地域戦略ラボ

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イノベーションにおける地域(3)多層的空間としてのイノベーション圏

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考察しました。

本日は多層的空間としてのイノベーション圏について考えます。

  

イノベーション創出のプロセスを俯瞰すると、知識の調達においてその空間はグローバルに拡がっており、知識の創造と統合においては特定の場所で行われていました。イノベーションの空間とは、企業などの組織間の関係を編集し、知識を創造・連鎖させる物理的な空間を意味します。

そして、イノベーションのための地域とは、立地を共有しているローカルな環境により生まれる知識と、立地を共有していないグローバルなネットワークの活動により生まれる知識を統合する場所であると言えます。

つまり、イノベーション活動において、ローカル化とグローバル化の両方が進んでいると言えます。

その中で、イノベーションのための場所・地域とは、知識創造のための地域内外の活動を集合させ協働させるところであり、そのために、組織的・文化的背景の異なった多くの組織が容易に関係を構築できる中間組織的な機能を持ったところです。


そのようなイノベーションにおける空間・地域は、4つの層にまたがるネットワークが重なった結節点です。

先ず中心となる層が、具体的に人々が行き交い、活動の集積地となる物理的空間としての拠点です。そこは、活動の核となる企業家が存在する。そしてその企業家とは必ずしも企業人である必要はなく、行政、学術機関においても存在しうる。そしてその拠点はプラットフォームとして人・金・情報が内外から行き交い、知識創造空間としてプロジェクトやコンソーシアムが組成されたり、解散させられたりしている場所です。その拠点とは必ずしも1つの組織を意味するとは限らず、複数の組織が集合的に拠点を形成する場合があります。

 

次の層に、その拠点を囲むようにイノベーション地区があります。イノベーション地区には研究開発拠点だけではなく、複数の企業や人材育成機関が地区内に立地し、事業創造のために企業間や産学官間で比較的密にコミュニケーションを図るビジネス空間です。

同時に、拠点ではイノベーション活動に取り組む研究者や高度技術者、企業家のためのアメニティ施設や住居などを有する生活空間であることもあります。そのため、密なコミュニケーションを図れるため社会関係が構築しやすいと言えます。

 

さらに、イノベーション地区の外にはイノベーティブ・ミリューが広がる層あります。イノベーション活動を行うには企業家の行動の基準となる慣習・制度や、イノベーションへの志向性や熱意などの雰囲気に文化があります。

つまり、イノベーティブ・ミリューとはイノベーションの創出を促進させるための規則や規範などの制度が及ぶ範囲としての制度空間であり、併せて、イノベーションを具体化するサプライチェーンを形成する産業・生産空間でもあります。また、郊外型居住を好む研究者や高度技術者の生活を支える生活空間でもあります。


さらにその外層にはイノベーション・ネットワークがあります。その空間とは行政範囲としての囲まれた領域を越えて、グローバルおよびサイバー空間に拡がっています。そのネットワークでのコミュニケーションでは主に知識の交換が行われており、知識調達空間と言えます。

なお、イノベーション・コミュニティとは、イノベーション拠点、イノベーション地区、イノベーション・ミリュー、イノベーション・ネットワークを通貫しているイノベーションのためのコミュニケーションが比較的密に行われる空間です。


つまり、イノベーションのための空間とは、行政領域の境界に囲まれた領域としての空間ではなく、広範囲な空間から資源、情報、人材、資金等を集めることのできる拠点と、その活動を支える地区・都市、および制度や雰囲気を作る地域とからなる多層的な空間構造をしています。

そして、知識創造のために新たな関係を構築して、密にコミュニケーションを図るために領域性に強く依存していると同時に、知識の調達のためには脱領域化したネットワーク空間における資源・活動を、結節地として自分の領域に取り込むなどして再構築しており、それはイノベーションにおける活動圏であると言えます。


グローバルネットワーク知識経済社会は、企業や人ばかりではなく地域もグローバルネットワークの中に存在すると言えます。地域がイノベーションのための知的集積拠点として顕在性を示すためには、そのネットワークの中で埋もれることなくネットワークの中核に位置する必要があります。


ネットワーク性はインタネットビジネスだけに働くものではありません。仲間やユーザーの増加、つまりネットワークの規模が拡大すれば、ネットワークの経済的・社会的な価値が増し、新技術や新製品の標準化などでイニシアチブを握りやすくなることにつながります。

参加者が増加すれば、ネットワーク効果によりプラットフォームの価値が高まり、更に多くの参加者が引き付けられ、プラットフォームの価値はさらに上がります。

よって、知識集積拠点としての優位性を確保した地域は、ポジティブ・フィードバックにより、その優位性を一層増幅させることができます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