Think Region

生き物のように成長したり、衰退したりする地域経済について考えています。

”イノベーション”って“創新”って言い換えようよ

「企業の発展には”イノベーション”が重要だ!」「地域の活性化には”イノベーション”を起こすことが必要である!」などと”イノベーション”は世間で幅広く使われる言葉となっています。

イノベーション”ってその昔は”技術革新”って言われていました。しかし、いつからでしょうか?”イノベーション”とは、必ずしも技術を伴わないものもあるので”技術革新”は不適切だということで、innovationはカタカナの”イノベーション”になりました。私の記憶だと、少なくとも21世紀になってからは”技術革新”という言葉は使わず、もっぱら”イノベーション”とカタカナで標記するようになりました。私の授業でも、innovationは”技術革新”と訳してはいけないと教えています。

しかし、この”イノベーション”という言葉が”イノベーション”の普及を阻害しているような気がします。”イノベーション”という言葉の概念が曖昧な感じで、日本語として生きている感じがあまりしないように個人的には思います。

中央政府の役人や大都市の大企業の経営者などの頭の良い人たちは、”イノベーション”って言う言葉を立ちどころに把握してしまうのであろうが、どうも地方に住む者としてはあまり身近な言葉ではないような気がします。地方にいると”イノベーション”って遠い世界のもので、リアリティがありません。また、一般的にイノベーションに関するリテラシーがあまりないというのが現状だと思います。

innovationは中国語では”創新”というらしいです。でも”創新”の方が意味として捉えやすいような気がします。現在の中国では「大衆創業、万衆創新」というスローガンのもと”イノベーション”を起こすことが国民運動的に展開されています。日本人にとっても”創新”の方が馴染みやすいし、言葉として肚に座った感じがあります。

その昔、文明開化で日本に入ってきた西洋の文物を日本語に訳し、それが中国語としても使われているものもあるようです。それの逆ではありますが、中国語に訳された概念を日本語にしても良いのではないでしょうか。

”創新”という言葉は”イノベーション”という言葉よりも、特別感がなく、”イノベーション”に取り組むにあたっても、ハードルが低くより気軽に取り組み始められるような気がします。そうすれば”イノベーション”がもっとあちらこちらで行われるようになるのではないでしょうか?

ローカル・イノベーションに関する論考が公表されました。

愛媛県の(株)キシモトという会社が骨軟化技術を活用して頭から骨までまるごと食べられる魚干物の開発を行いました。

その開発プロセス産学官の組織間学習として捉えた論考「地域における組織間学習としてのローカル・イノベーション:(株)キシモト「まるとっと」の商品開発を事例として」が愛媛大学社会共創学部の紀要で公表されました。

地域イノベーションというと大学の知識・技術の実用化というアプローチが多かったですが、本件は公設試験研究機関が中心となって、ローカルの、ローカルによる、ローカルのためのイノベーション創出の試みを取り上げてみました。

開発した会社の専務は、嚥下力が低下し、焼き魚などの食事をあきらめたお年寄りを中心に食べてもらいたいという熱い気持ちで開発されたものです。

私は研究者として知識創造の面からイノベーションにアプローチしていますが、人々の熱い気持ちが駆動力となってイノベーションが生れると言ってよいでしょう。

地方ではイノベーションに取り組もうという企業が少ないですが、本件は、特にイノベーションが少ない食品加工業におけるイノベーションであり、稀有な事例と言えます。

これは残念ながら「戦後愛媛のイノベーション30選」には選ばれていません。

 

論考の要旨は以下の通りです。

<要旨>

地域経済の活性化のためには、地域企業によりイノベーションを起こすことが求められている。本稿は、愛媛県の中小企業による魚骨軟化技術を用いた魚干物の商品開発を事例として、ローカル・イノベーションにおける組織間学習の主体間関係の構築および学習の展開を明らかにすることを目的とする。その結果、ローカル・イノベーションは、地域の中小企業が公設試験研究機関(公設試)、大学、行政機関などと連携関係を構築することにより成し遂げられており、また、機関間の学習の場は、段階により異なり、時空間的に変化していったことが明らかになった。その中心として公設試の役割は大きく、研究開発や技術支援だけでなく、学習関係構築のための信頼の媒介、学習継続のための制度整備などの役割を果たしていた。

