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ピッツバーグに見る産業都市の盛衰

2月18日のブログで、20世紀を代表する産業都市としてデトロイトを紹介しましたが、本日はもう一つの代表的な重工業都市であったペンシルバニア州ピッツバーグを紹介します。

 

1.ピッツバーグ概要

 

ピッツバーグとはペンシルバニア州西部に位置する人口約31万人(都市圏人口約266万人)の産業都市です。人口の推移として1960年代までは約68万人程度いましたが、その後、地域の基幹産業であった鉄鋼業の衰退とともに人口は減少していき、現在は約30万人程度となっています。

 

地域資源として、ピッツバーグ大学(1787年)、 カーネギーメロン大学(1912年)とレベルの高い大学が市内に立地しています。主な産業としては、医療、 教育、 金融、 ハイテク(ロボット産業)などが挙げられます

 

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ピッツバーグ市の人口動態

 

2.地域経済史 USスチールの設立

 

地域産業の形成要因として元々アパラチア山脈に位置し、石炭が産出したことから始まります。以下地域経済の年表を示しています。
19世紀前半 鉄鋼・兵器の生産拠点
1860年   石油精製所の開設
1875年   アンドリュー・カーネーギーがエドガー・トムソン・スチール会社設立
1901年   USスチール創設
1940年~1984年 製鉄業の雇用の減少 9万人→4.4万人 失業率18%
2004年   Act47適用 財政破たん
2009年   G20サミット開催 

 

なぜピッツバーグで製鉄業が盛んになったのか、いくつか要因がります。

先ず、戦略的な場所という地の利です、イギリスによるアメリカ開拓時、フレンチインディアン戦争では前線基地(オハイオ領土)として要塞が建設されました。
それは、オハイオ川、アレゲニー川とモノンガヒラ川と3つの川に囲まれた恵まれた水運があるからです。
南北戦争時にも軍需産業拠点となり、鉄鋼や兵器の生産拠点となりました。

ピッツバーグの製鉄業を世界に知らしめたのはアンドリュー・カーネギーの貢献が大きいです。

1835年スコットランド生まれ、

1848年に一家でピッツバーグに移住。その後、電信局通信士などを経て、

1872年にエドガー・トムソン鉄鋼会社を創設しました。鉄道レール銑鉄で事業を拡大し 鋼鉄への転換に成功し、巨大工場を建設し、規模の経済を達成しました。また、工程の垂直統合を図り、鉱山や橋梁会社などを買収していきました。

1889年にはアメリカ鉄鋼生産1位になり、

1892年にカーネギー製鉄を創設、

1901年にJ・P・モルガンに約4.8億ドルで売却し、USスチールが誕生しました。

彼はビジネスで蓄えた富をもとに慈善事業を積極的に行いました。ピッツバーグ市内にあるカーネギー博物館、カーネギー・メロン大学は彼の寄付をもとに設立されたものですし、ニューヨークのカーネギーホールも彼の慈善活動の賜物です。

 

しかし、1960年代から技術革新の遅れや顧客ニーズへの対応の遅れなどから、アメリカの製鉄業は競争力を失っていきました。それと同時にピッツバーグも衰退していきました。

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アンドリュー・カーネギー

3.復活の胎動  メディカルコンプレックスとイノベーション地区の形成

 

ピッツバーグの復活の機動力となったのは2つの大学です。

下の写真は1971年オープンした”US Steel本社ビル”です。64階建、ピッツバーグ一の高さを誇り、USスチールの経済的繁栄を象徴するです。しかし、現在では、USスチールはテナントとして入居しているのに過ぎず、UPMCが最大のテナントであり、塔屋にUPMCのサインがあります。このようにピッツバーグの地域の主力産業は鉄鋼業から医療産業へと転換が図られています。

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US Steel Tower

UPMCとはピッツバーグ大学メディカルセンターの略称です。UPMCは、全米有数の規模を誇るメディカル・コンプレックスで、職員数約65000人、年間収入約120億ドル(JETRO2017)と大企業と言っても良い規模の組織です。

 

アメリカには、ミネソタ州ロチェスターミネアポリス)、テキサス州ヒューストン、
オハイオ州クリーブランドなどにメディカル・コンプレックスがあります。

メディカル・コンプレックスが形成される要因として、大規模(大学)病院、産業化の受け皿となる企業の存在、政府のバイオ・製薬分野における多額の研究開発投資、国の
高い医療保険が考えられます。

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UPMC

 

カーネギーメロン大学は、ロボット工学、機械学習AI、自動運転の研究が盛んで世界的に有名な大学です。

カーネギー・メロン大学との連携を求めて、GoogleUberなどのシリコンバレーの企業が大規模な研究所を市内に建設したり、大学発ベンチャーの立地が進み、大学と企業が連携する場所としてイノベーション地区が形成されています。