)『持続可能な地域のつくり方』

地域を生態系と捉え、その活動の中心を対話としています。その対話のコミュニティをどのように育て継続(教育)していくのかが地域の持続可能性の鍵と言えます。地域のデータが豊富に紹介されており、現状認識するのに役立ちます。

持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン

持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン

  • 作者:筧裕介
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 ②広井良典(2019)『人口減少社会のデザイン』

定常化社会を提唱している著者による人口減少社会の社会コミュニティー論です。ただ、人口減少下において社会の定常化を求めるのであれば、一人ひとりは今までよりも一生懸命自転車のペダルを漕ぐか、頭を一生懸命使っていいビジネスを考えなければいけなくなり、仕事やビジネスについてより一生懸命にならなければならないことを意味するでしょう。

人口減少社会のデザイン

人口減少社会のデザイン

 

 

③河合雅司(2019)『未来の地図帳』

 2045年、25年後には全国47都道府県は維持できないとしています。愛媛県は現在の139万人から101万人になるようですが、現在の高知県香川県徳島県の人口より多いわけで、人口減少により自治体の枠組みが持たないとは言いきれないような気がします。

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書)

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書)

 

 

 ④NHKスペシャル取材班(2017)『縮小ニッポンの衝撃』

マスコミが取り上げる未来社会像であるので衝撃的です。しかし、農村集落が消滅していたり、公共サービスが得られなくなったりしているのは珍しいことではないような気がします。それだけ、我々は不都合、不便になることに飼いならされているのかもしれません。

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

 

 

 ⑤内田樹(2018)『人口減少社会の未来学』

11人の知識人による日本の地域の将来像を示している本です。導入として、多様な未来像に触れてみたければとても参考になるでしょう。

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: 単行本
 

 

 

イノベーションのための学習と空間(3)関係構築のための信頼と評判

イノベーションのための学習と空間として

(1)拡散する知識と凝集する知識

(2)イノベーションの価値連鎖  について見てきました。

今回は(3)関係構築のための信頼と評判 について考えてみます。


イノベーション創出の取組みでは、多様な組織間で関係を構築することは必要であるが、諸組織間の関係構築が容易に行われるためには信頼などの社会関係資本が重要だとされています。

しかし実際には、企業と企業のアライアンスや企業と大学との産学連携における関係構築では、相手の研究開発能力の高さなどの噂や評判から関係先が選択され、信頼がなくとも契約を結ぶことにより信頼が担保さて関係が構築されています。

また、事例の知的クラスター創成事業や地域結集型共同研究事業などでは、国のプロジェクトとしての制度的枠組みや、企業間では行政や商社などを媒介に信頼を担保し企業は参加していました。

つまり、企業は仮の信頼の中で関係を構築して、その後に真の信頼を構築していたと言えます。


真の信頼の構築には時間がかかり容易ではないです。オープン・イノベーションにおいて、多くの組織や人をより迅速に集め、チームを作るためには、信頼の構築を行ってからでは時間がかかります。

よって、この時の関係構築には、信頼ではなく評判が重要な媒介となっています。

企業間や産学間では、直接的な信頼関係はなくとも、評判を糸口に関係を構築し、追認的に信頼を形成していくこともできます。


ネットワーク上で確立された地域の評判は、人材や投資を呼び込みやすくさせるという働きがあります。

地域の競争優位性を確立するために地域ブランドの構築を図る必要があります。

ブランドとは、意思決定に至るまでの時間やコストを削減する識別機能や、購買リスクの回避に役立つ品質保証機能があります。

その意味においてイノベーションに関する地域ブランドとは、連携先組織の研究開発に関する能力や機能に対する評判を意味します。

共同研究開発などのオープン・イノベーションのパートナーは必ずしも信頼に基づき関係が構築されるのではなく、パートナー候補の能力に関する評判などにより選ばれて、関係が構築されます。

 

つまり、イノベーション拠点における地域ブランドとは、オープン・イノベーションにおいてパートナーを探すための時間やコストを削減し、そのパートナーの能力が適切かどうかのリスクを回避する機能があります。

イノベーションの拠点としての卓越性を確立するためには、学術的に高度な研究を行っていれば自ずと確立されるのではなく、戦略的に評判を高める地域ブランドの構築が重要となっています。

 


野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

世界のテックシティー(イギリス編)

世界にはハイテク、特にデジタル技術をもとにした新しいビジネス活動が集積している都市・地域があります。

以下、世界のテックシティーについて紹介していきたいと思います。

まずは、イギリス編

 

