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まちづくりを取組む前に読んで戦略を考えよう『まちづくり戦略3.0』[読書]

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小林大輔(2021)『まちづくり戦略3.0』かんき出版

 

まちづくりの取組みが日本全国で行われています。しかし、それらの取組みの多くは成果を上げているとは言えない状況です。
そこで、著者はまちづくりを成功させるには、必要なアプローチがあると本書で示しています。

 

■本書から得られるもの
著者はいろいろなまちづくりを行ってきた体験に基づき本書を書いており、本書はまちづくりのプロジェクトを立ち上げようとしている人に対して、心構え、考え方、進め方を提示しています。
本書は、強調するポイントは太字であったり、緑色のマーカーが引かれてあったりするので、重要なポイントが何なのか要領良く読むことができます。

 


■著者のプロフィール
小林大輔
・株式会社SUMUS(スムーズ)代表取締役社長。新潟県高田市(現上越市)生まれ、その後は千葉県東金市で育つ。祖父は材木業、父は工務店を経営。法政大学経営学経営学科卒。経営コンサルティング会社を経て独立。
・2015年、株式会社SUMUSを創業。住宅メーカー、リノベーション会社を中心に経営コンサルティングを行い、500社以上のクライアントをサポート。
・地域そのものをリノベする「まち上場」を実現させるコンサルティング案件が多く、サービス継続率は96%と高い実績を誇る。しかも扱う地域は、大都市圏どころか県庁所在地でもなく、カネ、人、知名度が決して潤沢とは言えない地域ばかり。

 

■どのような本なのか
<目次>
第1章 弱者の正しい戦い方を、9割以上の人が知らない
第2章 小さなことから、大きなことへ…これが弱者の正しい戦い方
第3章 真の成功とは「上場」である
第4章 ステップ1 ソリューションの検討
第6章 ステップ3 場をつくり、運営をする
第7章 ステップ4 ルールをつくる

 

<本の概要>
著者が伝えたかったこととして、以下3点が挙げられます。
①地域は大きな課題を抱えています。しかし、それに真正面から取組むのではなく、自分が弱者だと認識、弱者に合った戦略をとる必要があります。
それがランチェスターの法則です。
ランチェスターの法則とは、簡単に表現すると、「大企業が参入していない分野を見つけて集中的に攻める(集中戦略)」「自社の強みを活かして勝てる分野で戦う(差別化戦略)」などを駆使し、大企業とは勝負しないで戦いを有利に進めていきます。つまり、弱者が強者に勝つためには一点突破していくしかないということです。著者は、まちづくりでは弱者のアプローチが重要だとしています。

 

②まちづくりの実践方法として4つのステップを提案しています。
【ステップ1】ソリューションの検討:プチ起業という発想をすれば、スタートを切りやすくなる
【ステップ2】人を巻き込む:NSNでファンを増やす。ファンをリピーターと仲間にかえていく
【ステップ3】場を作り、運営する:「集客数×非離脱率×客単価」の最大化で収益を出し、再投資を繰り返して成長させる
【ステップ4】ルールをつくる:短期目標と中長期目標を設定し、それを実現するルールで回していく


③まちづくりのゴールは金銭的価値を上げていくことであり、著者はそれを「まち上場」と称しています。そして、「まちの上場」を実現するための8か条をあげています。
1)スモールスタート・スモールゴール
2)スローディベロップメント
3)多様性を重視
4)まちの価値を計算する
5)利益の再投資
6)メディアを持つ(SNSやオウンドメディア、動画の活用)
7)意思決定ルールをつくる(コアメンバーとサポートメンバーをつくりつつ)
8)原価志向から抜け出す(原価思考から価値思考へ)

 

■感想
・地方圏の市の中には、町村ではなく市のステータスなので自分のまちは都市であると誤認している自治体が多くあります。特に合併市町村は人口規模が大きくなったので、集積もないのに都市型の施策を展開しがちです。


・まちづくりとは、人々を呼び込むことであり、ファンづくりであり、結局コミュニティづくりなのだということがわかります。


・著者は実業家なので、本書に書いてあるプロジェクトの進め方はまちづくりだけではなく、普通の事業でも通用する考え方です。

 

■こんな人におすすめ
まちづくりを始める前に、その取組みが正しいかどうか、自分の考えを整理してみたい人におすすめです。


■まとめ
・本書は、まちづくりのプロジェクトを立ち上げようとしている人に対して、心構え、考え方、進め方を提示しています。
・著者の実体験に基づいた内容なので、机上の空論ではなく説得力があります。
・著者の提案する4つのステップにのっとってプロジェクトを進めて、たとえ上手くいかなくても、大やけどはしないでしょう。なぜなら、著者は小さく始めて大きく育てようとの戦略をとるべきであるとしているからです。

地域創生に携わっている人たちのためのガイドブック『地域づくりのヒント』[読書]

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牧瀬稔(2021)『地域づくりのヒント』社会情報大学院大学出版部


2014年からの安倍内閣の地方創生政策から約8年が経ちます。地域では多くの人々が地域づくりに携わっています。しかし、地域づくりに成功しているところもありますが、多くの地域では成果をなかなか挙げられずにいると言ってよい状況です。

 

■本書から得られるもの
・この本は、サブタイトルにある通り「地域創生を進めるためのガイドブック」です。地域づくりを成功させていくためのヒントがちりばめられています。
自治体職員や商工会関連職員などとして地域活性化施策に携わっている人にとって、地域創生に関わるキーワードや考え方を改めて知りたい人にとても有益です。
・著者は多くの自治体でコンサルティングとしているため、最近の自治体の政策のテーマに合った丁寧なQ&Aをがあります。

 

■著者のプロフィール
牧瀬 稔(まきせ みのる)
社会情報大学院大学特任教授、関東学院大学法学部地域創生学科准教授
法政大学大学院人間社会研究科博士課程修了。専門は自治体政策学、地域政策、地域創生、行政学。民間シンクタンク横須賀市役所(都市政策研究所)、財団法人日本都市センター研究室、財団法人地域開発研究所等を経て現職。2021年度は、北上市日光市春日部市東大和市、新宿区、西条市、美郷町などの政策アドバイザーとして関わっている。

 

■どのような本なのか
<目次>    
第1部 地域創生の論点(地方創生の総括;躍動する地方創生の事例;公民連携とオープンイノベーション ほか)
第2部 地域創生のキーワード(地方創生のキーワード;地域イノベーションのキーワード;未来創生のキーワード)
第3部 地域創生のQ&A(地域イノベーションの視点;定住人口・移住促進の視点;観光誘客(交流人口)の視点 ほか)

 

<本の概要>
・著者は、地域の課題を解決する取組みとして、「地方創生」は「国や地方自治地が実施する創生活動」と、「地域創生」は「自治体の区域という地域における創生活動」と使い分けています。地域の課題を解決するためには、革新的(イノベーション)な志向が必要となってきます。
・地域づくりは、地方自治体だけで実現できるものではないです。産学官金労言士と多様な関係者との共創が求められています。公民連携により地域の課題を解決するイノベーションが生まれます。

・公民連携、EBPM、SDGs、関係人口など最近の政策のキーワードについて改めて理解を深めることができます。

 

■感想
・地方は都会と違い変化が少ないと思われがちですが、地域づくりの現場はいろいろな政策やトレンドに追われて、てんてこ舞いな状態です。
・政策キーワードが幅広く整理されているので、本書を頭から最後まで読了しなくても、関心あるところだけレファレンスに読むのもありだと思います。
・最近の政策トピックから組織のあり方まで現場のお悩み相談のようなQ&Aが丁寧・親切に回答してあり充実しています。

 

■こんな人におすすめ
・地方公務員
・地域づくりに携わっている商工会、農協などの団体職員

※現役の公務員だけでなく、地域活性化のために将来地方公務員になりたい学生にも、地域づくりの現場感を知る上で参考になります。

 

