地域戦略ラボ

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イノベーションにおける地域 (2)イノベーションにおける機能・環境空間としての地域

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションの拠点性について考察した。

本日はイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考える。


イノベーションのための知的集積拠点とは単独で存在するものではありません。人々や企業が研究開発のためにコミュニケーションをとる知識創造空間と、企業がサプライチェーンを構築する産業空間があります。

また、研究者および家族が生き生きと過ごすことができる生活空間が必要となってきます。

さらに、人びとが協調し協力し合うとか、新しいことにチャレンジするなどという規範や慣習などが及ぶ範囲としての制度・文化的空間が必要となってきます。


以下に、イノベーションのための地域の役割について見てみます。

第1の役割は知識創造のために多くの組織および人と関係を構築するための役割です。元々、地域とは関係的資産の集合体です。組織的・体系的な知識の統合を行うためには、人びとが集う物理的空間が必要です。多様な知識を収集して創造して統合させるためには、多くの組織が必要であり、そのためには、関係性を多層にわたり拡張させる必要があります。

そのことにより、研究開発プロジェクトの組織展開と複数プロジェクトの相互作用が可能となります。また、複数のプロジェクトが集積することで、思わぬものを偶然に発見するセレンディピティ により、意図しない新たな創造性の芽が生まれる可能性が高くなります。


第2は、知識の伝播と累積の役割です。知識を伝播させるためのコミュニケーションを図るためには文脈を共有させなければいけません。

その文脈の共有を構築するための空間として地域が求められます。また、学習した知識を累積させさらに発展させるためにも、知識創造の主体が集う空間が必要です。

さらに、知識創造における人々の活動を安定化、組織化するためにも地域という空間がその役割を果たします。

知識は編集、組織化、再生産、蓄積、拡散されることにより、更に新しい知識を生む。それを特定の地域で集中的に行うことにより、イノベーションの学習効果が上がり、知識や経験・ノウハウが累積されていきます。


第3は、イノベーションに関する地域ブランドの形成としての役割です。先述したように、イノベーションのためには境界を越えて、資源、情報、人材、資金等を効率的に集めることが必要であり、地域ブランドは産業集積において重要な戦略手段となっています。

そこで地域は、研究開発のレベルを上げたり、クリエイティブな環境(ミリュー)を作ったりしています。


第4は、技術の標準化、技術トレンド形成の役割です。一般的には、イノベーションは新奇性があり、新たな規格やルールが必要な場合があります。

そのイノベーションの不確実性の低減やトレンドの形成のためには仲間づくりが必要となります。ネットワークはその参加者が多ければ多いほどその価値が増します。

新たな課題の解決のためのリビングラボなどの取組みの過程で、仲間づくりを行い新たな技術の標準化が図られたりします。

そのような先進的かつ具体的な課題解決の取組みの中で、仲間を集め、活動を行う場所として地域は重要な役割を果たすと言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』