地域戦略ラボ

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[教材動画]シリコンバレーの成立ちがよく分かる動画

大学の授業「産業立地論」「地理学入門」でシリコンバレーについて解説しているのですが、学生のイメージがわきやすいように動画を授業で流しております。

 

Animated timeline shows how Silicon Valley became a $2.8 trillion neighborhood(3分54秒)

www.youtube.com

(音声は英語なので、字幕をONにして自動翻訳を日本語にすれば訳はちょっと変ですが意味は通じます。)

 

この動画は、

1)モフェット空軍基地をベースにした軍事産業からHPが成長して、

2)ショックレー教授が優秀な人材を引き連れてパロアルトに戻ってきて、

3)彼らが裏切り者の8人として半導体関連企業を立ち上げて、

4)1971年に”シリコンバレー”と命名されて、

5)その後、多くのIT関連企業が育っていった、

ということを説明しています。

 

シリコンバレーの礎はアップルではなくHPであり、スタンフォード大学の単なる産学連携で発展したのではなく、軍産複合体として成長していったとハッキリ言っています。スタンフォード大学のターマン教授については言及していません。

 

下の図はシリコンバレーの形成プロセスを示したチャートです。

シリコンバレー形成のポイントとして下記3点があげられます。

スタンフォード大学ターマン教授の戦略と行動力
・軍やNASAからの研究補助金を獲得し、大学の研究能力の向上を図った。
・地元企業(例 ヒューレット・パッカード)の創業を促し、大学との連携を図った。
・ローカル企業に対し、大学院教育コースを提供したり、企業コンサルティングを行うことにより大学への収入を増やした。


②ショックレー半導体研究所の立地による優秀な技術者の流入
ベル研究所にいたトランジスターの発明者であるショックレー博士の研究所を誘致することにより、彼の部下である優秀な技術者達が地域とどまり、その後インテルをはじめとしたハイテク企業の創業と発展の礎となった。


スタンフォード大学の企業家精神と積極的な産学連携制度
スタンフォード大学実学重視の理念があり、ビジネスに協力的である。
・失敗を否定するのではなく、経験を活かし再挑戦する人々を歓迎する風土である。
・インド人や中国人などの移民を受け入れる開放性により彼らも地域で起業を行うなどしている。

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シリコンバレーの形成プロセス

 

 

[解説記事]都市地域(city region)って知っていますか?

都市地域ってご存知ですか? 以下にイギリスの研究動向を中心に都市地域について簡単に解説したいと思います。

 

 <目次>

 

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 1.都市地域がなぜ注目されているのか

(1)都市地域のはじめ

 都市地域とは決して新しい議題ではないです。カリフォルニア大学ロサンゼルス校のScott(2001)の一連の議論では、世界のメトロポリスを中心としてグローバルリゼーションにおける都市地域の役割についてコンセプト化されていました。都市地域の議論の嚆矢としてDickinson(1948)が都市地域という概念が発見されことに始まります。


Scottの議論から約20年余りがたち、再び都市地域が学術界だけではなく政策関係者間でも注目されています。それは、経済開発のガバナンスの大きさとして、サブナショナルな地域から都市を中心とした都市地域の妥当性から注目されています。都市地域が再注目されたきっかけとして、イギリスにおける経済開発主体がサブナショナルのRDAから都市地域のLEPへ変更したことが挙げられます。それに伴いエコノミック・ガバナンスのスケール検討の際に再定義されました(Shaw and Tewdwr-Jones 2017)。

 

 (2)地域から都市地域へ

なぜ、国の地域開発戦略のスケールが変更したその理由として、産業分野別アプローチから、領域的なアプローチに変わったことが挙げられます。地域政策では、多様な分野にまたがる政策を統合させるため、多くを制度を調整するのに適している点があげられます。

Turok(2008:153)は内発的発展イノベーション主導の経済開発を行うのに都市地域は適切な規模であると主張しています。Rodriguez-Pose(2009:50)は、都市地域は政策介入に理想的な規模であるとしています。2000年のNew Local Government Network (NLGN 2000)では都市地域が経済開発主体としてふさわしいとしました。都市地域は経済開発の政策を統合し、実行していくのには適当であると認識されるようになっていきました。(Shaw and Tewdwr-Jones 2017)。