イギリスには優れた学術機関があります。2020年THEの世界大学ランキングでは、オックスフォード大学(1位)、ケンブリッジ大学(3位)、インペリアル・カレッジ・ロンドン(10位)、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(15位)、キングス・カレッジ・ロンドン(36位)、マンチェスター大学(55位)などの大学があります。

そのうち5つの大学が集積しているロンドンーオックスフォード-ケンブリッジは、イギリス経済の成長エンジンとして認識されており、黄金(ゴールデン)のトライアングルと呼ばれています。

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UK 地図

ロンドンは、イギリスの政治経済の中心地ですが、研究開発やハイテクビジネスの中心地でもあります。

 

テックシティーという名称をはじめに使い始めたのは、East London Techcityです。East London Techcityは、開発があまり進んでいなかったオールドストリート周辺に米国のFacebookCiscoGoogleなどが集積し、ロンドンの大学だけでなく、ケンブリッジやオックスフォード大学出身者も集まり、ICT系、Web系、広告・デザイン系、Fintech 系のベンチャーの起業が進みました。

  

 

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London 地図

 

最近では、キングスクロス駅周辺の再開発で、同じくICT系、Web系、広告・デザイン系、Fintech 系の企業の集積が進んでいます。Googleは2018年にロンドンオフィスをキングスクロスに移転させ、約7000人が働いています。

キングスクロスにはDigital Catapultも立地しています。

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Google Kingscross Office

ロンドン西部のホワイトシティにはインペリア・カレッジ・ロンドンのサテライトキャンパスがImperial Westというイノベーション地区として再開発されています。元々はBBCのスタジオがあり、”Top of Pops”などが撮影されていたそうです。

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Imperial West

また、タワーブリッジのそばにあるキングス・カレッジ・ロンドンと関係の深いGuy's病院にはCell & Gene Therapy のカタパルトセンターがあります。イギリスは医薬関係の研究が進んでいて、ロンドンにも医療機関が集積していますが、創薬に関するクラスターは、ロンドンに集中しているというより、ケンブリッジ、オックスフォードのゴールデン・トライアングルにあると言えます。

 

イギリス政府は2011年から、イノベーションを加速させるためのプラットフォームとしてカタパルト センターを全国に設置しています。新たな設置や統廃合を繰り返し2020年現在、10の分野のセンターがあります。

その中で、High Value Manufacturingのカタパルトは7つのブランチセンターで構成されています。カタパルトは主に大学の中に設置されているものが多いです。


<全国のカタパルトセンター>
1. Cell & Gene Therapy – October 2012 – at Guy's Hospital, London
2. Connected Places – April 2019, formed by merging
3. Digital – June 2013 – in Kings Cross, London. Projects include
4. High Value Manufacturing – October 2011 
5. Offshore Renewable Energy – March 2013  in Glasgow and Blyth, Northumberland.
6. The National Renewable Energy Centre (Narec) at Blyth, Northumberland
7. Satellite Applications – December 2012 – at Harwell Science and Innovation Campus, Oxfordshire
8. Energy Systems – April 2015 – in Birmingham
9. Medicines Discovery – July 2015 – at Alderley Park, Cheshire
10. Compound Semiconductor Applications – 2016 – in Cardiff

 

<High Value Manufacturingのセンター>

1. Advanced Forming Research Centre – at the University of Strathclyde
2. Advanced Manufacturing Research Centre – University of Sheffield
3. Centre for Process Innovation – Redcar, Sheffield and Darlington
4. Manufacturing Technology Centre – near Coventry
5. National Composites Centre – at Bristol and Bath Science Park
6. Nuclear Advanced Manufacturing Research Centre – University of Sheffield
7. Warwick Manufacturing Group – University of Warwick

 

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カタプルト・センターの立地

 

ロンドン以外で、テックシティーとなりえるのはマンチェスターと言えます。

 

マンチェスター大学では、Andre Geim教授とKonstantin Novoselov教授が2004年にグラフェンを発見し、2010年にノーベル物理学賞を受賞したことを契機として、2013年に国立グラフェン研究所を設置しました(建物竣工2015)。

マンチェスター大学マンチェスター市では、グラフェンを含めたハイテクイノベーションの創出を目指して、大学を中心とした地区をOxford Road Corridor命名し、イノベーション地区の形成を目指しています。

国立グラフェン研究所の他にもいくつかグラフェン関連の研究センターがあり、マンチェスターグラフェンを中心にイノベーション都市への変貌を企てています。

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National Graphene Institute

 

大学を殺すのは誰か?

