イノベーションのための学習と空間(3)関係構築のための信頼と評判
イノベーションのための学習と空間として
(2)イノベーションの価値連鎖 について見てきました。
今回は(3)関係構築のための信頼と評判 について考えてみます。
イノベーション創出の取組みでは、多様な組織間で関係を構築することは必要であるが、諸組織間の関係構築が容易に行われるためには信頼などの社会関係資本が重要だとされています。
しかし実際には、企業と企業のアライアンスや企業と大学との産学連携における関係構築では、相手の研究開発能力の高さなどの噂や評判から関係先が選択され、信頼がなくとも契約を結ぶことにより信頼が担保さて関係が構築されています。
また、事例の知的クラスター創成事業や地域結集型共同研究事業などでは、国のプロジェクトとしての制度的枠組みや、企業間では行政や商社などを媒介に信頼を担保し企業は参加していました。
つまり、企業は仮の信頼の中で関係を構築して、その後に真の信頼を構築していたと言えます。
真の信頼の構築には時間がかかり容易ではないです。オープン・イノベーションにおいて、多くの組織や人をより迅速に集め、チームを作るためには、信頼の構築を行ってからでは時間がかかります。
よって、この時の関係構築には、信頼ではなく評判が重要な媒介となっています。
企業間や産学間では、直接的な信頼関係はなくとも、評判を糸口に関係を構築し、追認的に信頼を形成していくこともできます。
ネットワーク上で確立された地域の評判は、人材や投資を呼び込みやすくさせるという働きがあります。
地域の競争優位性を確立するために地域ブランドの構築を図る必要があります。
ブランドとは、意思決定に至るまでの時間やコストを削減する識別機能や、購買リスクの回避に役立つ品質保証機能があります。
その意味においてイノベーションに関する地域ブランドとは、連携先組織の研究開発に関する能力や機能に対する評判を意味します。
共同研究開発などのオープン・イノベーションのパートナーは必ずしも信頼に基づき関係が構築されるのではなく、パートナー候補の能力に関する評判などにより選ばれて、関係が構築されます。
つまり、イノベーション拠点における地域ブランドとは、オープン・イノベーションにおいてパートナーを探すための時間やコストを削減し、そのパートナーの能力が適切かどうかのリスクを回避する機能があります。
イノベーションの拠点としての卓越性を確立するためには、学術的に高度な研究を行っていれば自ずと確立されるのではなく、戦略的に評判を高める地域ブランドの構築が重要となっています。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