 

グローバルな競争下においてその競争の舞台になるのが都市という集積地であり、他地域とのネットワークを備えた都市には都市の活動を支える後背地が必要です。そのため、都市地域がグローバルな経済競争において都市地域が活動や資源・政策のコーディネーションや統合を図るうえで有効なスケールです(Scott2001, Storper and Manville 2006, Harrison2017)。

都市地域の役割は国際競争下においてビジネスコミュニティ―を形成して、都市中心部に投資を呼び込むことであり、そのトリクルダウン効果と波及効果を中心部から周辺部へ広げることにあるといえます。


Harrison(2012:1247-1248)はイングランドにおいて都市地域という概念が積極的に受け入れられている背景として6つの理由を挙げています。

1)既存の空間政策の失敗による、試行錯誤の結果として試されている。

2)権限移譲と脱中央集権の動き、

3)地域格差の政治的な動き、

4)経済的に良いパフォーマンスの都市は機能と領域が一致している点、

5)近隣の自治体間の関係の決定要因は協働ではなく競争が決める、

6)空間計画において都市地域が“ソフトスペース”として重要な空間として認識され始めたことがあげられます。
 

2.都市地域の論文数の推移

 (1)研究論文件数の推移

下記のグラフは都市地域に関する研究論文の推移です。Scopusで"city region"をキーワードに2000年から2019年までの公表論文数を抽出しました。データでは、“City region”に関する研究論文が2000年には28件であったものが2019年には181件となり2000年代から右肩上がりで増加しているのが見て取れます。

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都市地域(city region)論文件数推移

 

下記のグラフは都市地域に関する研究論文の2000年から2019年に公表された都市地域に関する研究論文の1725件の国別の割合を示しています。その中で、イギリスにおける研究成果の比率は24%、次いでアメリカが15%、中国、カナダが9%となっており、イギリスでの研究が盛んであることが示されています。都市地域に関する議論はイギリスで中心に行われてきたと言えます。

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都市地域(city region)論文国別(2000~2019年)

 

3.都市地域の定義

それでは、都市地域と類似する用語として都市圏(urban area, metropolitan area)があるがと何が違うのでしょうか。Rodríguez-Pose(2008:1027)は、都市地域は大都市圏に相当し、集合都市、広域都市圏(Conurbation)は都市が広がり連坦したものとしています。

都市地域とは定義は厳密にはされていないで広く使用されていることばであり、専門家によっても定義・認識がまちまちであるのが実態です。

 

そこで、以下に何人かの専門家の定義を示します。 

Davoudi, 2003, p. 986:都市地域とは、中核都市の通勤圏としての後背地を含むだけでなく、中核都市に経済的、社会的、文化的に強く影響を受けているエリアである。

 

Scott & Storper, 2003, p. 581 :都市地域は経済活動の相互関係が濃密な場所として国の経済のエンジンであり、集積の経済やイノベーションのポテンシャルの高さにより生産性が高い地域である。

 

TEWDWRJONES and MCNEILL (2000) :都市地域は、1つの行政単位を超えていくつかの都市の後背地を含んだ戦略的・政治的行政管轄の及ぶ範囲である。

 

イギリス政府(ODPM 2005):都市地域とは、中核都市と周辺の後背地のネットワークが形成される機能的な相互関係を持った地理的なエリアであり、都市と郊外のエリアはハブアンドスポークの関係に似ている。

 

つまり、都市地域に関して専門家の共通認識は、中核都市と後背地と機能的リンクしており、サブナショナルにおける領域的なユニットであり、ネットワーク化された大都市の地域です(Hall and Pain 2006)。また、経済的機能のユニットであり、経済成長のエンジンをしての機能をもっています(Beel et al.2016、Rodríguez-Pose(2008:1036))。

 

都市地域については、最近、都市地域を運営するためのガバナンスが課題となってきています。今後、その都市地域のガバナンスについて動向をフォローしていきたいと思います。

 

