地域戦略ラボ

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地域イノベーションに関連するいろいろなコンセプト[研究メモ]

地域でイノベーションを創造する取組みが積極的に行われています。そのため、”地域イノベーション”という用語はいろいろな局面で議論されています。

 

以下の図は、地域イノベーションの議論における関連のコンセプトを挙げたものです。いくつかのカテゴリーに分けてみましたので、内容を紹介していきます。

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イノベーションシステム

まず、地域イノベーションの議論が広がったのは、地域におけるイノベ―ションシステムの発見からです。地域にはイノベーションが次々と起きて豊かな地域と、イノベーションがあまり起きず、あまり豊かでない地域があり、イノベーションが次々を起こる地域には地域独自のイノベーションシステムがあるとされています。そこから地域イノベーションシステムの研究が盛んに展開されるようになりました。最近では、起業活動を含めた地域イノベーションエコシステムが注目されています。また、地域とはあいまいな概念であり、地域の特性によってイノベーションのシステムは違うであろうということで、都市におけるイノベーションとしてアーバンイノベーション、田舎におけるローカルイノベーションと議論を分けて行われることがあります。

 

②産業集積

豊かな地域と豊かな地域でない地域がある、その要因として産業集積での活動に違いがあるとの議論があります。その1つとして、産業クラスターがあります。産業クラスターは比較的イノベーションが起きやすく、産業クラスターには地域イノベーションシステムがあるとされています。また、豊かな地域を創造するためには、地域における学習活動がカギであるという学習地域論があります。イノベーションのための技術開発もビジネス開発も学習行為と言えます。さらに、産業集積に立地する企業は協力し合い集合的に学習活動を起こしやすい環境にあるということで、そのような環境(雰囲気)のある地域をイノベーションミリューとされています。

 

③産業

産業クラスターは元々、経営学者であるポーター教授の考察から生まれたものですが、産業には様々な生産機能のみならず、行政や学術機関などのアクターがつながりシステムとしてかかわっています。例えば、起業活動は、個人のモチベーションなどが発端とされていますが、起業を行うには、それが行いやすい環境が重要となっています。そのようなシステムを起業システムとして捉えられます。また、イノベーションには技術開発などの知識創造面だけではなく、ビジネス開発として起業が重要であり、それはイノベーションエコシステムとして捉えられています。

 

④創造性

イノベーションには技術開発やビジネス開発において創造性が必要となります。そのような創造性に富んだ都市として創造(クリエイティブ)都市論があります。創造都市論としては、創造性のためには、個々人のライフスタイルを重視した、地域における生活のアメニティが重視されていました。創造性とイノベーションはイコール関係ではないですが、創造都市での議論は地域でのイノベーション活動に結びつきます。この、地域における創造性の議論は、都市のみならず、地域でも展開可能であり、学習地域論と重なります。

 

⑤都市

最近、地域イノベーションの議論は、地域という漠然とした空間から都市に焦点が移っています。これは後述するテクノロジーの進展と大きく関わっています。元々、都市は多様なアクターによる異種受粉効果が働くため、創造性が高く、イノベーションが起きやすいとされてきました。それが創造都市論につながっています。都市は創造性を高めるという議論がありますが、都市空間では空間的に広すぎるということで、創造性のための蜜のコミュニケーションを図る空間としてイノベーション地区イノベーションハブがあるとされています。

また、創造都市論はどちらかというと、アートなどの文化産業を取り上げることが多かったため、それらと区別するため、文化産業でない創造都市として、イノベーション都市テックシティーが挙げられます。アメリカなどの創造都市論の議論では、その雇用の大半は文化産業よりIT産業に従事している人が殆どなので、創造都市の実態はGAFAなどのテクノロジー企業が立地するイノベーション都市(テックシティ)と言えます。

 

⑥テクノロジー

IT産業を中心に、都市は新しい技術開発の場となっています。自動運転などのモビリティ技術や、エネルギーシステム、防犯・監視システム、電子決済システムなど、デジタル技術により新たなサービスが開発されています。それらはスマートシティーにおける中核的な取組みです。それらのサービスは、試験的に社会で実際に使いながら改良を図る形で開発されています。そのような試験的に開発が行われる場をリビングラボと言います。それらを総称して、アーバンイノベーションと呼称されることが多いです。

また、都市では様々なデータが収集され始めているため、AIなどを使用し、それらデータの分析が行われています。これはアーバンデータサーエンスとして新たな研究のフィールドが広がっています。

 

⑦コミュニティ

リビングラボは、ある具体的なイノベーションプロジェクトにおける社会実装前の試験段階として、開発者とユーザーが一緒にコミュニケーションを取りながら開発を行う空間です。

それに対して、イノベーション地区イノベーションハブは、イノベーションを創出する環境として、企業や大学の研究者・開発者などが密なコミュニケーションを取れる機関の近接配置として取り上げられます。また、このイノベーション地区やイノベーションハブは活動の基盤となるプラットフォームが構築されることにより、他地域との競争上の差別化につながるとされています。

 

⑧ローカル

イノベーションは、イノベーションが起きやすい地域では益々盛んにおこなわれていますが、起きにくい地域ではなかなか起こすことが難しいです。そのため、イノベーションは地域の格差を広げる可能性があります。しかし、地域活性化のためには、イノベーションの創出は必要であり、学術機関や企業の集積の少ないローカル地域でのイノベーション創出のあり方として、ローカルイノベーションの議論が行われていります。