 

「愛媛のイノベーション30選」が発表されました

愛媛県発明協会の創立80周年を記念して、愛媛県で成長を遂げ、愛媛県の経済の発展に大きく寄与した30のイノベーションブランドが選定されました。

「産業・科学の進歩」部門から21件

「新しい形式の農林水産」部門から5件

「都市構造の再構築」部門から4件 選定されていました。

HPで公表されていないので主だったところを以下に記します。

 

「産業・科学の進歩」

東レの超高強度で軽量性を併せ持った炭素繊維

・環境にやさしい社会、きれいで快適な生活の創造に貢献する三浦工業の小型貫流ボイラ

・繊細かつ柔らかな風合いや鮮やかな色を表現した今治タオル

「新しい形式の農林水産」

えひめ飲料の長年愛されているポンジュース

「都市構造の再構築」

・「街はことばのミュージアム」の市内路面電車、ロープウェー外などとコラボした取組み。俳句甲子園の開催、道後温泉がある松山市の「ことば」を生かしたまちづくり

などです。

選考理由にも「愛媛県で成長を遂げ」と書いてあるように、必ずしも県内で発明されたものでなくてもよいみたいです。

 

個人的には、選ばれていなかったものでイノベーションとして選んでいただきたかったものとして、

愛媛大学世界最硬物質「ヒメダイヤ」

西南開発の魚肉ソーセージ

が挙げられます。

 

 

 

『(仮称)イノベーションの空間と場所』という本を執筆しています。

今年の松山は酷暑で7月からずっと暑い日々が続いています。その中、この夏休みの私自身への宿題として『(仮称)イノベーションの空間と場所』という本を執筆しています。

文部科学省科学技術学術政策研究所在籍時に行っていた香川県の希少糖の実用化の取組みの調査研究から本年発表した北陸地域における炭素繊維複合材の実用化の取組みおよび書き下ろしを含めてまとめています。

主旨は、イノベーションと地域との関係を考える時、イノベーションのための地域と地域のためのイノベーションという2つの視点があり、それらは整理して考える必要がある。イノベーションとは知識の創造と連鎖であるので、イノベーションの創出においては知識創造を促進させるコンテクストが集中する場所という具体的な物理的空間が必要である。世界各地ではイノベーション創出のための知的集積拠点の整備が進められているが、日本のイノベーション政策も空間的視点が必要である、というものです。

現段階での章節構成は以下の通りです。いろいろ書き足していったら複雑になってしまったので書き換えるかもしれません。特に第1章のイノベーションにおける空間と場所および地域に関する理論は、あれやこれやと先行研究が尽きないので、そのとりまとめに苦労しています。

まだ、出版社には当たっていないのでいつ出版になるかわからないですが、具体的になったらお知らせいたします。(というか、本当に脱稿できるか心配しています。)

 

序章:イノベーションにおける空間と場所とは
第1章:イノベーションの空間と場所および地域に関する理論
第2章:香川県における希少糖の実用化の取組み
第3章:青森県におけるプロテオグリカンの実用化の取組み
第4章:熊本県におけるマグネシウム合金の実用化の取組み
第5章:北陸地域における炭素繊維複合材の実用化の取組み
第6章:地域イノベーションの取組みに関する考察
第7章:オランダ・アイントホーフェンにおけるイノベーション空間の構築
第8章:イノベーションにおける空間と場所
終章:イノベーションの空間マネジメント

岡山県西粟倉村の『ローカルベンチャー』

岡山県西粟倉村で『エーゼロ』と『西粟倉・森の学校』を営んでいる牧大介さんの著書『ローカルベンチャー』を読みました。

西粟倉村は2017年にはUターン、Iターンの移住者が増え、人口が増加した。今、地方活性化の事例として島根県海士町とともに注目を集めている地域です。

西粟倉では「百年の森林構想」をもとに林業による地域振興を行っている。そこで2018年までにベンチャーベンチャーが約30社創業されている。過疎地において新しくビジネスが起こされることは難しく、それが30社ともなればそれは奇跡に近いと言えます。