科学技術イノベーション政策に地政学的視点が必要である・

イノベーションの場所を巡る競争は、地域の問題ではなく国の問題である。

 

各国の科学技術イノベーションの振興は、科学技術における地理的中心の構築をめぐる競争でもある。それに伴い競争力を持った産業を有する国の顔ぶれも変遷してきた。

その産業競争力の変遷は技術力に裏打ちされたものであり、科学技術のヘゲモニー(覇権)を握ることが国や地域の盛衰を決すると言ってもよい(薬師寺1989)。

現在のイノベーションのためのプラットフォームの構築競争は、知識資本主義における地政学的な動きと言える(Moisio 2018)。


そして、科学技術はイノベーションと強く結びつくことにより、国富の創出につながる。そのため、科学技術とナショナリズムの結びつきがつよくなっている。これらの競争はイノベーションの拠点構築及び圏域の競争であると同時に国家間の競争となっている。

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イノベーションは単なる技術開発ではなく、経済的・社会的価値を生むために多様な知識、人材、ノウハウ、資金などを動員する総力戦である。

イノベーションは、知識を創造・統合・展開させるプロセスにおいて、知識を迅速に創造するために知識を創造するプレイヤーを効果的に調達し、関係を構築させる必要がある。

その拠点はイノベーションの創出を図る企業や研究組織が集うプラットフォームとなっている。プラットフォームとは単なるイノベーション・コミュニティを指すものではない。継続的な仲間集め、つまり囲い込みを行うことで、経済圏の創出を図るものである。

プラットフォームでは、仲間づくりを行い、技術の標準化を図り、ひいては科学技術のヘゲモニー(覇権)を掌握することを目指すものである。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』(一部改筆) 

 

 <テクノ地政学を考える書籍>

米国と中国のハイテクスタートアップを紹介してます。あまり米中の地政学的対立を煽ってはいません。企業動向を知りたければこの本が良い。 

テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち

テクノロジーの地政学 シリコンバレー vs 中国、新時代の覇者たち

 

 

 米国企業であるGAFAの寡占は西側諸国にとって大きな問題であるが、企業分割によりその力を剥いでしまうと、中国企業にやられてしまうでしょう。

GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略

GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略

 

 

 表題は『テクノロジー思考』となっているが、内容は米国VS中国です。

テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」

テクノロジー思考 技術の価値を理解するための「現代の教養」

 

 

 古典と言えるでしょう。でもテクノ地政学については薬師寺先生が1989年に提言しています。

テクノヘゲモニー―国は技術で興り、滅びる (中公新書)

テクノヘゲモニー―国は技術で興り、滅びる (中公新書)

 

 

科学技術に場所は必要である

科学とは、真理の追究であり、文脈に依存しない普遍的かつ客観的な知識であるとされている。科学者は、知識に関して普遍性を好み、特殊性を忌み嫌う傾向にあると言える。


しかし、科学が生れる空間とは特定の場所(ローカル)である。科学という知識が生れるためには、経済力を持ったパトロンがおり、創造的な空気がある特定な場所という空間的要素が必要である。

つまり、科学に国境はないと言われるが、歴史的に見れば、科学は特定の場所で生まれている。


第二次世界戦後、アメリカでは、科学は基礎研究を通じて国家と社会の進歩・発展に貢献すべきである、とされてきた。それ以降、各国は国家計画に基づき科学技術およびイノベーションの推進を図っている。

国家がパトロンとなり科学技術に多額の資金を投入しているのは、科学技術により国富が創造されるからであり、科学技術が経済成長や国威発揚のための手段となっていった。


科学は技術と結びつき科学技術となることで、主に政府から多額の資金を集めることになった。

さらに、近年の緊縮財政の折り、政府は科学技術予算を確保するために政策としてイノベーションとの結びつきを強化していった 。そのことにより、科学は、イノベーションの手段と位置づけられるようになったと言える。

つまり、科学は技術と結びつき科学技術となることより社会的な有用性が問われるようになっていき、更にイノベーションと結びつき科学技術イノベーションとなることで経済的な有益性が問われるようになっていったと言える。