大学に対する不満が大きく論じられています。

特にYou tube界隈ではホリエモン、イケダハヤト、マナブ、岡田斗司夫ひろゆき などによる大学不要論が大きく展開されています。

彼らの主張の多くは、大学は時代に合っていないオワコンである。自分たちも大学で特に有意義であったという思い出がないというものです。

 

www.youtube.com

www.youtube.com

 

 この2月22日、23日もTwitterでは橋本徹の国立大学解体の主張が反響を呼びました。

 

 

twitterはあくまで個人の毒吐きで論理的な主張ではないので、インフルエンサーという人たちの主張でも大きな影響を与えることはないかと思います。

YouTubeの議論も個人の毒吐きで論理的な主張ではないはtwitterと同じですが、情報量がtwitterに比べ若干多いという点と主張者の感情が伝染しやすいので、共感されやすいメディアだと思います。

 

大学が時代に対応しきれていないとか、大学は改革せよというような議論は多くの人々が行っています。

私は大学で教員をやっていますが、大学の制度改革については素人なので、ここでは参考文献をいくつか紹介するにとどめ、大学不要論や改革論が言われているデータを紹介したいと思います。

 

図1は1990年から2019年までの大学数・学生数および18歳人口の推移を示しています。

大学数は1990年の507校から786校と1.6倍、学生数は213万人から291万人と1.4倍になっています。この間の(2015年まで)の18歳の人口数は202万人から120万人と6割に減少しています。

大学の入学年齢は社会人になってからでもいいわけで18歳に限定しているわけではありません。しかし、現実として日本の場合は社会人入学が進んでいないので18歳人口が大学経営に大きな影響を与えます。

それに対して、大学数、大学生数を大幅に増やした点が大学の質が大幅に低下した要因の1つであると言われています。

改革が叫ばれつ続けて、若年齢人口が減少している中で、大学数を増やし続ける大学行政に不信感を持たれるのは当然の結果だと思います。

 

 図1 大学数・学生数と18歳人口の推移(1990~2019年)

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(資料)学校基本調査・国勢調査

 

図2は2019年の大学の理系・文系その他の学生数比率を示しています。大学および学生数が大幅に増加したわけですが、それはどこにいるのかといいますと、私立の文系その他が最も大きなボリュームゾーンであり、一目瞭然です。

世界各国がSTEM教育の拡充を図っている中で、戦略を立てるわけでもなく大衆的文系教育の拡充を図っているのは国際的な時代環境から逸脱していると言えます。

また、大学改革の議論の中心が国立大学を対象としていますが、国立大学の学生数は全体の17%を占めているのにすぎません。

国立大学ばかり改革が求められるのは、文部科学省のコントロールが比較的及びやすい対象なので、いじりやすいところをいじっりまわしているとも言えます。

 

図2 大学理系・文系その他学生数比率(2019年)

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(資料)学校基本調査2019年

 

グローバル化やAIなどのテクノロジーの変化により、知識自体の有用性や知のコミュニティのあり方が大きく変わってきています。

その中で、大学の改革は必要であるのは確かでありますが、個人的経験や怨嗟などから議論するのではなく、また場当たり的な政策展開ではなく、今後の国家の計としてもう少し大局的な議論の展開が求められると思います。

 

 

<大学の改革に関する参考文献>

なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略 (PHP新書)

 

 

  

大学改革の迷走 (ちくま新書)

大学改革の迷走 (ちくま新書)

 

 

イノベーションにおける学習と空間 (2)イノベーションの価値連鎖

先日は知識の拡散性と凝集性についてみてきました。

今回はイノベーションの価値連鎖について考えてみたいと思います。


イノベーション知識の創造と連鎖として捉えた場合、イノベーションとは一つのアイデアやコンセプトの着想からプロダクト・サービスの販売まで、つまり、研究、開発から量産までの連続的なプロセスを経て具現化されます。

言い換えると、イノベーション技術シーズの商業化に至る価値連鎖として捉えてみることができでしょう。

 

例えば製造業でのイノベーションについて考えていくと、イノベーションの価値連鎖は、研究→開発→量産、部材→部品→最終製品という直線的(リニア)に展開されるのではなく、知識創造の層(研究→開発→量産)と製品創造の層(部材→部品→最終製品)の2つの層が重なり合い、様々な知識が創造・統合されています。

例えば、研究の段階で科学的原理や物性などの科学技術に関する知識、量産の段階では品質や調達に関する生産に関する知識などが創造・統合されてことによりイノベーションが創出されます。