西粟倉村で取組まれている林業の六次産業化、ふるさと納税、エコ発電、地域商社、地域通貨ICO)など、今どきの取組みがオンパレードに紹介されています。

なぜ、今回この本を取り上げたかというと、この本で紹介されている地域経済はこれからのローカルエコノミーのモデルになるのではないかと考えるからです。現在、大学で「地域経済学」の授業を担当しているが、国民経済の地方版としての地域経済学はあくまでも成長主義であり、その地域経済の成長モデルは愛媛県をはじめ多くの地方経済ではリアリティのないものとなっています。

著者自身も書いていることですが、著者は京都大学で森林生態学を勉強していたので、地域経済を構想する目も生態学的な視点で考えれいるものだと思います。これからの地域経済を考える一助となる本です。

 

ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている

ローカルベンチャー 地域にはビジネスの可能性があふれている

 

 

 

 

産学連携学会でローカルイノベーションについて発表してきました。

山口県山口市山口県教育会館で行われた産学連携学会に参加してきて、「ローカルイノベーションにおける組織間学習」について発表してきました。

愛媛県の水産加工会社が開発した骨までまるごと食べられる魚の干物「まるとっと」を事例にその開発における産学官の主体間関係の構築と学習の場についてまとめたものです。

(株)キシモトの「まるとっと」に興味のあるかたはこちらへアクセスしてください。

この内容については、現在、愛媛大学社会共創学部の紀要に投稿すべくまとめている最中ですので、公開になりましたら連絡いたします。

 

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発表はさておき、6月14日に松山から広島経由で移動したのですが、新幹線が人身事故で不通になり、広島で待ちぼうけを食わされました。

22時過ぎに徳山駅行きの新幹線がでるとアナウンスがあったのですが、その新幹線が広島駅を発車したのが23時20分過ぎ。徳山に到着したのが23時51分。当然、在来線との接続もできず、徳山駅から新山口駅までタクシーで1時間かかりました。

 

下の写真は、山口市にある瑠璃光寺の国宝五重塔です。禅寺なので質素ですが趣のあるきれいな塔ですよ。山口に行ったら是非立ち寄ってみてください。

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地域イノベーションについて論考が掲載されました。

地域イノベーションについては、2017年1月6日の本ブログでも書きましたが、それらをまとめた本『キーワードで読む 経済地理学』が原書房より出版されました。

 この本は経済地理学会の60周年を記念して出版されたものであり、40の項目を76名の執筆者により書かれています。

理論から事例、政策にわたり、現在の経済地理学で扱われている主要なトピックは大まかに扱われています。大学の学部生が理解できるレベルで書かれていますので、経済地理学の導入として接していただければよいかなと思います。

 

キーワードで読む経済地理学

キーワードで読む経済地理学

 

 

北陸の炭素繊維複合材CFRPの取組みについて電子ジャーナルに公表しました。

石川県と福井県を中心として行われている炭素繊維複合材開発の取組みについて日本地理学会の電子ジャーナルE-Journal GEOに「北陸地域における炭素繊維複合材(CFRP)の実用化の取組みと政策展開」という題名で公表しました。

電子ジャーナルなので、誰でもアクセスできますので、興味のある方は下記URLにアクセスしてダウンロードしてみてください。

 

繊維産地として名高い北陸地方では、長期停滞している繊維産業の振興として、石川県は金沢工業大学で、福井県福井県工業技術センターが中心となって炭素繊維複合材の開発が進められています。 

2つの県とも研究開発の成果が表れて製品が生れています。ただし、繊維産業としてのノウハウを活かせるのは、プリプレグシートなどの中間財を創るまでで、成形品を創る段階では、樹脂などの成形技術が中心となるので、繊維産業で培った技術はメリットとなりません。また、成形品が自動車部品や航空機部品として展開する際は、繊維産地として高度化するというよりか、自動車や航空機のサプライチェーンの一部になってしまう可能性もあります。