野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

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科学の地理学: 場所が問題になるとき

科学の地理学: 場所が問題になるとき

 

 

大学入学改革と大学教育

センター試験お疲れ様でした。

 

センター試験は今年が最後で、来年からは新しい試験になるはずでしたが、2024年度の入試まで中途半端な制度が続くのでしょう。

センター試験に不足点があって改革しなければいけないということですが、

今のセンター試験を受けて入学してくる学生は、大学では学力の点では大きな問題はなく、良い方だという印象です。

 

今後、センター試験を受けず、AO試験の入学者が増えて行けば、大学入試改革で求める学力を具備していない生徒が増加するでしょう。

また、文部科学省からの指導で大学ではアクティブラーニングが増えています。知識のない学生がアクティブラーニングを重ねても、これで深い思考ができる学生が育てられるのでしょうか?

また、こちらも文部科学省の指導ですが、大学では留年生, 退学生をあまりださないようにとされております。

 

日本の大学は入口志向が強いので、入口でしっかり制度を固めて良い学生を集めたいということですが、AO、推薦、付属高上がり(特に私大)の増加でそれも崩れてきていると思います。

さらに付け加えると、就職活動が早まり本格的に専門の勉強が始まる3年生の後期から4年生まで勉強ができません。

入口の議論ばかりではなく、出口(卒業基準能力)を社会的に明確にして、そのために必要な大学教育の内容をしっかり議論していくことが必要なのではないでしょうか。それに達しなければ留年、退学もやむを得ないとする。

 

大学入試改革ばかりが問題視されていますが、それと合わせて本質的に議論をしていかなければならないのは大学教育内容ではないでしょうか。

 

Twitterも今更ながら始めました。

研究の仕方や研究内容の公表の仕方が今後大きく変化していくだろうと思い、ブログも日記的なものから研究用のものにリニューアルを図っていくのと同時に、twitterを始めました。

SNSは情報の質も良くなく、コミュニティも内輪受けであまり好きではなかったですが、定着&成熟してきて無視出来ないなと思うようになりました。

noteもこれからやって行こうかとお考えています。

論文を書いたって読者は300人程度だし、専門書籍も発行部数は500部程度なので研究成果の届く範囲はとても狭いです。

社会に広く知られることが研究にとって価値があることとは必ずしも言えませんがませ、SNSコミュニテイーの内輪受けは学会コミュニティーの内輪受けよりある意味健全かもしれません。

今後、個人的な社会実験としていろいろなメディアを活用して行きたいと考えております。

突然ながらブログ名を「地域戦略ラボ」に変えました。

突然ですが"think region"というブログ名を「地域戦略ラボ」と変更しました。

Think region は英語でちょっととっつきにくいので、ブログの趣旨が分かりやすい名前にしました。

(ちょっと気分転換したかったというのもあります。)

これからも宜しくお願いします。

『イノベーションの空間論』という本を出版します。

2018年8月19日のこのブログでも書きましたが本を執筆しておりました。

 

think-region.hatenadiary.jp

 

それから1年5か月いろいろと紆余曲折があり、ようやく古今書院で3月末を目標に出版することが決まりました。

現在初校を校正しています。

 

本の内容は、前著『イノベーションの地域経済論』でも扱ったように、イノベーション経営学イノベーション・マネジメント論)と地理学からアプローチし、イノベーションの創出活動における空間性について考察しました。

イノベーションの創出には地域的偏在が見られるが、地域のみでイノベーションが作られるのではなく、地域は様々な活動の結節点であり、イノベーションの空間とは多層的な構造をしていることを示しています。

 

本の要約としては以下の通りです。
イノベーションと地域の関係を考える時、イノベーションのための地域と地域のためのイノベーションという2つの視点がある。

前者はイノベーションの拠点、後者は地域イノベーションの議論に通じる。

イノベーションとは知識の創造と連鎖であるので、イノベーションの創出においては知識創造を促進させるコンテクストが集中する場所という具体的な物理的空間が必要となる。

世界各地ではイノベーション創出のための知的集積拠点の整備が進められているが、日本のイノベーション政策も空間的視点が必要である。

 

