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地域経済のレジリエンスって何?[解説]

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レジリエンスという言葉を聞いたことがありますか?
レジリエンスとは、回復力があるとか、抵抗力があるなどという意味で、最近では政策用語としても使われる言葉です。


欧米ではレジリエンスのある地域経済の構築を目指した取り組みが積極的に展開されています。今回は、そのレジリエンスという概念を地域経済にあてはめて考えるにあたり欧米の研究者での議論を中心に紹介していきます。

 

■背景

レジリエンスとは、心理学で主に使われていた言葉で、折れない心、打たれ強い心の要因として取り上げられてきました。
最近の日本でも、災害に強いレジリエンスのある地域をつくるとして国土交通省の「国家強靭化基本計画(2018年)」のような形で使われたりしています。


レジリエンスという概念を地域経済に適用する議論は欧米では2000年頃から比較的活発になってきました。


2000年のITバブルの崩壊、2008年のリーマンショックなど、経済は活況を呈するとその後には必ずといっていいほどバブルの崩壊が起こります。他にも自然災害気候変動などのショックでも地域経済は大きな変化を余儀なくされます。

リーマンショック以前には強い経済・大きな経済が標榜されていました。当時活況であった金融セクターや自動車産業を抱えた地域ではリーマンショック後に地域経済の落ち込みが激しかったです。

一方、急激な経済の落ち込みが少ない地域や落ち込んでも比較的回復が早かった地域がありました。

 

そこから、地域経済は早く大きく成長することを目指すより、ショックがあった時に大きな落ち込みがないことの方が重要ではないかと、地域経済のあり方に関する考えが改められてことから、レジリエンスという概念が研究者や政策担当者に注目されるようになりました。

 

 

■地域経済におけるレジエリエンスとは何か

先述した通り、地域経済のレジリエンスについて研究者の間で議論が活発にされています。


そこでイギリスの経済地理学者であるマーティンとサンレー(2014)は、地域経済のレジリエンスを以下のように定義づけました。

 

<地域経済におけるレジリエンスの定義>

地域または地域経済が、必要に応じてその経済構造および社会・制度構造に適応的な変更が加わることによって、地域経済の発展成長経路が市場、競争、環境の衝撃に耐える、または回復する能力。物理的、人的、環境的資源をより生産的に活用することによって、これまでの発展路線を維持・回復し、あるいは新たな持続可能な発展路線に移行すること。(By Martin and Sunley 2014,p.13)

 


では、地域経済におけるレジリエンスとはどのようなものなのか、以下に具体的に見ていきます。

 

レジリエンスのフェーズとプロセス>
ショックを受けた地域経済がショックから回復するのは、ショックを受けたらそのまま回復するのではなく、4つのフェーズを経て回復します。

まず、ショックを受けて地域経済が脆弱になります。
脆弱になった地域経済に耐性が生まれます。
耐性が生まれた地域経済が堅牢になっていきます。
堅牢になっていた地域経済が回復していきます。

 

レジリエンスのプロセス:脆弱性→耐性→堅牢性→回復性

 

レジリエンスのタイプ>
ショックを受けても地域経済は回復度が異なってきます。そこでレジリエンスには3つのタイプがあります。


1つ目-ショックからの回復(元に戻るちから):ショックを受けた地域経済が元のレベルに戻るタイプ
2つ目-ショックを吸収:ショックを受けた地域が、その後ショックは吸収するが元とは違い、やや劣化した状態になるタイプ
3つ目-ショックにポジティブに適応:ショックを受けた地域が、元のレベル以上に進化的に姿を変えるタイプ

 

レジリエンスの構成要素>
地域は持てる資源やコンテクストが異なります。そこで地域によってレジリエンスは多様と言えます。しかし、地域経済のレジリエンスには共通点があり、レジリエンスには5つの構成要素があります。


1.ビジネス・産業構造
2.労働市場
3.金融
4.ガバナンス
5.ローカルの独立した機関と意思決定

 

これら5つの要素が合わさりながら地域経済のレジリエンスを決定づけているとされています。


レジリエンスにとって重要なこと>
レジリエンスとって重要なことは適応能力です。レジリエンスとは、ショックでも変わらないことではなく、変化に対応するダイナミズムです。

 

適応能力としてのレジリエンスとして必要なことは、地域資源はもちろんのこと、機関や人を結びつけるコーディネート力、地域の機関や人が連携して行う学習能力、地域の産学官の諸機関を結びつけたガバナンスです。

 

レジリエンスのある地域経済を構築していくための政策のゴールとしては、新たな発展経路を作れるかどうかです。それはつまり地域の産業構造の再構築を意味します。

 

よって、地域経済にとってレジリエンスとは歴史的な進化プロセスであり、関連する多様性があることがレジリエンスにつながります。従来、クラスターなどで集中化することが発展の方策と考えられていましたが、選択と集中による集中化では経路が見つけにくくなり、それにともないショックからの回復が遅くなります。なので、経路が見つけやすい多様性が求められます。

 

また、レジリエンスは地域(ローカル)の力だけではなく、ナショナルやグローバルな力が必要となります。それらの地域外の力を地域に導入することでレジリエンスが強まります。そのためにも開放的であることが求められます。つまりは、内発力と外発力のバランスが必要と言えます。

 

 

■まとめ

・地域経済のレジリエンスとは、ショックから元に戻ることだけを意味するのではなく、新たな形態に再構築することを意味する場合もあります。

 

レジリエンスは、地域資源が重要であり、同時に産業・ビジネス構造、労働市場、金融、ガバナンス、および機関の意思決定で構成されています。

 

レジリエンスで必要なことは、組織間の連携を迅速で柔軟に構築して対応ができることであり、失敗などを学習により修正していくことです。また、そのためには機関や人の多様性、開放性であることが求められています。

 

 

■日本への含意
日本は災害が多いので、レジリエンスの議論はどうしても土木整備中心になり、コンクリートで固めて強い地域を作るというように捉えられます。
しかし、レジリエンスの本来の意味は、ショックにも適応できる柔軟さやしなやかさというものです。

 

最近の日本の地域政策では目指すべき目標やビジョンが曖昧と言えます。今後の地域経済のあるべき姿として、量的成長だけを求めるのではなく、ショックに強いレジリエンスのある地域経済づくりというコンセプトは使えるのではないでしょうか。

 

 

■参考文献

Ron Martin, and Peter Sunley (2014) On the notion of regional economic resilience: conceptualization and explanation. Journal of Economic Geography, pp. 1–42

 

 

レジリエンスについて理解したい人におすすめの本