また、今回の取組みは、石川県、福井県、両県とも独自に展開しており、両県をまたがった取組みとして相乗効果を発揮していないと言える状況です。県でこじんまりするのではなく、相互のリソースを融通し合って展開する必要があります。

さらに、日本の炭素繊維複合材産業は、決して国際競争力が高いわけではありません。確かに、炭素繊維東レと中心としたメーカーが世界で60%程度のシェアを持っていますが、国内生産は30%であり、また、炭素繊維複合材としての展開も航空機同体などのみで、成長市場である自動車や風力発電機のブレードなどの展開はほとんど見られなく、ヨーロッパに後れを取っています。また、中国の追い上げも急であり、日本は中国などと競争しながらキャッチアップを図っていくというのが、現状と言えます。

 

 

【抄録】地域経済活性化のために,新たな技術を導入するなどして,競争力を失った地域産業の再生を図る取組みが各地で行われている.北陸地方では繊維産業の競争力強化のために,県が中心となり国の助成事業を活用し,炭素繊維複合材の開発を積極的に行っている.本稿では,北陸地域で展開されている炭素繊維複合材開発の状況と政策展開を明らかにし,産地企業の新技術を用いた実用化の取組みについて分析する.炭素繊維複合材に関して,石川県では大学を中心に研究開発が行われており,企業間のつながりもあり実用化の動きに広がりが見られた.一方,福井県ではコア技術をもとに公設試が中心となり,実用化の展開が図られていた.炭素繊維複合材の開発は,従来産業である繊維産業産地の高度化というより,将来,航空機や自動車部品という全く違った産業のサプライチェーンの一部となる可能性がある。

 

地方国立大学における国際ネットワークの形成

熊本大学におけるマグネシウム合金の研究開発を取り上げ、地域貢献を標榜する地方国立大学においても、世界的な研究を行い、国際的なネットワークを構築している事例を文部科学省科学技術・学術政策政策研究所の機関誌で紹介しました。

[概要]

地域の大学の中には、国際的に見ても卓越した研究を行い、優れた技術シーズを持つ大学がある。熊本大学におけるマグネシウム合金研究もそのうちの一つである。熊本大学大学院自然科学研究科の河村能人教授は自身の科学研究費助成事業(科研費)でマグネシウム合金の研究に着手し、マグネシウムの欠点である機械特性や発火しやすいといった問題を克服した合金の開発に成功した。

更に、県内企業との連携を中心にその実用化を進めると、同時に基礎研究を深耕し、実用化研究と基礎研究を相乗的に発展させている。現在では、国際的な研究センターを有し、国内外の大学や企業と共同研究を行うなどネットワークが広がっている。

研究開発を発展させるには、こうした多様な機関との連携が必要である。そのネットワークの広がりは、センターという拠点で組織的な研究を行うことで、卓越性が認識されたことによると言える。

地方国立大学の多くは大学の機能強化の方向として“地域貢献型”を選択したが、それは地域のみに閉じられた大学になることを意味するのではない。研究の卓越性と地域貢献は矛盾するものではない。

熊本大学マグネシウム合金研究の事例は、“地域貢献型”大学における研究と地域貢献の両立の一つのモデルとなる。

 

日本の大学における科学技術研究力が低下していることは報道などで指摘されていることで、特に地方国立大学では、研究費、人材、設備が不足していて、また研究者は研究以外の業務負担が多く研究する上で多くの困難を抱えている状況です。

 

その様な中で、熊本大学の河村能人教授のマグネシウム合金研究は卓越した研究で、国際的にも広くネットワークを築き、基礎研究から応用研究まで行っています。熊本大学は旧6医科大学グループ(他に千葉大学新潟大学金沢大学岡山大学長崎大学)に属しており、旧帝大に次ぐ伝統ある大学です。そのレベルの大学が、研究大学として生き残るのか、単に地域と連携する大学になってしまうのか、日本の科学技術研究力維持の分水嶺ではないかと思います。

指定国立大学は今後も国立大学として生き残っていくのでしょうが、非指定国立大学は今後、非国立大学になっていくのでしょうか?

