地域戦略ラボ

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人口減少社会において持続可能な地域をつくれるのか?

 『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)』 が書き示すように、日本の地域は人口減少により将来消滅すると言っても決して驚くような言説ではなくなりました。

 

下図は愛媛県八幡浜市の人口動態を示したグラフです。1950年に7.3万人だった人口が2010年には約半分の3.8万人にまで減少しています。八幡浜市60年間以上も人口が減り続けています。

八幡浜市は元々、漁業とミカン栽培で栄えた地域でした。魚肉ソーセージを初めて生産したのは八幡浜市の西南開発という会社です。太陽石油も元々は八幡浜市で創業されました。しかし、漁業は漁獲高が大幅に減少し、ミカンも健闘していますが昔ほどの生産量はありません。

さらに、山がちな地形で平地が少ないため、隣接市(大洲市西予市)で宅地開発が行われ、人口が流出していきました(両市とも今では人口が減少していますが…)。

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愛媛県八幡浜市所在地

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八幡浜市の人口動態

人口は減少していますが、地域は消滅していません。集落がいくつかなくなったり、商店街が閉まったり、町の個人クリニックがなくなったり、バスが減便になったりしています。

しかし、商店街がシャッター通りになっているのは八幡浜だけではなく、病気になれば市立病院があるし、バスがなくなっても自家用車があるので、生活はできるので人々は本当の意味で困っていると感じない状況です。

 

人口が半減すれば、地域も大幅に変わっているはずである。しかし、60年に渡る変化であるので、そこの住民は緩慢な衰退に適応しています。多少の不便には目をつむり、日々の生活を送っています。

 

地域に人間関係や信頼、生活文化などの社会関係資本が埋め込まれていれば、地域に対する思いが深くなり地域に骨を埋める行動をとるでしょう。一方、そうでない若年層は地域から出ていきます。

 

人口移動には以下3つのモデルがあると言われています。

①所得格差モデル (住民は効用最大化を目指して行動する〈仮定〉)
効用格差をもたらす最大の要因が所得(賃金)格差である。これは、現住地と移動先で獲得できる所得(賃金)の格差が人口移動を引き起こすという理論である。

②就業機会格差モデル (仕事があるかどうか)
労働市場は完全ではなく、賃金は所得(賃金)格差モデルが想定するほど伸縮的でないとする立場から、人口移動は所得(賃金)格差よりも就業機会の格差に依存する。

 ③人的資本モデル (投資行動として考える。一時的でなく生涯給与)
移動することで将来にわたって得ることができると期待される便益とそのために負担しなければならない費用を比較して、移動の是非と移動先が決定される。

 

なので、チャンスを多く抱え、地域に大きな社会関係資本がなく、危機感の大きな若者たちは地域から出ていくという選択をしていきます。

 

地域の危機感とは継続的ではないと言えます。危機感のある人は地域に居続けて対策を打っていく人たちもいますが、地域外に出てしまうという人もいるということです。つまり、本当に危機感を持ち続けて地域を良くしようとしている人たちは少数にすぎないのです。地域には多少の不便に慣れてしまった高齢者や、富農家、公務員、医者など所得がある程度確保できている職業の人達しか残らなくなります。

  

2015年の1期まち・ひと・しごと総合戦略立案時の方が、現在の2期より話題になり、もう少し地方をいうものをどうしたら良いか考える機会があったように感じます。

 

 <持続可能な社会を考える参考文献>

持続可能な社会を考える文献はSDGsの流れもあり、近年多く刊行されています。その中で学生の学習に役立ちそうな文献をいくつか紹介していきます

 

①筧裕介(2019)『持続可能な地域のつくり方』

地域を生態系と捉え、その活動の中心を対話としています。その対話のコミュニティをどのように育て継続(教育)していくのかが地域の持続可能性の鍵と言えます。地域のデータが豊富に紹介されており、現状認識するのに役立ちます。

持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン

持続可能な地域のつくり方――未来を育む「人と経済の生態系」のデザイン

  • 作者:筧裕介
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2019/05/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 ②広井良典(2019)『人口減少社会のデザイン』

定常化社会を提唱している著者による人口減少社会の社会コミュニティー論です。ただ、人口減少下において社会の定常化を求めるのであれば、一人ひとりは今までよりも一生懸命自転車のペダルを漕ぐか、頭を一生懸命使っていいビジネスを考えなければいけなくなり、仕事やビジネスについてより一生懸命にならなければならないことを意味するでしょう。

人口減少社会のデザイン

人口減少社会のデザイン

 

 

③河合雅司(2019)『未来の地図帳』

 2045年、25年後には全国47都道府県は維持できないとしています。愛媛県は現在の139万人から101万人になるようですが、現在の高知県香川県徳島県の人口より多いわけで、人口減少により自治体の枠組みが持たないとは言いきれないような気がします。

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書)

未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること (講談社現代新書)

 

 

 ④NHKスペシャル取材班(2017)『縮小ニッポンの衝撃』

マスコミが取り上げる未来社会像であるので衝撃的です。しかし、農村集落が消滅していたり、公共サービスが得られなくなったりしているのは珍しいことではないような気がします。それだけ、我々は不都合、不便になることに飼いならされているのかもしれません。

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

縮小ニッポンの衝撃 (講談社現代新書)

 

 

 ⑤内田樹(2018)『人口減少社会の未来学』

11人の知識人による日本の地域の将来像を示している本です。導入として、多様な未来像に触れてみたければとても参考になるでしょう。

人口減少社会の未来学

人口減少社会の未来学

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/04/27
  • メディア: 単行本