章節構成としては

序章 イノベーションにおける空間とは 
1.なぜイノベーションにおいて空間性が問われるのか 
2.課題設定と研究の目的 
3.本書における空間に関連する用語の概念整理 
4.本書の視角 
5.本書の構成 
第Ⅰ部 理論編 
第1章 イノベーションと空間に関する理論 
1.イノベーションと知識創造 
2.イノベーションの組織論 
3.イノベーションの地理学 
第2章.地域イノベーションに関する理論と政策 
1.地域イノベーションの理論と背景 
2.地域における科学技術イノベーション政策 
第Ⅱ部 事例編(地域イノベーション) 
第3章 香川県における希少糖の実用化の展開 
1.はじめに 
2.希少糖の概要と研究開発 
3.産学官連携体制 
4.事業の成果 
5.希少糖の研究開発と知識連鎖 
6.地域経済への貢献 
7.希少糖の実用化における空間的考察 
8.おわりに 
第4章 青森県におけるプロテオグリカンの実用化の展開 
1.はじめに 
2.プロテオグリカン研究開発の経緯 
3.産学官連携体制 
4.事業成果 
5.プロテオグリカンの研究開発と知識連鎖 
6.地域経済への貢献 
7.プロテオグリカン実用化における空間的考察 
8.おわりに 
第5章 熊本県におけるマグネシウム合金の実用化の展開 
1.はじめに 
2.マグネシウム合金の技術的特性と製造 
3.熊本大学におけるマグネシウム合金の実用化の取組み 
4.KUMADAIマグネシウム合金の知識創造の特徴と課題 
5.KUMADAIマグネシウム合金実用化における空間的考察 
6.おわりに 
第6章 北陸地域における炭素繊維複合材料の実用化の展開 
1.はじめに 
2.炭素繊維複合材料の技術特性と産業動向 
3.北陸地域における炭素繊維複合材料開発の展開 
4.新産業創造のための制度展開とクラスターの変化 
5.炭素繊維複合材料の実用化における空間的考察 
6.おわりに 
第7章 地域イノベーションの展開に関する考察 
1.地域イノベーションの特徴 
2.地域イノベーションにおける学習と空間 
3.地域イノベーションの課題
第Ⅲ部 総括編 
第8章 オランダ・アイントホーフェンにおけるイノベーション空間の構築 
1.はじめに 
2.アイントホーフェンにおける都市再生の取組み 
3.企業戦略の変化と都市の変容 
4.アイントホーフェンにおけるイノベーションの空間 
5.おわりに 
第9章 イノベーションと空間 
1.イノベーションにおける学習と空間 
2.イノベーションにおける地域 
3.地域におけるイノベーション 
終章 イノベーション空間の創出に向けて 

 

大体230頁ほどの本になる予定です。

出版日・価格など未定ですが、具体的になりましたらお知らせいたします。

 

 

 

 

学部のHPに研究紹介が掲載されました。

愛媛大学社会共創学部のHPに私の研究紹介が掲載されました。

私の研究領域は地域経済や産業集積ですが、地域の生態を”学習”という活動を通して分析しています。

地域の適応と変化には情報や知識を刷新することから生まれ、その情報や知識の刷新を学習と捉えています。

最近では、地域の学習活動のための制度やガバナンスについて関心があります。

 

詳しくは以下のURLにアクセスしてください。 

www.cri.ehime-u.ac.jp

場所をブランディングする

電通 abic project編の『プレイス・ブランディング』(2018)を読みました。

著者は”地域ブランド”は産品のイメージが強いため、場所自身をブランド化する取組みを”プレイス・ブランディング””を銘打って、新しいコンセプトとして展開しています。

私は「地域イノベーション」について調査研究をしていますが、欧米の地域は、科学技術や企業(起業)活動に関する投資や人材の獲得のために、地域(場所)のブランド化を積極的に行っております。

行政やそれに準じる機関がマーケティングを行い、クリエイティブシティーとして革新的で創造的な都市のイメージを世界ににRPすると同時に、実際に都市空間をクリエイティブ階級の人々が暮らしやすいように改造したりしています。