 

愛媛大学にも、熊本大学マグネシウム合金に負けないぐらい国際的に評価されている入舩徹男教授の「ヒメダイヤ」という素晴らしい研究成果があることを付け加えさせていただきます。

科学技術イノベーションは地政学的に大きな影響を与える:トーマス・ヘイガー(2010)『大気を変える錬金術』みすず書房

1905年にドイツのフリッツ・ハーバーが窒素と水素からアンモニアを合成する方法を発明し、1913年にBASFのカール・ボッシュが実用化に成功した(ハーバー=ボッシュ法)。それが第1次・第2次世界大戦に与えた影響を記した本である。

窒素自体は肥料として使用されるが、アンモニアは更に反応させるとダイナマイトにもなる。窒素肥料は世界の農業生産を向上させ人類の発展に大いに貢献したが、ダイナマイトは戦争を拡大させた。その科学的発見の功罪が鮮やかに描かれている。

ハーバー・ボッシュ法は確かに破壊的イノベーションではあるが、ハーバーの発見は、,オストワルト、ネルンストなど先人の研究者の肩の上に乗っかって達成されたものである。同時に、カール・ボッシュは、ハーバーの発明をいかに商業ベースに乗せるか、代替触媒の探索や製造機器の設置においては細かな改善を重ねて成し遂げられたものであった。つまり、革新的なイノベーションは改善の積み重ねによって成し遂げられるものであった。

ハーバー=ボッシュ法の開発は、カールスルーエ大学の助教授であったハーバーとBASFの産学連携の物語でもある。BASFのボッシュはハーバーの発明した原理さえ修得してしまえば特にハーバーに頼ることもなく、BASFのみで大学での研究をいかにスケールアップするかの開発に注力していった。

また、第1次世界大戦時、ハーバー=ボッシュ法の発明がなければ、ドイツはチリから硝石を輸入することができず、食料も生産することもできず、第1次世界大戦をそれほど長く戦い続けることはできなかった。また、ドイツが第1次世界大戦に負けることにより、フランス、イギリス、アメリカ合衆国は、ハーバー=ボッシュ法の技術を獲得しようと執拗に圧力を加える。それを守ろうとBASFは製造設備を解体するなど毅然と立ち向かう。科学技術の発明が国富と強兵に直接に結び付いていた。

さらに、ハーバー=ボッシュ法の発明により、チリ硝石の価値がなくなり、それを産出していたチリのイキケは見捨てられた土地となるなど、地域の浮沈に多大な影響を与えた。

本書は科学技術イノベーションの光と影、そしてそれが政治経済的に与える影響を詳細に描いている。 

大気を変える錬金術 新装版

大気を変える錬金術 新装版

 

 

 

 

「深圳」に関する議論が熱い

前回のブログ(12月1日)で深圳について書いた後に、ネットニュースなどを見ていたら、「深圳」について取り上げてる記事が立て続けに出ているので紹介します。

12月2日の「現代ビジネス」に26歳のライター藤田祥平さんが深圳の訪問記を書いています。東京のような高層ビル群、行きかう電気オートバイ、キャッシュレス、シェア自転車など見て、中国の先進性と日本の停滞した社会を比べ日本が負けていると言っています。他のネット記事を見たら、本記事に対して”深圳のうわべだけしか見ていない”という批判をしている人がいました。しかし、本記事は深圳の紹介というより、深圳を見て日本の若者が置かれた閉塞感を訴えている面が強いように感じます。

12月12日の「ニューズウィーク日本版」にジャーナリストの高口康太さんが現地で企業を経営している藤岡淳一さんへのインタビュー記事を書いています。深圳礼賛記事に対して、そんなに甘くないぞと言っています。この記事は深圳についてさわりだけなのでもっと知りたい人は藤岡さんが出した著書「ハードウェアのシリコンバレー深セン」に学ぶ−これからの製造のトレンドとエコシステム (NextPublishing)を見てみるといいでしょう。