それら工程では共同研究プロジェクトなどの形態により知識の交換・創造を行っていた。そのようなプロジェクトを大学の研究者はパッチワークのようにつなげていました。

つまり、科学技術型イノベーションの特徴は期間限定のプロジェクト型共同研究の連鎖によるものと言えます。


工業経済においては、生産から販売までのつながりとそのリードタイムを短くすることが問われていたが、知識経済においても、製品トレンドの移り変わりは早く、研究開発から生産、販売までのリードタイムを短くし、市場に早く製品やサービスを提供することが求められています。

そのためには、生産のためのサプライチェーンを素早く構築できるようにするだけでなく、知識創造という局面において諸組織間の学習関係を早急に構築することが問題となってきます。

つまり、イノベーション創出のためには、迅速に知識をもった組織および人がチームをつくり学習を行うが必要であり、実践コミュニティ(CoP)などのイノベーション・コミュニティを迅速に形成できることがより重要になってきています。

イノベーションのためには、多様な組織や人材を集め関係構築を容易に図れる社会環境が必要となっている。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

[読書ノート]どんなビジネスにも場所は必要である。

馬田隆明(2019)『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』日経BP

 

著者はマイクロソフトでの勤務経験を経て、現在、東京大学産学協創推進本部でスタートアップの支援などを行っている。

 成功するスタートアップの多くは起業家の能力だけではなく、時の利、地の利を得ながら成功する。

本書では、その環境条件を

Place(どこでやるか?)

People(誰とつながるか?)

Practice(どう訓練するか?)

Process(どう仕組みをつくるか?)と4つ分けて

それらをまとめると、「もし起業して成功したいのであれば、最適な場所(Place)と人(People)を選び、正しく訓練(Practice)をしながらその実践プロセス(process)も整備しよう」としている。

 

起業には、助けてくれる仲間起業を促進させる制度・文化が重要である。仲間とは親密なコミュニケーションが必要であり、そのためには物理的な近接性が必要となる。また、起業を促進させる制度や文化とは人々が集まる特定の空間で形成される。よって、起業には特定の環境としての空間が必要だと言える。著者はこれを「居場所」と名付けている。

 

 場所に関する議論を見てみると、働く場所としてコミュニケーションがとりやすく創造性を掻き立てる空間があり、大学などで親密な関係を気付くことが人脈形成として重要であり、イノベーションを加速させる場所としてサロンやカフェなどのサード・プレイスがある。また、シリコンバレーではHPやアップルのように、ガレージで操業することもあるとしている。

 

起業はビジネス行為であるので人々が集う物理的な空間を必要とするし、同じようにイノベーションの学習も当然人々が集う物理的な空間を必要とする。起業とイノベーションは切っても切り離せない関係であり、イノベーション・エコシステムの議論ではそれは一体化している。

つまり、起業が場所という制度的空間が必要であるのと同様に、イノベーションにも場所という制度的空間が必要となる。

 

著者はスタートアップの育成支援に関して多くの経験があるが、自分の経験則だけによって本書の結論を抽出したわけではなく、本文中に多くの参考文献を紹介しながら、自分の理論を補強している点で好感が持てる。

 

 

イノベーションにおける学習と空間 (1)拡散する知識と凝集する知識

知識経済社会において交通・通信技術が発達することで知識を広範囲なところから探索して調達することが可能となりました。

同時に、ハイテク人材や高度技能者の人材獲得競争は激しい状況であり、高度な科学技術に関する知識のみならず、そのような人たちが持つ特殊技能やノウハウは人の移動と共に拡散されやすくなっています。

 

高度な科学技術をもとにした論文や特許のような形式知はコード化された知識なので拡散しやすく、ノウハウや特殊技術などの暗黙知は、文脈に依存する性格があるので特定の場所から拡散しにくいと言われています。

しかし、拡散する知識とは、形式知という知識の性格によるものではく、科学技術分野では、形式知は言うに及ばず暗黙知も個人だけでなく、チームでの人材獲得活動が活発に行われることで、チーム内で培ったノウハウや暗黙知なども移転可能となっています 。

また、企業は外資系企業の買収によって組織的近接性を構築し、ノウハウを含んだ知識を獲得しやすくなっています。

つまり、現代社会では、特定の技能やノウハウを持った人材やチームが移動すれば、イノベーションの源泉となる科学技術などの知識は簡単に国境を越えることができます。


しかし、知識は拡散しやすい状況である一方、知識は特定の地域に凝集しているという現象が見られます。

世界では科学技術をベースとしたイノベーションが盛んに行われている地域があり、それらの場所では知的集積拠点として、イノベーションに取組む多くの企業や高度技術者が集い、拡散しやすい性質であるはずの高度な科学技術に関する知識や集められ、新たな知識が日々創造されています。