欧米、特にヨーロッパは都市間競争が激しい点と、国のフレームより都市(地域)が強いことなどあり、プレイス・ブランディングが盛んに行われています。

なので、イノベーション政策が、研究開発の支援、都市空間の整備、地域マーケティングと複合的に展開されています。

日本では、プレイス・ブランディングとは観光として展開することが多いのが現状だと思います。

欧米に比べると日本の地域は地域間競争はそれほど強いとは言えず、また、地域は国のフレームに従属しているという状況なので、自分たちで場所(地域)を売り出していくという意識は決して高くないような気がします。

しかし、日本の地域は今後、マーケティングをして、ブランド化を図り、しっかり地域の魅力を伝え、投資や人材の獲得を図っていくことが必要になってくるのではないかと思っています。

よって、地方公務員の能力も法律や規則に沿って仕事を行うことだけではなく、地域の魅力を開発して売り出していくマーケティング能力も問われていくようになると思います。

 

プレイス・ブランディング -- 地域から“場所

プレイス・ブランディング -- 地域から“場所"のブランディングへ

 

 

 

呉市海事歴史科学館に行ってきました

呉市海事歴史科学館と言ってもピンとこない人も多いと思いますが、別名”大和ミュージアム””の方が馴染みが多いと思います。

宇宙戦艦ヤマトにも特にはまらなかったし、ミリタリー趣味でもなかったので、あまり行く気はなかったのですが、3連休だったので家族と出かけてみました。

1889年に海軍鎮守府が、1903年海軍工廠が置かれてからの呉市の産業発展の歴史が展示されており、とても興味深かったです。

また、3階には、船の技術に関する科学技術コーナーがあり、子供も楽しめるようにも工夫されておりました。

 大和ミュージアムは、正式名称”海事歴史科学館”の名の通り、海事都市呉市の成立ちの歴史と科学技術に関する展示で構成されており、決してミリタリーに興味がない人でも楽しめる博物館です。

 呉市のスピリッツがいっぱい詰まっています。

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戦艦大和 10分の1の模型

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呉の産業史

 

地域イノベーションを5つに類型化してみました。

地域イノベーションと一口にいっても多様であり、捉え方の違いを十分認識したうえで議論する必要があると言えます。そこで、地域イノベーションの取組みを技術と活動の志向性を軸として5つに類型化してみました。

 

名称

特徴

①-A 技術基盤構築型地域イノベーション(ハイテク型)

政府が中心となって政策をデザインし、大学などの先端技術分野の研究開発を支援してイノベーションの創出を目指す取組み。国際的に最先端の技術開発を基盤としたシリコンバレーはこのタイプである。

①-B 技術基盤構築型地域イノベーション(ローテク型)

必ずしもハイテク分野ではない技術を基盤としたイノベーションの取組み。ニッチ分野やものづくり系や食品および農林水産業系のイノベーションであることが多い。

②リビングラボ型地域イノベーション

現代社会が抱える多くの課題に対して、ステークホルダーが協働し研究開発を進める取組み。新たな技術開発を社会実装するために、特定の空間においてユーザーのデータを得ながらイノベーションを創出する。

③地域埋め込み型社会イノベーション

地域社会が抱える多様な課題を解決するために、新たな制度やビジネスモデルを創造する社会イノベーションの創出を図る取組み。

地域活性化イノベーション

地域内の機関を中心に関係を構築し、地域の資源を活用した内発的にイノベーションの創出を目指す取組み。イノベーション・マネジメント論で定義されるような厳密な意味での新奇性や社会変革を問わない。

 

第1は、技術基盤構築型の地域イノベーションである。この地域イノベーションは、研究能力の高い大学を中心とし、地域内および地域内外の産学官の組織が連携し、技術基盤を成長のエンジンと位置づけて行う取組みである。このタイプは供給側に立った技術基盤型である。また、技術の特性によりAタイプ(ハイテク型)とBタイプ(ローテク型)に分けられる。