■まとめ
・地域づくりの成功のためのヒントがちりばめられています。
・地域創生の現場で働いてる人たちが理解しておきたいキーワードや政策づくりにおける疑問点にも丁寧に答えているので、日頃の取組みに何らかのヒントをもたらすと思います。
・公務員志向の学生にも薦めてみようと思います。

 

地域経済のレジリエンスって何?[解説]

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レジリエンスという言葉を聞いたことがありますか?
レジリエンスとは、回復力があるとか、抵抗力があるなどという意味で、最近では政策用語としても使われる言葉です。


欧米ではレジリエンスのある地域経済の構築を目指した取り組みが積極的に展開されています。今回は、そのレジリエンスという概念を地域経済にあてはめて考えるにあたり欧米の研究者での議論を中心に紹介していきます。

 

■背景

レジリエンスとは、心理学で主に使われていた言葉で、折れない心、打たれ強い心の要因として取り上げられてきました。
最近の日本でも、災害に強いレジリエンスのある地域をつくるとして国土交通省の「国家強靭化基本計画(2018年)」のような形で使われたりしています。


レジリエンスという概念を地域経済に適用する議論は欧米では2000年頃から比較的活発になってきました。


2000年のITバブルの崩壊、2008年のリーマンショックなど、経済は活況を呈するとその後には必ずといっていいほどバブルの崩壊が起こります。他にも自然災害気候変動などのショックでも地域経済は大きな変化を余儀なくされます。

リーマンショック以前には強い経済・大きな経済が標榜されていました。当時活況であった金融セクターや自動車産業を抱えた地域ではリーマンショック後に地域経済の落ち込みが激しかったです。

一方、急激な経済の落ち込みが少ない地域や落ち込んでも比較的回復が早かった地域がありました。

 

そこから、地域経済は早く大きく成長することを目指すより、ショックがあった時に大きな落ち込みがないことの方が重要ではないかと、地域経済のあり方に関する考えが改められてことから、レジリエンスという概念が研究者や政策担当者に注目されるようになりました。

 

 

■地域経済におけるレジエリエンスとは何か

先述した通り、地域経済のレジリエンスについて研究者の間で議論が活発にされています。


そこでイギリスの経済地理学者であるマーティンとサンレー(2014)は、地域経済のレジリエンスを以下のように定義づけました。

 

<地域経済におけるレジリエンスの定義>

地域または地域経済が、必要に応じてその経済構造および社会・制度構造に適応的な変更が加わることによって、地域経済の発展成長経路が市場、競争、環境の衝撃に耐える、または回復する能力。物理的、人的、環境的資源をより生産的に活用することによって、これまでの発展路線を維持・回復し、あるいは新たな持続可能な発展路線に移行すること。(By Martin and Sunley 2014,p.13)

 


では、地域経済におけるレジリエンスとはどのようなものなのか、以下に具体的に見ていきます。

 

レジリエンスのフェーズとプロセス>
ショックを受けた地域経済がショックから回復するのは、ショックを受けたらそのまま回復するのではなく、4つのフェーズを経て回復します。

まず、ショックを受けて地域経済が脆弱になります。
脆弱になった地域経済に耐性が生まれます。
耐性が生まれた地域経済が堅牢になっていきます。
堅牢になっていた地域経済が回復していきます。

 

レジリエンスのプロセス:脆弱性→耐性→堅牢性→回復性

 

レジリエンスのタイプ>
ショックを受けても地域経済は回復度が異なってきます。そこでレジリエンスには3つのタイプがあります。


1つ目-ショックからの回復(元に戻るちから):ショックを受けた地域経済が元のレベルに戻るタイプ
2つ目-ショックを吸収:ショックを受けた地域が、その後ショックは吸収するが元とは違い、やや劣化した状態になるタイプ
3つ目-ショックにポジティブに適応:ショックを受けた地域が、元のレベル以上に進化的に姿を変えるタイプ

 

レジリエンスの構成要素>
地域は持てる資源やコンテクストが異なります。そこで地域によってレジリエンスは多様と言えます。しかし、地域経済のレジリエンスには共通点があり、レジリエンスには5つの構成要素があります。


1.ビジネス・産業構造
2.労働市場
3.金融
4.ガバナンス
5.ローカルの独立した機関と意思決定

 

これら5つの要素が合わさりながら地域経済のレジリエンスを決定づけているとされています。


レジリエンスにとって重要なこと>
レジリエンスとって重要なことは適応能力です。レジリエンスとは、ショックでも変わらないことではなく、変化に対応するダイナミズムです。

 

適応能力としてのレジリエンスとして必要なことは、地域資源はもちろんのこと、機関や人を結びつけるコーディネート力、地域の機関や人が連携して行う学習能力、地域の産学官の諸機関を結びつけたガバナンスです。

 

レジリエンスのある地域経済を構築していくための政策のゴールとしては、新たな発展経路を作れるかどうかです。それはつまり地域の産業構造の再構築を意味します。

 

よって、地域経済にとってレジリエンスとは歴史的な進化プロセスであり、関連する多様性があることがレジリエンスにつながります。従来、クラスターなどで集中化することが発展の方策と考えられていましたが、選択と集中による集中化では経路が見つけにくくなり、それにともないショックからの回復が遅くなります。なので、経路が見つけやすい多様性が求められます。

 

また、レジリエンスは地域(ローカル)の力だけではなく、ナショナルやグローバルな力が必要となります。それらの地域外の力を地域に導入することでレジリエンスが強まります。そのためにも開放的であることが求められます。つまりは、内発力と外発力のバランスが必要と言えます。

 

 

■まとめ

・地域経済のレジリエンスとは、ショックから元に戻ることだけを意味するのではなく、新たな形態に再構築することを意味する場合もあります。

 

レジリエンスは、地域資源が重要であり、同時に産業・ビジネス構造、労働市場、金融、ガバナンス、および機関の意思決定で構成されています。

 

レジリエンスで必要なことは、組織間の連携を迅速で柔軟に構築して対応ができることであり、失敗などを学習により修正していくことです。また、そのためには機関や人の多様性、開放性であることが求められています。

 

 

■日本への含意
日本は災害が多いので、レジリエンスの議論はどうしても土木整備中心になり、コンクリートで固めて強い地域を作るというように捉えられます。
しかし、レジリエンスの本来の意味は、ショックにも適応できる柔軟さやしなやかさというものです。

 

最近の日本の地域政策では目指すべき目標やビジョンが曖昧と言えます。今後の地域経済のあるべき姿として、量的成長だけを求めるのではなく、ショックに強いレジリエンスのある地域経済づくりというコンセプトは使えるのではないでしょうか。

 

 

■参考文献

Ron Martin, and Peter Sunley (2014) On the notion of regional economic resilience: conceptualization and explanation. Journal of Economic Geography, pp. 1–42

 

 

レジリエンスについて理解したい人におすすめの本

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大学の新入生に大学での学びについて考えるために薦める本7選[読書]

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この春から大学に進学する人もいると思います。

大学での学びは高校までの学びとは違います。

高校までは先生の言われたことをノートに板書して覚えることが中心だったと思います。

しかし大学では、先生の板書は気まぐれだし、板書をしない先生もいます。

そして、テストでは覚えたことをそのまま書き出すことではなく、自分の意見が求められます。

また、高校までは”生徒”でしたが、大学からは”学生”になります。

 

大学では、自らが主体的に知識を獲得し考えを作り上げていく姿勢が求められます。

そこで、これから”学生”になる人たちに、改めて大学での学びについて考えてもらいたく、

その際に参考となるであろう本を紹介いたします。

 

《お薦めする本7選》

 

上田紀行 編著(2020)『新・大学でなにを学ぶか』

東京工業大学の教養系の13人の先生が、それぞれの観点から大学での学びについての考えを述べているオムニバス本です。分野もそれぞれ異なる学者が自分の体験から学び面白さや苦労を述べています。

学びに絶対的な方法があるわけではなく、それぞれが試行錯誤しながら身に着けていることがわかります。

いろいろな学問分野の学びについてのエッセーとして面白いです。

今井むつみ(2016)『学びとは何かー〈探究人〉になるために』

著者は慶応義塾大学の認知科学の先生です。本書は専門的でとっつきにくい点はありますが、学ぶということが受動的に知識を記憶することではなく、探究型で能動的に知識を獲得することであるということがわかります。