最近ブームになっている深圳の言説をみて、12月16日の「President Online」で評論家の山形浩生さんが深圳について評論しています。山形さんは30年近く深圳には通っているそうです。深圳がハードウェアのシリコンバレーになっている実態について紹介しています。

深圳を見て日本が中国に負けたとは思いませんが、日本と中国の市民の差は以前に比べれば大したことないなと思います。人々の身なりもそうですし、深圳は治安が良くなっていますし、公共道徳もよくなっています。デパートの品揃えも松山の百貨店より品揃えがいいです。

下の図は日本と中国のGDPの推移です。2008年に日本のGDPは中国に抜かれてそれから10年もたたないうちに、中国のGDPは日本のGDPの2倍以上になっています。

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http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDPD&c1=CN&c2=JP&s=&e=

私の昨年9月21日のブログ「日本は経済大国でしょうか?」で取り上げましたが、日本は21世紀になってほとんど経済成長をしていません。日本は絶対的には貧しくなっていないし、物価も上がっていなくて、治安もよくていい国であるというのが多くの日本人の感覚だと思います。しかし、所得もずっと上がっていなく、社会保険料など上がっているので可処分所得は下がっているでしょう。

科学技術も転げるように落ちていき、日本が技術力があるといっても前世紀の技術のことでデジタル技術にはついていけてないし、企業の品質も信頼がおけず、GDPが上がっていなければ、日本のとりえは何なのでしょうか?国際的地位も下がるでしょう。一番最初に紹介した藤田祥平さんなどの若者の抱えている閉塞感は理解できます。

 

日本人は中国が嫌いな人が多いらしいです。中国経済破滅論がここ15年近く流布しています、というか、破滅論しかニュースとして売れないのでしょう。しかし、気が付けば中国は日本の倍以上の経済大国です。中国については理性的に議論していく必要があると思います。外交はリアリティを見て中国との関係、およびアジアでの立ち位置を考える必要があるでしょう。

食わず嫌いにならずに、自分の目で中国・深圳を見てみることをお勧めします。

 

 

これぞ沸騰都市 深圳

2008年度のNHKスペシャルで『沸騰都市』という番組をやっていましたが、その時は選ばれなかったですが、どんどん新しい超高層ビルが建設されている深圳こそがまさに”沸騰都市”でした。

下は深圳大学の図書館正面からの写真です。南西には”百度”のビルがあり、北隣にはティンセントの本社ビルがあります。学生は毎日新しいビルが立ち並び風景を見てどう思うのでしょうか?

新築マンションは80㎡前後で5000万円から8000万円で売られていました。大劇院や華強北には新しいショッピングモールがいくつかありましたが、みんな似たような高級ブランドや香港資本のブランドが並んでいて、買い物している人は少なかったです。

不動産の価格調整はいつかは来るでしょうが、それで中国経済・深圳経済が崩壊するとは思えません。なぜなら、新しい技術をもった若い起業家精神に支えられているからです。

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深圳の企業であるBYDの自動車です。Hondaにそっくりです。HyundaiもHondaをマネしてアメリカで成長しましたがHondaの車はマネしやすいのでしょうか?

BYDも電気自動車にシフトしていますが、コストの低減と品質を確保できる大量生産技術をマスターしたら、後の自動車のテイストづくりは日本車に追い付き追い越す目途がついたということでしょう。 燃費のよいエンジンづくりの技術習得は難しいですが、電気自動車は電池とモーターで燃費が決まりますので、勝負できると判断したのでしょう。

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 華強北は中国の秋葉原と言われております。昔秋葉原ラジオ会館に行ったことがありますが、こちらの方が圧倒的に規模が大きいです。