知識が特定の場所に集まるのには大きく3つの要因が考えられます。

第1は、知識の累積性という性質です。

科学技術などの知識は、現在の知識が基礎となって次の知識が生れるというという連続体の中にある。また、知識は単独で存在するのではなく、様々に組み合わされた中で認知も高くなり、活用されやすくなります。

つまり、知識は集合した方が、価値が高まるという特性があるためです。

例えば、知識が要素技術として断片的に存在するより、統合された技術の方が新たなイノベーションに結びつきやすいです。

第2に、知識を創造する人々は可能性と快適性があるところに集まるという性質があります。

知識は人に付随しており、知識を創造する人間が好むライフスタイルがあり、それらが実現可能な地域に人々が集まることで新たな知識が生れます。

第3は、知識の養育者としてのパトロンの存在があります。

歴史的に見ても、知識とくに科学技術の創造には多くの費用がかかるため、資本のある所で知識が創造されて、活用・蓄積されるという性質があります。

世界的に見て富が偏在している中、知識は知識を養ってくれる富の集まるところに凝集すると言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

 

[読書メモ]産業革命も連続的イノベーションによってもたらされた

ジョエル・モイキア、監訳長尾伸一、訳伊藤庄一(2019)『知識経済の形成 産業革命から情報化社会まで』名古屋大学出版会

 

本書は 経済史の泰斗である米国ノースウエスタン大学教授のジョエル・モイキアの”The Gift of Athena””の邦訳本です。彼は、技術革新が経済に与える影響を歴史的視点から研究しており、特に第1次産業革命についての多くの研究を蓄積しています。

 

1970年代のダニエル・ベルの(1975)『脱工業社会の到来――社会予測の一つの試み』を代表として、今までの工業化社会から知識経済社会に移行するとの論評が広がりました。モノや資源を投入資源として経済的価値を生むという視点からヒトが生み出す知識こそが経済的価値を生む社会に移行していると指摘されてきました。

 

モイキアは18世紀以降のイギリスで起きた第1次産業革命も、知識としての技術が重要な役割を果たしており、起業家の活動も技術の発展に支えられたものであるとしています。

そして、技術の発展は、一人の個人発明家によって成し遂げられたものではなく、時代の制度や文化が大きな影響を与えているとしています。なぜなら、文化は選好や優先順位を決め、制度はインセンティブやペナルティーを課すからです。

 

また、技術に関する洞察の中で、技術の発展は一人の個人が知っていることよりも、その共同体が知っていることが重要であると指摘しています。そして、共同体の中で知識が伝播し、またフィードバックにより技術が継続的に進化したとしています。

その意味で、技術の進化は社会的なプロセスであるとしています。

 

技術革新やイノベーションとは当代的現象ではなく、過去においても色々な展開がありました。本書は、現代の技術革新とイノベーションに対しても示唆の富む優れた歴史書です。

 

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

 

 

 ジョエル・モキイアに関心のある人はForbのインタビュー記事(

歴史家が認める、米経済史に影響を与えた「7人の凄い人物」)も参考になります。

データで見る東京一極集中:地方創生総合戦略1期の検証

昨日のWeb News Business Japanに「なぜ広島県が人口流出ワースト1位…」という記事があり、気になりましたので、データーソースの住民基本台帳人口移動報告2019年(令和元年)結果にあたってみました。 

 

まず、広島県の状況を見る前に、内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」の目的意識が人口の東京一極集中是正にありましたので、よく見るグラフではありますが、3大都市圏の転入出超過者数(外国人含む)の推移を見ます。図1の3大都市圏転入出超過者数の推移から、内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」が本格的にスタートした2015年からを見ても、名古屋圏、大阪圏は横ばいですが、東京圏の転入超過者数が伸びていることがわかります。

 

図1 3大都市圏転入出超過者数の推移

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都道府県の2019年の状況を図2から見てみると、転入超過となっているのは東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,福岡県,滋賀県及び沖縄県の8都府県だけです。

一方、転出超過となっているのは広島県茨城県長崎県新潟県など39道府県で、転出超過数が最も拡大しているのは広島県(1961人)です。愛知県が前年の転入超過から転出超過へ転じてます。

図2 都道府県別転入出超過者数(2018-2019)

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地方中枢都市に人口をとどまらせて、東京への流出を防ごうという「人口のダム」という考え方がありましたので、政令指定都市の転入出超過者数を図3で見てみます。地方圏の中では、札幌市、仙台市、福岡市、熊本市がプラスになっています。他の新潟市静岡市浜松市岡山市広島市はマイナスになっています。

広島県は人口流出傾向にありますが、広島市も人口のダムになりえていないことが窺えます。

 