また、アクティブラーニングを、表層的に捉えるのではなく、知識獲得のメカニズムとして必要なことがわかります。

本書を通して今までの学習観を刷新してほしいです。

岡山大学文化人類学を教えています松村先生は本書の中で、「大学は『学問』をする場所です。その『学び』は、高校までの勉強と目的や方法が少し違います。大学では、正解を知っていたり、問題の正しい解き方を憶えたりすることは、かならずしも重要ではありません。食い違う情報の中から、みずから問いをたて、複数の視点やアプローチを試しながら、自分なりの『答え』を探ることが求められます。」と言っています。

大学の先生がどのようなことを考えて教えているのかを知りたい人におすすめです。

斉藤孝(2020)『人生が面白くなる 学びのわざ』

本書はNHK出版から発刊されている104ページほどのMookですので、内容も難しくありません。軽く手に取って読んでみるのも良いと思います。斎藤先生は教育学者であり、他にも学びについて多くの著作を出版しています。

本書は、”学び”とはと改めて考えてみたい人におすすめします。

東谷護(2007)『大学での学び方:「思考」のレッスン』

成城大学の共通教育研究センターが監修しているため、本書は大学での学びを、思考の準備→「読む」→「問う」→「練習する」→「調べる」→「書く」の流れがわかりやすく示しています。

大学での学びの流れをつかみたい人におすすめします。

宮内泰介・上田昌文(2020)『実践 自分で調べる技術』

上記の本が大学の学びのプロセス全体を要領よくまとめている本に対し、本書は調べることに特化して、そのメソッドを紹介しています。

本書では、文献や資料の探しからから、フィールドワークの仕方、ヒアリングやアンケート、データ整理について一通り解説していますので、調査法の入門として最適と思います。

大学では「調べなさい」という課題が多く出されると思います。と言っても、どのように調べてよいかわからないことが多くあります。そのように調査法に戸惑った人におすすめの本です。

読書猿(2020)『独学大全』

私が考える大学卒業時までに身に着けていもらいたい能力は、独学できる能力です。

この本は、通して読むというより、何か勉強してみたい、調べてみたいという時に参考書のように使ってみるという使い方が良いと思います。

しかし、この本を使いこなす前提としてある程度高い知性が必要です。

なので、私が考える大学卒業時までに身に着けてもらいたい能力としてはこの『独学大全』を使いこなせることと言い換えることができます。

 

2022年3月19日作成

地域イノベーションとは何か?[まとめ記事・解説]

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今まで地域イノベーションについて、いろいろと記事を書いてきました。今回はそれらを取りまとめて、地域イノベーションについて概括していきたいと思います。

 

《目次》

 

■地域イノベーションとは何か

地域イノベーションという言葉をよく聞きますが、それが指す言葉の意味が曖昧です。「地域」という言葉も「イノベーション」という言葉も定義されていないことが混乱を巻き起こしている要因と考えられます。

 

地域とは、地域ガバナンスの空間スケールとして広域圏や県などのサブナショナルやローカルやコミュニティーレベルというものがあります。

 

同時に、イノベーションとは、成果が財貨かサービスか方法か、イノベーションインパクトとして革新的(ラディカル)-漸進的(インクリメンタル)なものか、イノベーションのセクターとして科学技術型やデザイン型、アート型、ビジネス型か、また経済的なものか社会的なものかなど様々なイノベーションの種類があります。

 

つまり、地域イノベーションとは、「地域」という語の多義性と「イノベーション」という語の多義性が掛け合わされたものであるので、明確には定義づけられていないのが現状です。

 

しかし、様々な議論や事例から共通項を抽出して地域イノベーションを定義づけてみると、「地域において、地域の人や機関が主体となって、地域の資源を活用して開発した革新的なものやサービス」ということができます。

 

→(ブログ)地域イノベーションって何なのか? - 地域戦略ラボ

 

<地域イノベーションのタイプ・類型>

先述したように、地域もイノベーションも多義的なため地域イノベーションは多様と言えます。そこで地域イノベーションの取組みを俯瞰してみますと、地域イノベーションは大きく4つに分類できます(一つについてはさらに2つにわけることができます)。

 

第1は、技術基盤構築型の地域イノベーションです。この地域イノベーションは、研究能力の高い大学を中心とし、地域内および地域内外の産学官の組織が連携し、技術基盤を成長のエンジンと位置づけて行う取組みです。

このタイプは、技術の特性によりハイテク型とローテク型に分けられます。


ハイテク型は先端科学技術を活用した地域イノベーションであり、ラディカル(革新的)なイノベーションの創生を目指す取組みであり、国のナショナル・イノベーション・システムの一部を構成するものです。

代表例としてシリコンバレーが挙げられます。政府の地域イノベーション政策の多くはハイテク型の地域イノベーションの創出を目標としています。科学技術型のハイテクイノベーション国際的な競争が激しく、一般的に多額の研究開発費を必要とします。


ローテク型は、技術基盤構築型であるが技術の応用分野が必ずしも先端分野ではない地域イノベーションです。

ローカル地域ではハイテクでないイノベーションの実現性が高いです。特にものづくり系、食品・農林水産系イノベーションはこのカテゴリーに入り、改善型のイノベーションである場合が多いです。


第2に、特定の地域や場所における先導的テストベッドまたはリビングラボとしての地域イノベーションの活動です。

スマートシティ高齢化社会への対応などの社会課題を解決するためには様々な技術や知識の創造・融合が必要であり、研究開発を社会実装に結びつけるために都市・地域の内外の機関が産学官によりオープン・イノベーションに取り組んでいます。

しかし、必ずしも地域内で生産活動の価値連鎖が埋め込まれるとは限らないという課題があります。


第3に、社会イノベーションの取組みがあげられます。最近は経済的利益や経済成長を追求する取組みより社会的改善を目指す取組みへの関心が高まっているおり、近年、地域の社会課題解決のための社会イノベーションが注目されています。


第4に、地域内の組織を中心に関係を構築し、地域の資源を活用した内発的に創出された地域活性型イノベーションがあります。

各地で取り上げられている地域イノベーションの取組みを見ると、ちょっとした改善・改良でも革新的(イノベーティブ)と銘打っています。これらは、地域活性化の取組みの当代的表現として地域イノベーションと称しているもの、つまり政治的・政策的タームとしての地域イノベーションと言えます。

 

→(ブログ)地域イノベーションを5つに類型化してみました。 - 地域戦略ラボ

 

<地域イノベーション・システムの構成>

従来、イノベーションは、企業内で起こされるものと捉えられてきましたが、現在では、企業単体ではなく他企業とのアライアンスや大学や公設試験研究機関との連携など企業外とのネットワークの中で起きるものであると捉えられるようになってきています。

つまり、イノベーション創出のためには制度的環境が重要になってきています。

 

地域イノベーション・システムは、地域の生産構造におけるイノベーションをサポートする制度的インフラと解釈することができます。


そのような地域イノベーション・システムの構成要素は下図のような構造となっていります。

 

活動の中心として地域の産業企業群を囲う顧客、下請業者、協力企業、競争企業からなるクラスターがあり、知識の適用・活用のサブシステムとして位置づけられています。

そして、それを支える技術仲介機関や教育機関などの知識の創造・普及のサブシステムと、行政や地域開発会社による地域政策のサブシステムの3部分により地域イノベーション・システムが構成されています。

そして、それらサブシステム間では政策などを介して知識、資源、人的資本のフロー及び相互作用が生じています。

同時に、地域イノベーション・システムは国のイノベーション・システムや国際的な諸組織・政策の影響を受けています。

 

そして、現在、世界各地でイノベーションを生むための空間的制度としてのイノベーション・システムの構築競争が行われています。

 

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地域イノベーション・システムの主要構造(資料)Autio(1998),Tödtling and Trippl(2005)

 

→(ブログ)地域イノベーション・システムの構成要素 - 地域戦略ラボ

→(ブログ)地域イノベーションにおける経路依存と経路棄却 - 地域戦略ラボ

 

■地域イノベーションの研究動向

1992年のクック(Cooke)の論文を嚆矢として、地域イノベーションに関する研究が盛んになっていきました。

地域イノベーション・システムという言葉は1990年内半ばごろからみられている用語です。

最近、学術誌 Regional Studies で地域イノベーション・システムのコンセプトが提唱されてからの約25年の間に研究がどのように変化しているかをサーベイした論文が発表されました。

Cristina Fernandes , Luís Farinha , João J. Ferreira , Björn Asheim & Roel Rutten (2020)

→(論文)Regional innovation systems: what can we learn from 25 years of scientific achievements?

