クラスター政策を見直してみませんか。
米国のブルッキンズ研究所のレポート では、米国商務省経済開発局はコロナ禍の復興政策の一つとして、新たなクラスター政策BUILD BACK BETTER REGIONAL CHALLENGE(創造的復興のための地域の挑戦)を紹介しています。
この政策 は、総予算10億ドル(約1100億円)であり、フェーズ1として、全国50~60か所に500000ドル(5500万円)程度分配し、フェーズ2は20~30か所に2500万~7500万ドル(27~82億円)程度分配し、人材育成、イノベーションやインフラの強化を図り地域の産業コミュニティの強化を図ることを目的にしています。
米国連邦政府は、地域経済の復興のアプローチとしてクラスターが生む集積のメリットをテコとした地域開発を模索しています。
ブルッキンズ研究所では、クラスターの取組みが成功するためには、以下の5つの特徴を紹介しています。
1.何年もかけて強固なエコシステムを確立することに重点を置く
クラスターへの取り組みは、何よりもまず、クラスター内の既存企業(および関連企業)の成長と競争力を高めるものでなければなりません。クラスター外の企業からの雇用拡大や投資は、いずれ顕在化しますが、すぐには実現するものではありません。
既存、新規を問わず、企業が繁栄するために必要なイノベーション、人材、経済機会を生み出す、強固で再生可能なエコシステムを確立する必要があります。雇用は、クラスターの重力に引き寄せられて、最終的には後からついてきます。
2.産業界が主導、大学は推進、そして政府はサポート
最も強力なクラスターは、民間企業が主導しており、問題解決のために協力することで利益が得られると考える企業グループが介入することで、活性化します。研究大学は必要なイノベーションと人材を提供し、連邦政府、州政府、地方政府は各イニシアティブを支援するために大規模な投資を行い、早期に信頼性を高めます。
最も成功したイニシアチブでは、EDAがBBBRCを通じて達成しようとしていることを、これらのセクターの関係者が実行できるような組織や共通基盤が作られています。つまり、「それぞれの部分の合計以上の結果が得られるように調整された」一連の明確なプロジェクトを開発するのです。
3.ユニークな機会に集団で大きな賭けをする
最も成功しているクラスター・イニシアチブは、長期的な視点を持ち、数ある選択肢の中から「勝者を選ぶ」ことを恐れない地域にあります。活気の出てきた市場で差別化を図るには、限られた独自の専門分野にエネルギーと投資を集中させるしかないと認識しているのです。
4.情熱的で献身的なリーダーによって育てられる
クラスター・イニシアティブを成功させるためには、その分野で活躍する企業のリーダーが必要不可欠です。このようなリーダーは、ユニークな機会を認識し、説得力のあるストーリーを作成し、大胆なクラスター・イニシアチブを立ち上げて維持するために必要な時間を割くことができる思想的なリーダーです。
質問をし、意思決定を行い、共有の投資を行う共通基盤をまとめるには、信頼できるカリスマ的なリーダーによる持続的なリーダーシップが必要です。
5.物理的なセンターに支えられている
クラスターに参加している企業や資産は各地域に散らばっていることが多いですが、物理的なセンターは、企業、学術指導者、新規事業者間の知識のスピルオーバーや交流を促進する統一された空間となります。
また、クラスターがその地域に関連していることを具体的に示すことができます。以上のように、不動産は、すでに強固なクラスターを定着させるために重要な役割を果たしますが、それだけでクラスターを形成することはできません。クラスターには工業団地が必要かもしれませんが、工業団地がクラスターを作るわけではありません。
<日本への含意>
日本のクラスター政策は、「地域のことは、国が介入するのではなく、地域に任せるべきだ」という趣旨で2009年の民主党政権による事業仕分けにより廃止されました。
それ以来、「クラスター」という言葉はNGワード扱いとなり、政策的にも研究的にも使われることが少なくなりました。
近年の日本の地域経済政策は、新たな産業を育成するいうよりは、既得権者の多い業界を保護するまたは事業継承を第一にすることが中心となり、未来を育てるという取組みが弱くなっています。
クラスター政策にはいくつかの問題がありましたが、良い点としては産業に対する戦略的なアプローチが挙げられます。
戦略とは、できる力を集中させることでもあるので、限られた資源をどの分野に注力するかということを決定することが必要です。クラスター政策では、未来の産業を育成するために戦略を立てる手段としてとても有用であったと言えます。
日本の地域経済政策ではクラスターという言葉は使用されなくなりましたが、ヨーロッパでは今でもクラスターの考えを基本として、地域経済政策が戦略的に展開されています。そこでは、地域の独自性、強み・弱みについて一生懸命に考え、地域がどのように稼いでいくのかということを検討しています。
日本の地方自治体の地域経済政策はおおかた将来投資に注力するより総花的で現在救済的な傾向がとても強いと思われます。地域経済政策における戦略的思考を図るうえで、産業クラスターを再考してみることは、とても価値のあることだと思います。