図3 政令指定都市別転入出超過者数(2019年)

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図4は内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」が本格的にスタートした2015年から2019年までの札幌市、仙台市広島市、福岡市の転入出超過者数の推移を見ています。

札幌市、福岡市は地域での人口のダムの機能を果たしています。仙台市も東北各県、宮城県の移動がマイナスの中、プラスを維持しており、かろうじて人口のダムの機能を果たしています。

 

図4 札幌・仙台・広島・福岡市転入出超過者数推移(2015-2019)

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図5は2019年の年齢3区分別転入出超過者数の上位20市町を見ています。札幌市は道内から高齢者が集まっていることが指摘されてきましたが、若年層、生産年齢人口層でも人口を集めています。福岡市では生産年齢人口層でも人を集めています。仙台市広島市では高齢者人口増で人を集めていますが、若年層、生産年齢人口層での人を集める力が札幌市や福岡市に比べ弱いと言えます。

 

図5 年齢3区分別転入出超過者数の上位20市町(2019年)

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自治体で地方創生総合戦略の2期がスタートします。政府の地方創生大臣が適材適所で配置されましたので、5年後の結果が懸念されるところです。

 

 

地域イノベーションの課題 その2

先日のブログで、地域イノベーションの課題として、大きく分類して
(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及

(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます、と申し上げました。

本日は(2)イノベーションの領域とマネジメント について考えてみたいと思います。

 

(2)イノベーションの領域とマネジメント
地域イノベーションは、地域内の産学官組織の連携のみならず、地域外の企業が関与することにより加速されていました

地域イノベーションは、シーズの開発からその実用化に至る研究開発から生産まで一つの地域で一貫して行われているのではなく、地域内組織で行われるフェーズもあれば地域外組織を中心に行われるフェーズもあります。

シーズとなる技術の発明者と特許の権利者、部品、最終製品の製造者はそれぞれ違う地域に立地していることが多く、また、イノベーションの担い手は企業であり、その活動は行政の領域に拘束されるものではありません。

その結果、行政の領域とイノベーション活動の領域が異なっています


地域イノベーションは地域の主体的な関与があって成功します

しかし、自治体が地域内での成果に固執しすぎると、イノベーションで必要な機能や技術を持った地域外企業を排除する可能性があります。

地域外企業の参加は、イノベーションの加速要素であるが、同時にイノベーションの成果が地域外へ漏出する原因にもなりえます。

そこに地域イノベーションにおける活動と行政の領域性におけるジレンマがあります


また、地域内でのマンネリ化と負の固定化が考えられます。

地域を行政的領域として捉えると、そのイノベーション活動は、場合によっては地域内での関係構築が優先され、地域の既得権者を中心とした設計がなされ、地域振興は既存資源の活用に拘った縮小均衡的な動きがとられることがあります。

また、地域内での担い手となりえる能力をもった企業の存在は限定的であり地域の中で同じ企業ばかりが政策の受け手となってしまうことがあります。その結果、マンネリ化つまり負の固定化(ロックイン)に陥ってしまい、革新的なイノベーションを生むことは難しくなってしまいます。

 

外部の知識は、イノベーション・プロセスの空いたピースを埋め、固定化(ロックイン)を避ける上で重要な役割を果たしています

イノベーションとは、既存の価値観を打破して、新たな価値観を創出する活動です。よって、イノベーションインパクトをより大きなものとさせるためには、地域においては、成功体験を経路依存的になぞるだけでなく、新たな知(血)を導入し地域の親和的関係を壊すことによって、新たな経路を形成していくことも必要となってきます


地域イノベーション政策のアプローチは、地域活性化のための取組みであるため地域の都道府県が主体性をもって担っていくべきものとされてきました。

地域イノベーションの一層の創出を図るのであれば、研究能力や起業活動を盛んにして地域の科学技術イノベーションのポテンシャルを上げると同時に、地方自治体のみならず国も含めて、イノベーションや産業・ビジネスに関する深い理解と戦略立案及び政策運営のキャパシティの更なる向上が必要と言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

デトロイトに見る産業都市の盛衰

20世紀を代表する産業都市としてアメリカ・ミシガン州デトロイトが挙げられる。デトロイト自動車産業の興隆とともに発展していった町である。デトロイトの興隆から衰退の軌跡について見ていきたいと思います。

 

 

1. デトロイトとフォードの発展

自動車産業の立地する前のデトロイトの様子を見ると、1820年から30年代頃はエリー湖を行き来する船舶の造船所や水運を活用して運搬する小麦関連の製粉所や製粉機機関関連の産業が立地する地域でした。