 

そこでは引用度の高い論文64本の共著関係から、地域イノベーションの研究分野領域として、地域知識システム地域制度システム地域研究開発システム地域ネットワークシステムの研究クラスターがあると認識されています。

 

 

<アーバンイノベーション・システム>

最近、地域イノベーションの議論は、地域という漠然とした空間から都市に焦点が移っています。元々、都市は多様なアクターによる異種受粉効果が働くため、創造性が高く、イノベーションが起きやすいとされてきました。


ITおよびデジタル技術は現代において発展著しい汎用技術であり、都市はITおよびデジタル技術開発のための場となっています。自動運転などのモビリティ技術や、エネルギーシステム、防犯・監視システム、電子決済システムなど、デジタル技術により新たなサービスが開発されています。

それらはスマートシティーにおける中核的な取組みです。それらのサービスは、試験的に社会で実際に使いながら改良を図る形で開発されています。そのような試験的に開発が行われる場をリビングラボと言います。それらを総称して、アーバンイノベーションと呼称されます。

また、都市では様々なデータが収集され始めているため、AIなどを使用し、それらデータの分析が行われています。これはアーバンデータサーエンスとして新たな研究のフィールドが広がっていることを意味します。そして、スマートシティをイノベーションシステムと捉えることも可能です。

 

 

<地域イノベーション・システムの進化>

(1)システムからエコシステムへ
近年、地域イノベーションシステムの議論は、イノベーションの創出には地域の持つ文化や風土が大きく影響しているという観点により、工学的な視点であるシステム論から生態論的なエコシステム論に推移しています。

 

シリコンバレーは、人々、企業そして制度と、それらのネットワークとさまざまな相互作用から成り立っている自然の生息地であり、それは複雑で、流動的な、相互依存関係なため生態学的で真似しにくい点が特徴です。

イノベーションのエコシステムの特徴として、企業の協働的関係性の構築しやすさがあります。同時に、ITやデジタル技術などでその関係性の構築は容易になっているとしている。

イノベーション・エコシステムは、個人や事業などの活動者(actors)と活動(activities)と製品や技術など(artifacts)で構成される進化系です。

また、エコシステムでは技術などの知識創造活動が盛んである点の他に、起業活動が盛んである点が挙げられれます。

新たなベンチャー企業の創出とそれらの企業の創出を支援するベンチャー・キャピタルアクセレレーターが重要な役割を果たしています。

 

(2)3重らせん構造モデルから4重らせん構造モデルへ
イノベーションの創出を促進させるためには、多様な組織との結びつきによる新たな知の創造が求められています。

その代表的モデルとして企業、大学や研究機関、自治体などの行政機関の3つの組織が相互に影響を与え合いながら共に進化していく制度的枠組みが必要であり、エツコウィッツはそのような産学官の連携の仕組みを3重らせんモデル(Triple Helix)としていっます(Etzkowitz and Leydesdorff, 1995)。

 

しかし、従来の3重らせんモデルでは産業界のニーズにあった産学官連携が図られることが多く、大学の行き過ぎた商業化や社会的格差が放置されることもあります。

また、スマートシティにおけるリビングラボで市民の役割がイノベーションの創出において重要となっているため、最近ではイノベーションのプレイヤーとして産業・学術・行政のほかに市民や非営利団体などを含めた4重らせん構造(Quadruple Helix)の重要性が指摘されています。

 

→(ブログ)地域イノベーション”に関する研究はどのような状況ですか? - 地域戦略ラボ

→(ブログ)地域イノベーションに関連するいろいろなコンセプト[研究メモ] - 地域戦略ラボ

 

 

■地域イノベーションの事例

▼神戸モデル

神戸市では1995年の阪神大震災後の地域の産業創造として、医療産業にターゲットを絞り産業振興を図っていきました。ポートアイランドを中心に病院や研究機関などの集積が見られます。神戸は地域イノベーション・システムの事例としてよく取り上げられています。しかし、国際的に有名な中核となる機関・企業がなく、競争力のある産業にはまだ育っていないのが現状と言えます。

 

▼福岡モデル

福岡市では起業促進をテーマに、内閣府の国家戦略特区を活用し地域活性化を図って最近注目を集めています。福岡市および九州において半導体の産業集積は見られますが、福岡県では経産省文科省クラスター政策では半導体開発をテーマにイノベーションの創出を図っていました。現在の起業促進の取組みと半導体開発促進は直接的な関係はありません。

 

▼鶴岡モデル(山形県

2001年に慶応大学先端生命科学研究所が進出してから、2003年に「ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ」が設立され、2013年12月に東証マザーズ市場に上場しました。その後も、人工クモ糸繊維の量産化技術を確立した「Spiber」(2007年)、唾液からがんなどの疾患を検査する技術を開発した「サリバテック」(2013年)、独自のバイオ医薬品開発プラットフォームを有している「MOLCURE」(2013年)、人の便から腸内細菌の遺伝子情報を分析する「メタジェン」(2015年)、移植用の心臓組織の製造する「メトセラ」(2016年)と6つのバイオベンチャーが生まれ注目されています。鶴岡の取組みは「鶴岡の奇跡」と呼ばれています。

 

▼豊岡モデル(兵庫県

豊岡市では、野生コウノトリの人工繁殖に取り組んできた地域であり、コウノトリを育む環境にやさしい農法を活用した稲作が行われています。それを契機として自然共生社会として持続可能な地域社会の構築を目指し、コウノトリツーリズムや、自然エネルギーの利用の促進、環境型の企業の集積を目指す取組みが行われています。ローテク型のローカルイノベーションの取組みと言えるでしょう。

 

→(ブログ)ローカル・イノベーションに関する論考が公表されました。 - 地域戦略ラボ

→(ブログ)地域活性化のためのイノベーション:ローカル企業と公設試による骨まで食べられる魚干物の開発 - 地域戦略ラボ


■地域イノベーションの課題

(科学技術型の)地域イノベーションの課題として、
(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及

(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます。

 

(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及 

各地で公的支援をうけながら新しい製品を生み出している事例がいくつか見られます。しかし、大きなインパクトを残しているとは言い難い状況です。その要因として、5点が考えられます。

 

第1は、ハイテクであれば革新的なイノベーションであるとは限らないのと同様に、学術的価値が高いからと言ってそこから生み出される経済的価値が高いとは限らない点が挙げられます。

イノベーションの取組みにおける応用分野が成熟産業であると、市場の成長性が高いとは言えず、そのためイノベーションは改善(漸進)的なものになる可能性が高いです。


第2は、地域イノベーションの波及は国の産業システムに依存するということが考えられます。

多くのイノベーションとは社会を一変させるようなラディカルなものではなく、改善的(漸進的)なイノベーションでは産業システムを変革させるほどのインパクトはありません。国の産業システムが成熟化しており、既存産業の成長性が低ければ、そこで創造されたイノベーションインパクトも弱いと言えます。


第3は、イノベーションネットワーク拠点における卓越性の未確立な点が指摘できます。

研究開発の拠点はイノベーションのためのネットワーク拠点としての卓越性を構築して国際的に認識されている状況にはなっていない例が多いです。

 