Aタイプは先端科学技術を活用した地域イノベーションであり、ラディカル(革新的)なイノベーションの創生を目指す取組みであり、ナショナル・イノベーション・システムの一部を構成するものと言える。代表例としてシリコンバレーが挙げられる。政府の地域イノベーション政策の多くはハイテク型の地域イノベーションの創出を目標としている。科学技術型のハイテクイノベーションは国際的な競争が激しく、一般的に多額の研究開発費を必要とする。


Bタイプは、技術基盤構築型であるが技術の応用分野がローテク型の地域イノベーションである。周辺地域などのローカルではハイテクでないイノベーションの実現性が高い。特にものづくり系、食品・農林水産系のイノベーションはこのカテゴリーに入り、改善型のイノベーションである場合が多い。


第2に、特定の地域や場所における先導的テストベッドまたはリビングラボとしての地域イノベーションの活動である。このタイプは技術基盤型ではあるが、ユーザー側に立った取組みである。スマートシティや高齢化社会への対応などの社会課題を解決するためには様々な技術や知識の創造・融合が必要であり、研究開発を社会実装に結びつけるために特定の都市や地域で産学官によりオープン・イノベーションに取り組んでいる。そこでは、必ずしも地域内で生産活動の価値連鎖が埋め込まれるとは限らない。


第3に、技術基盤型ではないイノベーション、つまり地域における社会イノベーションの取組みがあげられる。最近は経済的利益や経済成長を追求する取組みより社会的改善を目指す取組みへの関心が高まっているおり、近年、地域活性化のための社会イノベーションが注目されている。但し、社会イノベーションには技術を活用したものも多くある。


第4に、地域内の組織を中心に関係を構築し、地域の資源を活用した内発的に創出された地域活性型のイノベーションがある。各地で取り上げられている地域イノベーションの取組みを見ると、ちょっとした改善・改良でも革新的(イノベーティブ)と銘打ち、イノベーション・マネジメント論の視点から見ると厳密にはイノベーションと言えないものも多くみられる。元々、イノベーション・マネジメント論の議論では、イノベーションは世の中や社会にとってはじめてのモノで社会にインパクトを与えるものと言う暗黙の了解があったが、地域イノベーションでは、社会では既にあるが地域や地域企業にとって革新的で新たな取組みであればイノベーションと称することが多い。これらは、地域活性化の取組みの当代的表現として地域イノベーションと称しているもの、つまり政治的・政策的タームとしての地域イノベーションと言える。最近、地方創生という文脈で自治体などが掲げる地域イノベーションとはこのカテゴリーを指すことが多い。

『地域科学技術指標2018』が公表されました。

文部科学省科学技術・学術政策研究所の荒木上席研究官との共著で『地域科学技術指標2018』を公表しました。

本報告書では、地域における科学技術の資源と活動の現状を把握するため、①企業、②非営利団体・公的機関、③大学、④自治体(科学技術関連予算)、⑤科学研究費助成事業(科研費)、⑥産学連携、⑦特許、⑧論文の8つの項目に着目し分析しました。
その結果、地域の状況は、人口や企業が集積している大都市圏において科学技術に関連する項目の数値が高く、地域イノベーションのポテンシャルが高いと言えること、研究開発費や人材の資源配分において地域間格差が拡大しているとは言いきれないが、企業や大学などが集積している東京圏をはじめとした3大都市圏において資源配分は集中・固定しているという状況が確認されました。

大学の研究費などは大したことなく、企業の研究費の方が圧倒的に大きいです。なので、企業が集積している3大都市圏では研究費・研究人材のウェートが圧倒的に大きいです。特に、最近では自動車関連のウェートが高く、トヨタのある愛知県とホンダの研究所がある栃木県は金額的に見ても多いです。

愛媛県は、松下寿産業の後継会社のパナソニック・ヘルスケアが縮小しているのでその研究費が大幅に減少しています。

地域イノベーションということが言われておりますが、先ずは地域に科学技術関連資源がなければ始まりません。

政府は地域の科学技術の格差を是正する考えも予算もないので、ない地域は、ない地域なりに強みを探していかなければならないでしょう。

”イノベーション”って“創新”って言い換えようよ

「企業の発展には”イノベーション”が重要だ!」「地域の活性化には”イノベーション”を起こすことが必要である!」などと”イノベーション”は世間で幅広く使われる言葉となっています。