1860年から80年代にかけては銅製錬所が立地し、その関連の銅合金、真鋳、金具製造が発展し、造船業に関連する塗料、ニス、蒸気発生機、ポンプ、潤滑装置、工具、ストーブなども立地するようになっていきました。


1903年にフォードが創業したが、デトロイト周辺に立地する機械産業や船の艤装関連産業をベースに自動車産業が発展していきました。1907年にフォードののT型発売が販売されると町は自動車の生産とともに大きくなっていきました。

 フォードにより自動車産業が形成されてと言えるが、フォードが自動車を産業したわけではなです。フォードの成し遂げたことは、生産の標準化と新市場の開発により、自動車を手ごろな価格で発売していったことです。

 (フォードの成しえたこと)

■生産の標準化
 大量生産「フォードシステム」大量生産システム
 製品の標準化:5000点以上の部品構成
 高い生産性
 自動車組み立て時間を12.5時間から1.5時間へ短縮

■新市場の開発
 自動車の価格が大幅に引き下げられた。
 価格:1908年には850ドル→1915年には440ドル
 中流農夫や工場労働者が買えるようになった。

その後、T型に固執したフォードのシェアは低下していきますが。GMなどが興隆して、町は拡大していきました。

 

デトロイトの最盛期は1962~1964年と言われています。その頃、スモーキー・ロビンソンダイアナ・ロスマービン・ゲイなどが所属するモータウンレコードは全米のミュージックシーンの中心的存在となり、公民権運動が盛んに起きな割れたり、経済力を背景にオリンピックの誘致活動が行われたりしました。フォードの最先端のスポーツカーであるマスタングが発売されたのも1964年でした。

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2.デトロイトの衰退

 デトロイトが衰退を始めたきっかけと言えるのが 1967年7月23日から27日にかけて起きたデトロイト暴動です。黒人暴動は警察の手には負えず、国境警備隊などの軍を派遣、死者は43名、1189名負傷、逮捕者は約7,200名とアメリカ史上最大の暴動と言われております。それ以降、白人を中心にデトロイト市から中流階級が流出していきました。

デトロイト市の人口は、最盛期の185万人から直近では70万人にまで減少しています。

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 ジェイン・ジャイコブズは『都市の原理』 で「都市の発展はイノベーションが持続的に生み出されることによってもたらされ、それが行えなくなった時に都市は衰退する。」と言っています。

デトロイトの発展は元々造船業や機械工業などの多様な産業基盤があったがゆえに、フォード式自動車大量生産システムを生みましたが、1920年以降自動車産業に集中し、効率な生産を追求することで、巨大企業への部品の供給は「単純な」仕事になってしまったと言えます。それゆえに地域としての創造性を失っていきました。

 

 3.再生への取組み

 その後のデトロイト市の荒廃はマスコミなどで報道されている通りです。しかし、最近デトロイトで再生への取組みが行われています。

 

JP Morganが1.5億$を投資したり人材を派遣しています。地元住宅ローン会社の社長Dan Gilbertが95の施設を21億$で買収・改修の予定です。

また、1988年に閉鎖されたミシガン中央駅(1913年開業)を2018年6月にフォードが買収し、自動運転に関するイノベーションハブ(拠点)として2022年から使用を開始し、そこでは2500人の従業員が勤務する予定です。

 

確かに、デトロイト市中心部は再開発が進み、ICT関連企業が入居したりして活気が戻ってきています。GMの本社があるルネッサンスセンターからFOXシアターにかけては治安はだいぶ安全になっていると言えます。しかし、FOXシアターの北部にあるウェイン州立大学の裏や中央駅の裏および中心部から8マイルロードまでの郊外部は今でもかなり治安が悪いと言えます。

 

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<参考文献>

都市の原理 (SD選書)

都市の原理 (SD選書)

 

  

都市は人類最高の発明である

都市は人類最高の発明である

 

  

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

 

 

フィールドワークにおける現場観察法

1回生の授業でフィールドワークの基礎編を担当していますが、その授業での指導内容を簡単に紹介します。

 

<基本姿勢>
新しいものに心を開く(好奇心をもつ)。
  些細なものでもいいから、不思議に思うこと、真新しいもの、矛盾、謎に目を向ける。
  意外なものにアンテナを広げる。
現場の視点に立つ。
  自分の立場を離れて現場の人の視点になって想像力を広げてみる。
  (注)現場といっても人や立場によって視点は変わってくる。

 

<観察姿勢>
五感を働かせて観る。
問いかけながら観る。(What、Who、Why、When、(Where)、How)
意識して観察する。(仮説を立ててみる)