第4は、研究テーマは成果の上げやすいものに走りがちとなり、イノベーション政策と言いながらも現実的には、不確実性の高いイノベーションにはチャレンジしにくい状況となっています。

大学などが助成を受けている研究開発事業の多くは、近年、短期間で実用化という成果を求められて。そのため、その成果が出やすいプロジェクトを行う傾向が強くなります。


第5に、イノベーションと地域経済との連鎖が課題として挙げられます。

地域大学と地域内企業が連携して共同研究を行い、その成果が商品化されたとしても、地域で受け皿となる企業がなければ地域内での売り上げや雇用などの経済効果は限定的となります。

 

(2)イノベーションの領域とマネジメント
地域イノベーションは、シーズの開発からその実用化に至る研究開発から生産まで一つの地域で一貫して行われているのではなく、地域内組織で行われるフェーズもあれば地域外組織を中心に行われるフェーズもあり、様々な地域(場所)で空間的に分業して行われます。

地域イノベーションは、地域内の産学官組織の連携のみならず、地域外の企業が関与することにより加速されています

その結果、地域イノベーションの政策を展開する行政の領域とイノベーション活動の領域が異なっています。

 

地域イノベーション地域の主体的な関与があって成功します。

しかし、自治体が地域内での成果に固執しすぎると、イノベーションで必要な機能や技術を持った地域外企業を排除する可能性があります。

また、地域外企業の参加は、イノベーションの加速要素ですが、同時にイノベーション成果が地域外へ漏出する原因にもなりえます。

そこに地域イノベーションにおける活動と行政の領域性におけるジレンマがあります。


また、地域を行政的領域として捉えると、そのイノベーション活動は、場合によっては地域内での関係構築が優先され、地域の既得権者を中心とした設計がなされ、地域振興は既存資源の活用に拘った縮小均衡的な動きがとられることがあります。

その結果、マンネリ化つまり負の固定化(ロックイン)に陥ってしまい、革新的なイノベーションを生むことは難しくなってしまいます。

 

 

→(ブログ)地域イノベーションの課題 その1 - 地域戦略ラボ

→(ブログ)地域イノベーションの課題 その2 - 地域戦略ラボ

→(ブログ)地域におけるイノベーション - 地域戦略ラボ

 

 

→(ブログ)すべての地域・都市にイノベーション政策を広げよう(OECD報告書) - 地域戦略ラボ

 

 

■地域イノベーションを学ぶのにおすすめの本

 

 

 

観光を通じた古民家再生による地域づくり(アルベルゴ・ディフーゾ)[解説]

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各地には屋敷、商家、蔵などの古くて歴史的に価値のある建物が存在しています。しかし、これらの歴史的建物は補修するにも多くの維持費がかかり、取り壊される運命の建物も多くあります。

そのような古く歴史的に価値のある建物を、宿やレストランなどの商業的な建物に改修し、再利用する取組みが全国で広がっています。

歴史的建物を1棟宿屋にしても商業的に採算をとることは難しいため、それらをいくつかまとめてまちを宿泊施設と見立てる取組みをアルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)と言います。

 

★アルベルゴ・ディフーゾとは

アルベルゴ・ディフーゾ(albergo:宿、diffuso:分散した)」とは、イタリア語で「分散したホテル」という意味。町の中に点在している空き家をひとつの宿として活用し、町をまるごと活性化しようというものです。

地域の廃屋や空き店舗をリノベーションし、レセプション、客室、食堂などの機能をそれぞれの棟に分散させることで、町をまるごと1つのホテルとみなします。こうすることで、宿泊した人たちが自ずと町を回遊し、地域そのものに活力をもたらすこの仕組みは、あらゆる施設が内包された大型ホテルとは、いわば真逆の発想です。

(by アルベルゴ・ディフーゾ・ジャパン)

 

以下に、アルベルゴ・ディフーゾ(分散型ホテル)の取組みを積極的に展開している、岡山県矢掛町兵庫県丹波篠山市愛媛県大洲市の事例を紹介します。

 

岡山県矢掛町

矢掛町岡山県倉敷市北部に隣接する自治体です。旧山陽道宿場町として栄え、多くの歴史的な建物が残されており、2020年に文化庁から重要伝統的建造物群保存地区の指定を受けました。

矢掛町では、分散型ホテルを先駆的に展開しており、古民家を改装した宿泊施設「矢掛屋INN&SUITES」とその周辺一帯が、2018(平成30)年6月アジア初のアルベルゴ・ディフィーゾとしての認定を受けました。

 

重要伝統的建造物群保存地区

日本の市町村が条例などにより決定した伝統的建造物群保存地区のうち、文化財保護法第144条の規定に基づき、特に価値が高いものとして国(文部科学大臣)が選定したものを指す。 (by Wiki

 

岡山県矢掛町におけるアルベルゴ・ディフーゾの発展については神田 將志氏, 日高 優一郎氏の論文があります。初めから計画的に分散型ホテルの形成をめざしたのではなく、試行錯誤の中で作られていった経緯が開設されています。

岡山県矢掛町におけるアルベルゴ・ディフーゾの発展プロセス

 

兵庫県丹波篠山市

丹波篠山市は国指定の篠山城址がある城下町です。

丹波篠山市には我が国で「分散型ホテル」が知られるようになったきっかけを作った(一社)ノオトが立地しています。(一社)ノオトは、2009(平成21)年2月に兵庫県丹波篠山市で設立され、丸山集落の空き家再生事業にはじまり、歴史的建築物と地域文化、そして産業の一体的な再生に取り組んでいる事業者です。

(一社)ノオトは、丹波篠山市にある古民家を改修し「篠山城下町ホテルNIPPONIA」を、2015年10月に開業しました。

分散型ホテルの運営はNIPPONIAのブランドでバリューマネジメント株式会社が実施しています。バリューマネジメント(株)では、歴史的建物を活かした23施設(奈良ならまち/篠山城下町/福住宿場町/竹田城城下町/伊賀上野城下町/豊岡1925/佐原商家町/竹原製塩町/大洲城下町/八女福島商家町など)の運営を担っています(2022年3月時点)。

 

バリューマネジメント株式会社の会社概要

 

愛媛県大洲市

大洲市城下町として栄え、ここにもNIPPONIAブランドの分散型ホテルが立地しています。

大洲市では、市内にある歴史的価値のある古い建物が壊されていました。そこで、大洲市が中心となり古い建物を補修・再利用する方法として丹波篠山市の取組みを参考にアルベルゴ・ディフーゾを展開しています。

大洲市にある(一社)キタ・マネジメントが中心となって、古い建物を活かした宿泊施設を開業しています。(一社)キタ・マネジメントは大洲市が中心として設立したDMOです。

 

★観光地域づくり法人(DMO)とは

 観光地域づくり法人は、地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人です。(by 観光庁

 

大洲市のスキームは、DMOがただ単に観光業の促進を図るのではなく、まちづくりを目的としてそのマネタイジングとして観光を利用している点が特徴的です。そして、観光客の増加を図ることで、まちづくりと産業づくりを行っています。

 

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大洲NIPPONIAのレセプション(受付)棟

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大洲市には、大洲城臥龍山(国指定重要文化財)、鵜飼いなどの他、NHK朝のテレビドラマ「おはなはん」のロケ地となったおはなはん通りなどの観光資源があります。

アルベルゴ・ディフーゾを契機に、大洲市において周遊型で楽しむ観光が生まれています。

 

また、大洲市は宿泊施設が少なく、日帰り客が中心でしたが、アルベルゴ・ディフーゾにより宿泊施設ができたため、宿泊客も増え、観光消費が増えることが期待されています。

 

大洲城も宿泊可能で宿泊料は1泊2日1名55万円(税込)(2人以上6人まで)だそうです(これもNIPPONIAから予約できます)。

香川県丸亀城も宿泊可能になるようですが、そちらは天守閣での宿泊ではないようです。

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大洲市の近隣には重要伝統的建造物群保存地区に指定されている内子町西予市卯之町があり、古い街並み群を周遊するのに適しています。

 