下は賽格集団のビル内の様子です。ありとあらゆる電子部品が売られています。このような賽格集団のような部品専門店ビルがいくつもあります。

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<深圳のメイカーズムーブメント>

深圳のメーカーズムーブメントについては、ニコ技深圳観察会や主催者の高須正和さんの本でも紹介されているので詳しく知りたい人はそちらをご覧ください。 私は2つ訪問しました。

 

 先の電子部品の大きな売り場がある賽格集団ビルです。この高層ビルの12階に賽格衆創空間(Seg Maker+)が入居しています。ビルの下に部品屋がありいつでも調達できるのは便利ですね。TencentやHuaweiなど地元の企業が支えているのが特徴の一つかもしれません。

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深圳の南の福田保税区にあるSZOIL(Shenzhen Open Innovation Lab)です。こちらは2年前にできた新しいメーカーズスペースです。上海のハックスペース新车间XinCheJianのDavid Liが代表を務めています。この街区一帯がデザインにフォーカスした空間づくりをしていて、深圳市工業設計行業協会(SIDA)が中心となって組織しています。MITのFabLabが支援している点と教育に重点を置いている点が特徴とプロジェクトマネージャーの方が言っていました。

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<香港空港から深圳への行き方>

香港空港から深圳への行き方はいくつかのブログでも紹介されていますが、ちょっと補足しておきます。

当日、中国元を持ち合わせていなかったので、どこで降ろされるかわからないバスより、電車で行くことにしました。

空港からエアポート・エクスプレス(105HK$)に乗り、九龍駅でおります。地上Bに出ると税関のある羅湖(Lo Wu)駅に行く東鉄線の始発駅である 紅磡(Hung Hom)駅行きの無料シャトルバスが15分に1本に出ているのでそれに乗ればOKです。紅磡(Hung Hom)駅から羅湖(Lo Wu)駅まで約30~40分です(40HK$)。

羅湖(Lo Wu)からは地下鉄1号線に乗り5つ目の駅が華強路駅です(3中国元)。

下の写真は羅湖(ローウー)口岸です。奥の中国式の建物が税関のある建物です。右のガラス張りの建物が広東駅や北京駅・上海駅などに行く深圳駅です。

税関を出たすぐの中国銀行はVISAで中国元を引き出せませんでしたが、深圳駅にある中国建設銀行のATMなら中国元を引き出せます。どちらにしても両替屋が何軒かあります。

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深圳には香港経由で行きました。香港は28年ぶりです。昔は、ノーマン・フォスターの香港上海銀行ビルとI.M.ペイ中国銀行タワーぐらいしか大きな建物はなかったのですが、今ではそれらが小さく感じるように、より大きなビルがず~と立ち並んでいます。

街ゆく人々もひょっとすると東京よりあか抜けているかもしれません。

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イギリス文化都市2017年に選ばれたハル

ハルは人口26万人のイングランド中部の北海に面した港町で栄えた町です。

EUではヨーロッパ文化首都(Capital of Cluture)という政策があり、年に2都市選んで文化振興を図っていく取組みがされています。イギリスでは1990年にグラスゴーが、2008年にリバプールが選ばれ、美術館やホールなどがきれいに整備されました。

ただ、EU加盟国数は28か国なので14年に一度しかヨーロッパ文化都市の称号は得られません(UKはもうすぐEUから脱退しますが…)。そこで2013年から4年に一度イギリス文化都市が選定され、今年はハルがその栄誉にあずかりました。

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街はずれの港湾地区にあるフルーツマーケットという地区では昔の建物を利用しておしゃれなレストランに改造されて人びとで賑わっています。ちょっと話題の地区です。

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町の至るところに古い建物が残っています。下の写真はギルドホールです。現在市役所として使われています。

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 片方だけ持ち上がる跳ね橋です。産業遺産も結構あります。

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 倉庫脇のフェンスに面白いオブジェが飾ってありました。

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”ハルは産業も衰退して地域経済がとても悪い”と聞いてやってきましたが、日曜日だったせいもあり、活気もあり、人々もミドルスブラに比べれば豊かそうな様子でした。ロンドンやマンチェスターなどに比べれば活気はありませんが、そこそこ生活しやすそうな町でした。

 

デトロイトは復活できるのか?

