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イギリスの意欲的な (?) 地域政策が発表されました。

イギリスのジョンソン内閣は、イギリスのすべての地域をレベルアップさせるという

地域政策に関する意欲的な白書を2月2日に発表しました。

 

 

<本白書の内容>

2030年までにイギリスのすべての地域をレベルアップさせる、という目標のために、インフラ整備、住宅、交通、通信(5G)、教育、研究開発など広範囲な分野にわたり投資を行って、地域の生産性を上げていくというものです。

 

2030年までの到達目標は以下の12のミッションに掲げられています。

<イギリスをレベルアップさせる12のミッション(到達目標)>

1. 2030年までに、英国のすべての地域で給与、雇用、生産性が上昇し、それぞれに国際競争力のある都市が含まれ、業績上位の地域とその他の地域との格差が縮小させる。

 

2. 2030 年までに、ロンドンおよび南東地域以外の研究開発への国内公共投資は、少なくとも 40%増加し、歳出見直し期間中に少なくとも 3 分の 1 増加し、その追加政府資金により、長期的に少なくとも 2 倍の民間投資を呼び込み、イノベーションと生産性成長を刺激することを目指す。

 

3. 2030 年までに、全国の地域公共交通の接続性をロンドンの水準に大幅に近づけ、サービスの改善、運賃の簡素化、チケットの統合を実現する。

 

4. 2030年までに、英国は全国でギガビット対応のブロードバンドと4Gのカバレッジを持ち、人口の大多数で5Gのカバレッジを持つようになる。

 

5. 2030年までに、読み、書き、算数で期待される水準を達成する小学生の数を大幅に増加させる。イングランドでは、90%の子どもが期待される水準を達成することになり、成績の悪い地域で期待される水準を達成する子どもの割合は3分の1以上増加することになります。

 

6. 2030 年までに、英国のすべての地域において、質の高い技能訓練を成功裏に修了する人の数を大幅に増加させる。イングランドでは、年間20万人が質の高い職業訓練を修了することになるが、これは、最も技能の低い地域における8万人のコース修了者の増加によって推進される。

 

7. 2030 年までに、健康寿命が最も高い地域と最も低い地域の格差が縮小し、2035 年までに 健康寿命がを5 年延ばします。

 

8. 2030 年までに、英国のすべての地域で幸福度が向上し、業績の高い地域とそれ以外の地域との格差が縮まる。

 

9. 2030年までに、人々が自分の住む町の中心部に対する満足度や、地域の文化やコミュニティへの関与といった「場所に対する誇り」が、英国のすべての地域で向上し、上位の地域とその他の地域との間の格差が縮小させる。

 

10. 2030年までに、すべての地域で初めて住宅を購入する人が増加し、賃貸住宅を借りる人が安心して住宅を購入できるようになる。また、政府の野望は、質の悪い賃貸住宅の数が50%減少し、最もパフォーマンスの低い地域で最も改善される。

 

11. 2030 年までに、殺人、深刻な暴力、近隣犯罪が、最も被害の大きい地域に重点を置いて減少させる。

 

12. 12. 2030年までに、イングランドの希望するすべての地域で、最高レベルの権限と、簡素化された長期的な資金調達手段を備えた権限委譲協定を締結する。

 

<イギリス(イングランド)の地域の何が問題なのか>

イングランド地域間格差がとても大きくなっています。イングランド地域間格差は単なる経済問題ではなく、教育および健康寿命の格差を生み、大きな社会問題となっています。

イングランドでは、ロンドンとケンブリッジ、オックスフォードを結ぶ三角地帯が成長地帯であり、そこと他の地域との格差がとても大きくなっています。

BrexitEU離脱)により、EUから地域開発資金が分配されなくなるので、イギリス政府として、競争力ある地域を創っていくという地域政策をしっかり行っていく必要があります。

 

<レベルアップ政策の背景と問題点>

・この政策は、2019年の総選挙の時にジョンソン首相が掲げたマニュフェストをもとに、展開されるものです。

・この白書は2020年に発表される予定が、何度か延期されてやっと発表されました。

・白書には意欲的なミッションが掲げられていましたが、予算については明記されていないので、どこまでが実現可能なものなのか不明です。

・ジョンソン内閣になり緊縮財政は終わりましたが、リーマンショック後の緊縮財政により地方政策関連予算は約20%以上削減されており、若干増えたとしてもリーマンショック前程度に戻るだけである。

・地方へは、労働党が元々強い地域(Red Wall)を崩していくために予算を分配していると指摘されている。本当に困っている地域より、保守党の戦略地域でプロジェクトが実施されている。

・私が調査したティ―サイドは保守党の市長が就任して以来、明らかに公共投資が大幅に増えました。それを「ティーサイド・ルネッサンス」と成功例として取り上げています。

・これは政策議事(アジェンダ)ではなく、政治的スローガンに過ぎないとの批判もあります。

地域間格差は昔からある問題であり、ジョンソン内閣によって解決されるとは思えません。

・また、地域にフォーカスしすぎて、人への投資が弱いと言えます。

 

<個人的な関心事>

・全国に市長型合同行政機構をつくり権限移譲を進めるとしているが、どれぐらい実現するのか関心がある。

グラスゴーマンチェスターバーミンガムイノベーション地区を整備していくとしている。マンチェスターイノベーション地区は具体的に計画されており、マンチェスターの中心地区に約1600億円投資して整備するそうです。

・この政策は地域間格差の是正を目標と掲げており、経済地理学の考え方が基盤に生かされています。

・日本の地域政策は理想もビジョンもないので、大風呂敷を敷くのも悪くはないかなと思います。

 

<イギリスの地域政策についてもっと知りたい人は>

イングランドの地域政策の現状について知りたい人は、私が日本地理学会のE-journal GEOに投稿した「北東イングランドにおける権限移譲と地域の変容」を参考にしてください。

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