NIPPONIAのホテルはインバウンドの比較的裕福な外国人をターゲットとした取組みですが、普通の宿やホテルに飽きた日本人観光客にも面白い体験になると思います。

コロナ禍の規制が緩和されれば、ぜひ古民家での宿泊を体験してみてください。

 

矢掛町丹波篠山市大洲市の取組みは、観光というマネタイズ機能が伝統的建物の保存に役立ち、地域づくりへとつながる良いシステムとなっています。

 

アツベルゴ・ディフーゾについて詳しく知りたい人は下記へ 

 

 

アルバルゴ・ディフーゾ以外にもまちぐるみホテルの取組みがいくつかあります。

 

《東京都台東区谷中》hanare HAGISO

アルベルゴ・ディフーゾと異なり、歴史的価値があるとは言えない築60年の古い木造賃貸アパートを改築し、シェアリング・エコノミーの考えにより、そこを中心に街を一つの大きなホテルと見立てたまちづくりの取組みです。

 

香川県高松市》仏生寺まちぐるみ旅館

高松市の郊外約8kmの観光地でもない地域に、建築家が中心となり「まちぐるみ旅館」をコンセプトに整備した施設です。

 

以下の「日本まちやど協会」のWebでは、高松市仏生寺をはじめ、まちぐるみ旅館の取組みを紹介しています。

このような施設での宿泊は新しい旅のスタイルになるのではないでしょうか。

 

 

《鹿児島県奄美大島

奄美大島では、「アルベルゴ・ディフーゾ」や「まちやど協会」とは違いますが、「伝泊」として伝統的な建物をリノベーションして、宿泊施設に転用し、まちづくりを行っております。

伝泊による「地域共生を目指したまちづくり」は奄美イノベーション(株)を中心に取り組まれています。

詳しくは→伝泊 古民家 | 奄美イノベーション株式会社

 

■まとめ

・アルベルゴ・ディフーゾをはじめ、町全体をホテルと見立てた施設・サービスが増えてきています。

・その取組みは、観光をマネタイズ機能として活用して運営されています。観光は単に観光業を振興して地域を活性化させるのみではなく、マネタイズ機能として施設保存に役立ちます。

・しかし、それらの取組みは観光業にとどまらずまちづくりへと発展してきています。

・コロナがおさまったらこれらの取組みは大きく注目を浴びることが予想されます。

 

 

《参考図書》

DMOのプレイス・ブランディングの取組みについて知りたい人の参考になります

(注:アルベルゴ・ディフーゾについて書いてあるわけではありません)。

 

 

 

作:2022年3月9日

地域づくり・地域経済について学びたい人におすすめの新書12選[読書]

大学で地域経済学経済地理学を教えています。

地域活性化について、例えば地産地消や観光振興、ふるさと納税など次々と政策が打ち出されますが、学生に対してはそれが地域経済にどのような影響を与えるのか、地域経済の構造と意味を理解してほしいと考えています。

 

地産地消だけでは外貨を稼いでいないので地域経済を救えません。観光振興といっても、もっと生産性の高い産業に参入する機会を逸しているかもしれません。

 

地域活性化の取組みならその効果は地域にとって良い、とは限らないということも理解して欲しいです。

 

なので、地域経済について考える時、新聞や雑誌などのマスコミで取り上げられる事例や現象ばかりに目を奪われるのではなく、はやりの施策に乗っかるのではなく、地域経済を体系的に捉えていく必要があります。

 

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地域経済について学ぶのにおすすめの新書を12冊紹介したいと思います。

 

《今回紹介する本》

増田寛也(2014)『地方消滅』中央公論新社

2014年のベストセラーなので読んだことのある人も多いと思います。批判も色々ありましたが、人口減少による地方の持続可能性の危険性をわかりやすい形で問題提起したと思います。 2014年出版ともう古くなってしまっていますが、今後の地域を考えていく上で問題提起をした起点となる本です。

 

②木下斉(2015)『稼ぐまちが地方を変える』NHK出版

地域を活性化するということは、そこでお金が回っているということです。まちづくりにおいても「まちを一つの会社に見立てて経営する」という視点が大切です。

つまり、資金調達し、投資し、回収して、利益をあげ、それを元手としてさらに新しい事業に再投資する。このサイクルを町の経営で徹底することです。

著者は、まちづくりのためには官に依存するのではなく、市民や企業などの民が中心となって「稼ぐ」ことが重要だとしています。そして、まちづくりを成功させる「10の鉄則」を提案しています。

 

 

飯田泰之 他(2016)『地域再生の失敗学』光文社

本書は、合計6人の学者、プランナー、市長により、地域再生を巡る3つの講義と5つの対談によって構成されています。

地域経済の再生において、その取組み内容、実施主体(ガバナンス)、手法は様々であり、経済学だけでなく、地方自治論、地方財政論、組織論など様々なアプローチが必要となります。

著者の一人である東洋大学の川崎教授の「所得の移転が都市から地方へという「地域間移転」から、将来世代から現役世代へという「世代間移転」へと変わってしまった」との指摘は正鵠を射ています。

 

橘木俊詔・造事務所(2017)『都道府県格差』日本経済新聞出版社

経済に限らず社会、生活などいろいろな都道府県別のランキングが公表されています。地域間には様々な種類の格差があり、ある面では恵まれていても、別の面では豊かではないこともあります。

人々は公平は機会を持つことが権利があり、地域格差は社会的な不安定要因になるので、是正されるべきと考えます。しかし、地域とは地域資源の存在や地理的・社会的条件により多様です。そのような状況において地域格差の是正は可能でしょうか。

本書は、都道府県ランキングに一喜一憂するのではなく、地域格差の現状を把握する一助となる本です。

 

⑤諸富徹(2018)『人口減少時代の都市』中央公論新社

人口の減少、老朽化する社会資本、都市財政の悪化など、都市は大きな問題を抱えている。このような環境の中で、著者は持続可能な都市づくりとして「成長型」ではなく、コンパクト化した「成熟型都市経営」を提案しています。

成熟型都市経営では、人口減少を前提として、地域経済循環を促し、自治体間で連携することが必要であるとしています。

 

しなやかに強い地域を作るためには、経済基盤が必要であり、それはつまり、地域内に経済の好循環を築くことです。

本書は、地域経済の構造を理解する手助けとなります。そして、地域経済循環としてバケツ理論を紹介しています。バケツ理論は貨幣の流出を防ぐ意味で地域経済に効果があります。

ただやみくもに経済の量的拡大を図るのではなく、地域経済の内実を見直していくことが必要だと言えます。

 

著者は自治省の官僚を経た新潟大学の教授です。

まず、東京のひとり勝ちをデータで示しています。その中で地方都市はどのように生き残りを果たしていくのか。都市は元々多様な中で発展、存在してきており、都市間競争の時代における都市のライバル関係の比較が興味深いです。

 

⑧曽我謙悟(2019)『日本の地方政府』 中央公論新社

地方政府(自治)については中学の公民や高校の現代社会の授業で学びました。しかし、大学で地域おこしについて学ぼうとするのであれば、そのレベルで知識がアップデートしていないのは問題があります。

地方政府は、住民、地域社会、地方政府、中央政府との関係性の中でとらえられていいます。都道府県も市町村もある地方政府は、複雑で雑多な課題を抱えており、その様々な関係性の中で、すぐれた政策マネジメントを行う必要があります。

地方政府の機能・構造はある意味、可塑的であると言えます。(イングランドの地方政府のガバナンスの変化については最近論文にまとめましたのでそちらをご覧ください。→論文URL

 


⑨河合雅司(2019)『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』講談社 

ベストセラーとなった『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)』(2017)の著者による人口減少を地域を舞台にして分析した本です。

前著では人口減少を日本全体の問題として捉えていましたが、具体的に地域ごとに分析してみることで、より身近に人口減少社会というものがイメージできるようになると思います。

日本社会において、人口減少による勝ち逃げ地域などはないことがわかります。地方の人口減少を東京の一極集中のせいにされますが、東京圏においても人口減少は避けられない問題ですし、すでに人口減少している地域と違い、人口減少慣れしていないため、これから大きな地域社会の変革が求められるようになっていくと思います。