 8月にデトロイトに行ってきました。産業の盛衰と都市の変化について題材探しをしており、デトロイトは極端な例ですが産業と都市の関係を考えるには外せないケースです。

市の中心部のメイン通りです。トラムも南北に走り、とても明るい感じです。ソフトウェア関係の企業などが立地していたり、超高層ビル建設の計画もあります。再開発が進みとてもきれいです。メイン通りなら夜でも歩けます。

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下の写真はパッカード自動車工場の跡地です。典型的な廃墟で絵になります。タクシーで行きましたが、ちょっと停車しただけで民間のセキュリティー会社のパトカーがすぐに来て”すぐに立ち去りなさい”と言ってきました。すれ違いの自動車の運転手は中指を立てて何かを叫びながら通り過ぎていきました。

この辺りは昼間でもやばい感じです。 

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フォードがベルトコンベア方式の大量生産方式を確立したハイランド工場跡地です。一部建物が残っていてテナント事務所・作業所として貸しています。この辺りは、正式にはデトロイト市ではなく、デトロイト市の中に小島のように取り囲まれたハイランド市になります。デトロイト市にはまだ、GMの工場などが残ってます。

デトロイト市は財政が厳しいため、消費税率も他の市より高く、またアメリカの都市では珍しくないですが、税収が確保できるためマリファナが公式に売られています。 f:id:ehimeman:20171201135717j:plain

 

エミネムの映画の舞台となった8マイル通りです。本当にこの道路を境にデトロイト市は廃墟となっており、北隣のサウスフィールドはきれいなオフィスビルが立ち並んでいます。

デトロイトは市は破綻してますが、都市圏で見ると豊かな地域が広がっています。周りの市がデトロイト市の財政を救うという動きは無いようです。

デトロイトは、ルネッサンスセンターのある中心地からウェイン州立大学までと都市圏郊外の市は比較的安全ですが、州立大学の北から8マイル通りまでのデトロイト市内はかなり危ないです。その地域に最近ではイエメンやシリアなどからの移民が流れて来ているそうです。そうすると元々いた黒人住民とイスラム系住民とのいざこざも起きそうです。

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 1967年の大暴動前のデトロイトの絶頂期の様子は「Once in a Great City」によく書かれています。ケネディー大統領とのつながりや、オリンピックへの立候補、モータウンレコードの活動などが詳しく描かれています。デトロイトの大暴動についてはもうじき映画が公開されるようです。

Once in a Great City: A Detroit Story (English Edition)

Once in a Great City: A Detroit Story (English Edition)

 

  下記の本は、デトロイト財政破綻から自律的再生の動きについて書かれています。インキュベーションも盛んに取組まれていますが、自生的に再生するのは非常に困難なように感じました。

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

 

 

 

アイントホーフェンのオープンイノベーションの取組みについて発表してきました。

本日、愛媛大学中四国都市学会がありまして、昨秋調査しましたオランダのアイントホーフェンの事例を発表しました。

要旨は下記の通りです。将来的には論文にまとめられたらいいなと考えております。

 

【要旨】オランダのアインホーフェン市はかつて電機メーカーのフィリップス社の企業城下町として繁栄を享受した。しかし、1980~90年代の事業のリストラ、本社のアムステルダムへの移転などにより市経済は苦境に陥った。

そのような危機をバネに、市は単独企業に依存しない新たな都市空間を構築した。その都市の変革には3つのポイントがある。

第1にオープン・イノベーションをコンセプトにフィリップス社用地を解放し、多様な企業の立地を促進している。

第2に自治体だけでなく産学官が連携したガバナンス体制を構築し、効果的なマネジメントを行っている。

第3に新しい投資や人材を獲得するための強力なブランド展開を行っている、点があげられる。

都市の変容は、物理的空間として施設群の改変を図るだけではなく、併せて空間を構成する企業や人を刷新するための様々なマネジメントが展開されたうえでなされるものである。