イノベーション”ってその昔は”技術革新”って言われていました。しかし、いつからでしょうか?”イノベーション”とは、必ずしも技術を伴わないものもあるので”技術革新”は不適切だということで、innovationはカタカナの”イノベーション”になりました。私の記憶だと、少なくとも21世紀になってからは”技術革新”という言葉は使わず、もっぱら”イノベーション”とカタカナで標記するようになりました。私の授業でも、innovationは”技術革新”と訳してはいけないと教えています。

しかし、この”イノベーション”という言葉が”イノベーション”の普及を阻害しているような気がします。”イノベーション”という言葉の概念が曖昧な感じで、日本語として生きている感じがあまりしないように個人的には思います。

中央政府の役人や大都市の大企業の経営者などの頭の良い人たちは、”イノベーション”って言う言葉を立ちどころに把握してしまうのであろうが、どうも地方に住む者としてはあまり身近な言葉ではないような気がします。地方にいると”イノベーション”って遠い世界のもので、リアリティがありません。また、一般的にイノベーションに関するリテラシーがあまりないというのが現状だと思います。

innovationは中国語では”創新”というらしいです。でも”創新”の方が意味として捉えやすいような気がします。現在の中国では「大衆創業、万衆創新」というスローガンのもと”イノベーション”を起こすことが国民運動的に展開されています。日本人にとっても”創新”の方が馴染みやすいし、言葉として肚に座った感じがあります。

その昔、文明開化で日本に入ってきた西洋の文物を日本語に訳し、それが中国語としても使われているものもあるようです。それの逆ではありますが、中国語に訳された概念を日本語にしても良いのではないでしょうか。

”創新”という言葉は”イノベーション”という言葉よりも、特別感がなく、”イノベーション”に取り組むにあたっても、ハードルが低くより気軽に取り組み始められるような気がします。そうすれば”イノベーション”がもっとあちらこちらで行われるようになるのではないでしょうか?

ローカル・イノベーションに関する論考が公表されました。

愛媛県の(株)キシモトという会社が骨軟化技術を活用して頭から骨までまるごと食べられる魚干物の開発を行いました。

その開発プロセス産学官の組織間学習として捉えた論考「地域における組織間学習としてのローカル・イノベーション:(株)キシモト「まるとっと」の商品開発を事例として」が愛媛大学社会共創学部の紀要で公表されました。

地域イノベーションというと大学の知識・技術の実用化というアプローチが多かったですが、本件は公設試験研究機関が中心となって、ローカルの、ローカルによる、ローカルのためのイノベーション創出の試みを取り上げてみました。

開発した会社の専務は、嚥下力が低下し、焼き魚などの食事をあきらめたお年寄りを中心に食べてもらいたいという熱い気持ちで開発されたものです。

私は研究者として知識創造の面からイノベーションにアプローチしていますが、人々の熱い気持ちが駆動力となってイノベーションが生れると言ってよいでしょう。

地方ではイノベーションに取り組もうという企業が少ないですが、本件は、特にイノベーションが少ない食品加工業におけるイノベーションであり、稀有な事例と言えます。

これは残念ながら「戦後愛媛のイノベーション30選」には選ばれていません。

 

論考の要旨は以下の通りです。

<要旨>

地域経済の活性化のためには、地域企業によりイノベーションを起こすことが求められている。本稿は、愛媛県の中小企業による魚骨軟化技術を用いた魚干物の商品開発を事例として、ローカル・イノベーションにおける組織間学習の主体間関係の構築および学習の展開を明らかにすることを目的とする。その結果、ローカル・イノベーションは、地域の中小企業が公設試験研究機関(公設試)、大学、行政機関などと連携関係を構築することにより成し遂げられており、また、機関間の学習の場は、段階により異なり、時空間的に変化していったことが明らかになった。その中心として公設試の役割は大きく、研究開発や技術支援だけでなく、学習関係構築のための信頼の媒介、学習継続のための制度整備などの役割を果たしていた。