また、東京圏に限らず日本全国の地域は、コロナ禍によって人口減少が加速し、地域社会は急激な変化を余儀なくされることとなるでしょう。

 

 ⑩岩永洋平(2020)『地域活性マーケティング筑摩書房

地域活性化の切り口として、 ふるさと納税地域ブランドを軸に地域活性化について検討しています。

ふるさと納税地方財政の問題ですが、返礼品に注目があつまり、いかに返礼品として魅力ある地域産品を提供できるかが課題となっています。

制度的には問題が多いふるさと納税ですが、各地域が他の地域の消費者と結ばれる機会を創出した点では評価できると思います。その現実に対して、いかに産品として地域ブランドを確立して、地域と消費者を結びつける関係性を構築していくかを考えていくうえで参考になります。

 

 

⑪宮崎雅人(2021)『地域衰退』岩波書店

著者は先ず、地域はどのくらい衰退したかをデータを用いて説明していきます。地方圏に住んだ人なら肌感覚でわかることですが、商店数が減少し、バスの便も減少し、使われなくなった家屋が増えてきています。

地域衰退の原因は、基盤産業の衰退にあります。産業の担い手である労働力人口が減っている中、新たな産業を興していくことはとても難しいことですが、政府の過度な政策誘導より、地域にあった産業を興すことが重要であるとしています。

 

著者は、地域活性化の取り組みが失敗している現場を数多く見てきたことから、政府の補助金を活用した地方創生は失敗であると一喝しています。

著者によると”「まちづくり幻想」とは、皆が常識だと思い込んでいるものが、実は現実と異なり、それを信じ、共有してしまうがゆえに地域の衰退を加速させるという本質的な問題です。”としています。
まちづくり・地域づくりは、他地域の成功事例をむやみに後追いすることではなく、地域の人たちが、行政任せ、よそ者任せにせず、自らの頭で考えて行っていくものであるとしています。
 

地域経済に関してある程度体系的に学ぼうとすると、新たな取り組みも出てきますし、政策も変わりやすいので専門書よりも新書が適当かと思います。

学生には、この中から1冊だけ選ぶなら『地方消滅』かな、という話はしております。「地域が消滅することはない。消滅するのは自治体という組織である。」というような批判はありますが、人口減少時代においてこれからの持続可能な地域を検討するうえでこの本は読んでおいた方がいいと思います。

 

<余談>

以前、大学の講義で①から⑩を課題図書として、レポートを書かせました。選んだほんの集計結果を示したのが下記のグラフです。『地方消滅』が最も多く、続いて『未来の地図帳』『稼ぐまちが地方を変える』でした。f:id:ehimeman:20220224173355p:plain

 

 

西条市における移住・定住促進ための地域ブランディング

愛媛大学社会共創学部の我がゼミ3年生は、1年間西条市における人を呼び込むための地域ブランドについて調査研究してきました。

その結果をまとめた報告書が完成いたしました。

 

愛媛県西条市は宝島社刊行の雑誌『田舎暮らしの本』で「2021年版 住みたい田舎ベストランキング」において、全部門(総合・若者世代・子育て世代・シニア世代)で全国第1位を獲得するなど、移住・定住の取組みで注目されている自治体です。

(なお、2022年版は若者世代・単身者部門のみ1位)

【2021年版 住みたい田舎ベストランキング】西条市が全部門で全国第1位に!史上初の4冠達成!

 

【報告書の概要】

学生がまとめた報告書の目次は以下の通りです。

第1章 はじめに    1
第2章 先行研究と研究対象地の概要    2
1.課題図書『プレイス・ブランディング』における論点の整理    2
2.西条市の概要    4
3.地域経済分析システム(RESAS)による分析    6
4.ブランディングと定住促進に関連する施策・取り組み    27
第3章 アンケート調査結果    54
第4章 西条市地域ブランドに関するSWOT分析    67
第5章 西条市ブランディングに関する特徴と課題    69
第6章 西条市ブランディングに関する方向性の検討    71
第7章 おわりに    74
謝辞    74
参考資料    75
後記    79

 

西条市における定住促進に関する施策・取組み

西条市における移住・定住政策)

西条市における主な移住・定住施策として、以下の施策が挙げられます。

西条市空き家バンク
・オンライン移住相談
・お試し移住用住宅「リブイン西条ハウス」
西条市移住者住宅改修支援事業

 

施策の内容としては他の市町村と大きな差はないですが、移住検討者に親身に寄り添い対応することが特徴としてあげられます。

移住推進課 - 西条市ホームページ

 

もう一つの特徴として、西条市シティプロモーションの主な目的は「移住・定住」である点があります。

通常、市役所のシティプロモーション業務は地域のイメージを向上させる動画を作成したり、市民向け冊子を刊行することも主な業務としている自治体が多いですが、西条市松山市などと比べ大きくないため、西条市は戦略的にシティープロモーションの目的を移住・定住促進に絞ってプロモーションを行っております。

 

西条市では、西条市のファンコミュニティとして”LOVE SAIJO”を運営しています。LOVE SAIJOのホームページでは移住者のサポート情報を積極的に提供し、移住者の不安を軽減し、地域に溶け込むことを手助けしています。

 

このLOVE SAIJOは、移住者のみならず、市外に転居した人との関係継続を図る媒体ともなっており、市の関係人口のつなぎ止めにも役立っています。

 

www.lovesaijo.com

 

また西条市では、移住者のターゲットを若者・家族と定めており、このように目的やターゲットを明確にすることが移住者増加という成果につながっていると考えられます。

 

西条市における移住・定住の実績)

西条市は近年移住・定住施策を熱心に展開しており、相談件数が増加しております。

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それと同時に移住者数も年々増加しており、近年県外からの増加者数が目立っております。

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令和2年度の西条市への移住者の年代別の構成は、20歳未満が15%、20代が32%、30代が21%、40代が12%と、全体の約8割を40代以下が占めておりました。また、世帯状況は単身世帯と家族世帯がそれぞれ半数ずつでした。

 

アンケート調査結果

(回答者属性) 調査対象:西条市在住の10代以上の人
        調査方法:googleフォーム
        実施期間:2021年7月21日(水)~2021年9月30日(木)
        回収回答件数:131件
        有効回答件数:128件

 

(生活に関する満足度・重要度)

アンケートでは、生活に関して自然、利便性、まちづくりなどに関する25の質問を立て、満足度、重要と感じているものについて、そう思う(4点)、どちらかというとそう思わない(3点)、どちらかというとそう思わない(2点)、思わない(1点)という4段階で評価してもらい、平均値を算出しました。

 

西条市民が西条市で生活する上で満足、重要視している項目について調査した結果、全体では自然の豊かさが満足度・重要度ともに最も高く、高等教育機関の充実度が満足度・重要度ともに最も低いということがわかりました。

 

満足度×重要度分析からは、改善すべき点として、全体では、働く場の充実度・医療機関の充実度・買い物の利便性が挙げられます。

 

男性では、働く場の充実度・市外への交通アクセス(道路・鉄道)・娯楽施設の充実度・市街地の活性化、活気・美しい街並み・人の交流のしやすさ・公共交通機関の充実度、女性では働く場の充実度・市外への交通アクセス(道路・鉄道)・福祉サービス(介護・障がい者対応)の充実度・交通安全対策の充実があることが分かりました。

 

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(市外にアピールしたいこと)

アンケート西条市で生活する上で市外の人にアピールしたい西条市の魅力を3つまで回答してもらったものです。最も多い項目は、「自然の豊かさ」で、2番目に「祭り」、3番目に「穏やかな気候」という結果となりました。

 

なお、「住みたい田舎ランキング全国1位」は4位につけており、移住施策がマスコミで取り上げられるなどして、それが市民のシビックブライドを醸成していると言えます。

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西条市の人をよびこむための地域ブランドに関するSWOT分析