  ↓
・何気なく視界に入ったものの意味に気づく。

 

<情報収集>
文字情報の収集: チラシ、パンフレット、看板、掲示
写真を撮る。
計る。測る。
・耳に入ってくるものを聴く。(うるさい。静か。他人の会話。)

味わう。
嗅ぐ。臭い・香り

 

<メモる>
メモを取る、書き留める(現場メモ)→見出しを付ける(言語化する)・写真も文字化してみる→集める→フィールドノートを清書する。(項目ごとにまとめてみる)

 

●フィールドワークで各自が持ち帰るもの
 不思議に思うこと、真新しいもの、矛盾、謎、戸惑い、意外なもの、気付き
  ↓
 現場で新たな問いを発見する。(問題発見できたらOK)

 

細かなメソッドは授業で教えられますが、好奇心や気づき(センス)などの基本的なことは指導でどうなることではないと思っています。

 

大学におけるアクティブラーニング

新年度から新教育指導要領が大幅に改定になり、小学校から教育の仕方が大幅に変わります。それを先取りする形で、大学でも文部科学省からアクティブラーニングを取り入れるように指導されています。

アクティブラーニングとは、学修者が能動的(アクティブ)に学修(ラーニング)に参加する学習法の総称であり、体験学習、調査学習、グループディスカッション、ディベート、グループワーク等を指します。

 

本務校の学部でも通常授業で、ペア学習、リアクションペーパー、グループディスカッションなど積極的にアクティブラーニングの手法が取り入れられており、アクティブラーニング型の講義がどれだけ実施されているかをカウントしています。

本学部生の特性かもしれませんが、学生もアクティブラーニング型で授業中に何か作業があったほうが良いというものが多く、一般的な座学の授業では90分間退屈で時間が持たないと言います。

 

ただ、通常授業でペア学習などを部分的に取り入れても深い学びにはなっていないく、知識が本当に習得できているのか疑問に思う点があります。

また、手法としてアクティブラーニングを取り入れることが目的化して、深い学びの検証が疎かになっている気がします。

 

それらの要因として、現行の大学のカリキュラムが90分×15回で2単位を基本として、幅広い知識を仕入れる広く浅いが学習が中心になっており、そのフレームワークの中で部分的にアクティブラーニングを手法として取り入れても深い学びにはならないと思います。

さらに、アクティブラーニングの目的として、アクティブラーニングによる気づきから自ら学習をすることが前提となっていますが、その講義が終了してしまえば、その自らの学習をどのように行っているかを、本当にやっているのか検証していません

(学生は講義の最後の振り返りで、「○○について知識が不足しているので今後勉強していきたいです」というようなことを言っても、単位を取ってしまえば忘却の彼方です。)

 

本当にアクティブラーニングを推進するのであれば、学生の学習の相談にのるチュートリアル制度が必要だと思います。

また、文系学部にとっては、いくつかの例外はありますがゼミこそがアクティブラーニングであると思います。なので、ゼミを90分×15回×週2回で4単位にするとか、ゼミを同学年で複数履修できるようにするとかして、じっくりディスカッション、グループワークができるゼミ型講義を増やす方が、通常授業での形だけアクティブラーニングを増やすより良いと思います。

 

将来的には、従来型の知識習得型の座学の授業はオンライン学習等に任せて、ゼミ系授業を複数こなしていくのが良いでしょう。

 

 

アクティブラーニングについては最近注目されており、選ぶのを迷ってしまうぐらい多くの関連書籍が出版されています。以下にいくつか紹介いたします。

松下佳代(2015)ディープ・アクティブラーニング

学習効果の視点からアクティブラーニングの手法について考察した本です。

ディープ・アクティブラーニング

ディープ・アクティブラーニング

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2015/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 ②渡部淳(2020)アクティブ・ラーニングとは何か

 アクティブラーニングのの取組み事例について知りたければいかが良いでしょう。

一番最近出されたアクティブラーニングに関する本です。

アクティブ・ラーニングとは何か (岩波新書)

アクティブ・ラーニングとは何か (岩波新書)

 

 

小針誠(2018)アクティブラーニング

アクティブラーニングが学校教育に導入されている現象を客観的(批判的)に捉えたい方にお勧めです。 

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者:小針 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書
 

 

中井俊樹(2015)アクティブラーニング

 アクティブラーニングを実践的に導入したい現場の大学教員向けのテキストです。

アクティブラーニング (シリーズ 大学の教授法)

アクティブラーニング (シリーズ 大学の教授法)

  • 作者:中井 俊樹
  • 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
  • 発売日: 2015/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)