西条市には自然の豊かさや移住政策が充実しているなどの強み、突出する地域ブランドが少なく、観光要素の横のつながりが薄いなどの弱み、様々なメディアへの露出、田舎志向への転換などの機会、類似自治体の存在や自然災害や南海トラフなどの脅威の4つに分類することができます。

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西条市ブランディングに関する特徴と課題

西条市に特徴として、自然の豊かさ盛んな農工業充実した移住施策が挙げられます。

また、課題としては突出した地域ブランドが少ないことが挙げられます。

 

(人を呼び込むためのブランドとは何か)

まずは交流人口の獲得から始まります。交流人口は、イベントや観光を通してその地域を知るきっかけにしてもらう段階です。地域の強みをしっかりと分析しそこでしかできない体験を提供し他地域との差別化を行うことが重要です。

 

関係人口は、その地域に継続的に訪れてその地域にしかない、「かけがいのない地域らしさ」を感じてもらう段階です。地域住民との交流をその地域への愛着や定住へのきっかけに繋げることが重要です。

 

そして、最後の段階が、定住人口です。その地域に長く住み続けてもらう必要があるため、子育て支援などをしっかりと行い、住みやすい地域にしていくことが重要となります。

 

このようなプロセスを踏むことで、地域への愛着を深めながらその地域へ人を呼び込むことができると考えます。

 

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西条市ブランディングに関する方向性の検討

(目指すべき地域像)

 西条市に人を呼び込むために、前章で述べた地域ブランドに必要な要素を踏まえながら、「自然」・「農」・「食」を軸とした地域ブランディングを考えます。

 

「自然」と「農」については、我々が実施した西条市民に対するアンケート調査でも、多くの市民が市のアピールポイントとして挙げていたことから重視するべきと考えます。

 

また、「食」については、農業が盛んで食材自体は豊富にあるにも関わらず、他の地域と比較して突出する特産品となるものがないため、食材を生かす方法が必要です。

 

以上のことから、「自然」と「農」を「食」と結びつけて、西条市の人々と市外の人々の交流を盛んにして交流人口、関係人口を増やすことが必要であると考えます。

 

(具体的な取組み策)

西条市では、自然や農業などの強みがありますが、知名度が低い、強力な観光資源が少ないなどの課題もありました。

そこで、西条市を知ってもらうこと、来てもらうこと、関係を築いてもらうことが必要だと考え、話題になるようなイベントの開催が効果的であると考えました。

報告書では、西条市が人を呼び込むために強いブランドを形成するための施策として4つの取組みを提案させていただきました。

「Let’sファームステイ~繋げよう、西条市内外の和~」

「競争!グルメサバイバル~楽しめ西条の食~」

「シェフの卵必見!1weekガストロノミー」

「うちぬき水かけ祭り~学びを添えて~」

 

調査研究の進め方

コロナ禍の中で行った調査活動で、大学に集まることもままならなかったですが、PBLとして、文献調査、RESAS調査、フィールドワーク、アンケート調査、インタビュー調査等様々な調査に取組みました。最後に、西条市ブランディングに関して提案をさせていただきました。

 

西条市に対しては、中間と最終報告のプレゼンを行い、市役所の現役の担当者からフィードバックを頂きました。

 

調査を担当したのは6名。西条市出身の者はいませんでした。文献、データ分析、アンケート、ヒアリングと様々なアプローチから、「地域とはどういうものなのか」改めて問うことで、地域に対する理解を深められたと思います。

 

課題図書

なお、調査の開始時に課題図書として輪読したのは、電通/若林宏保『プレイス・ブランディング』です。

※報告書を希望の方

もし、この学生が作成した報告書にご興味のある方がいらっしゃいましたらPDFを送付いたします。ブログ(右の)問い合わせ先欄に氏名、Emailアドレスを記入の上、報告書希望の旨をお伝えください。

 

 

 (2022年2月25日作成)

イギリスの意欲的な (?) 地域政策が発表されました。

イギリスのジョンソン内閣は、イギリスのすべての地域をレベルアップさせるという

地域政策に関する意欲的な白書を2月2日に発表しました。

 

 

<本白書の内容>

2030年までにイギリスのすべての地域をレベルアップさせる、という目標のために、インフラ整備、住宅、交通、通信(5G)、教育、研究開発など広範囲な分野にわたり投資を行って、地域の生産性を上げていくというものです。

 

2030年までの到達目標は以下の12のミッションに掲げられています。

<イギリスをレベルアップさせる12のミッション(到達目標)>

1. 2030年までに、英国のすべての地域で給与、雇用、生産性が上昇し、それぞれに国際競争力のある都市が含まれ、業績上位の地域とその他の地域との格差が縮小させる。

 

2. 2030 年までに、ロンドンおよび南東地域以外の研究開発への国内公共投資は、少なくとも 40%増加し、歳出見直し期間中に少なくとも 3 分の 1 増加し、その追加政府資金により、長期的に少なくとも 2 倍の民間投資を呼び込み、イノベーションと生産性成長を刺激することを目指す。

 

3. 2030 年までに、全国の地域公共交通の接続性をロンドンの水準に大幅に近づけ、サービスの改善、運賃の簡素化、チケットの統合を実現する。

 

4. 2030年までに、英国は全国でギガビット対応のブロードバンドと4Gのカバレッジを持ち、人口の大多数で5Gのカバレッジを持つようになる。

 

5. 2030年までに、読み、書き、算数で期待される水準を達成する小学生の数を大幅に増加させる。イングランドでは、90%の子どもが期待される水準を達成することになり、成績の悪い地域で期待される水準を達成する子どもの割合は3分の1以上増加することになります。

 

6. 2030 年までに、英国のすべての地域において、質の高い技能訓練を成功裏に修了する人の数を大幅に増加させる。イングランドでは、年間20万人が質の高い職業訓練を修了することになるが、これは、最も技能の低い地域における8万人のコース修了者の増加によって推進される。

 

7. 2030 年までに、健康寿命が最も高い地域と最も低い地域の格差が縮小し、2035 年までに 健康寿命がを5 年延ばします。

 

8. 2030 年までに、英国のすべての地域で幸福度が向上し、業績の高い地域とそれ以外の地域との格差が縮まる。

 

9. 2030年までに、人々が自分の住む町の中心部に対する満足度や、地域の文化やコミュニティへの関与といった「場所に対する誇り」が、英国のすべての地域で向上し、上位の地域とその他の地域との間の格差が縮小させる。

 

10. 2030年までに、すべての地域で初めて住宅を購入する人が増加し、賃貸住宅を借りる人が安心して住宅を購入できるようになる。また、政府の野望は、質の悪い賃貸住宅の数が50%減少し、最もパフォーマンスの低い地域で最も改善される。

 

11. 2030 年までに、殺人、深刻な暴力、近隣犯罪が、最も被害の大きい地域に重点を置いて減少させる。

 

12. 12. 2030年までに、イングランドの希望するすべての地域で、最高レベルの権限と、簡素化された長期的な資金調達手段を備えた権限委譲協定を締結する。

 

<イギリス(イングランド)の地域の何が問題なのか>

イングランド地域間格差がとても大きくなっています。イングランド地域間格差は単なる経済問題ではなく、教育および健康寿命の格差を生み、大きな社会問題となっています。

イングランドでは、ロンドンとケンブリッジ、オックスフォードを結ぶ三角地帯が成長地帯であり、そこと他の地域との格差がとても大きくなっています。

BrexitEU離脱)により、EUから地域開発資金が分配されなくなるので、イギリス政府として、競争力ある地域を創っていくという地域政策をしっかり行っていく必要があります。

 

<レベルアップ政策の背景と問題点>

・この政策は、2019年の総選挙の時にジョンソン首相が掲げたマニュフェストをもとに、展開されるものです。

・この白書は2020年に発表される予定が、何度か延期されてやっと発表されました。

・白書には意欲的なミッションが掲げられていましたが、予算については明記されていないので、どこまでが実現可能なものなのか不明です。

・ジョンソン内閣になり緊縮財政は終わりましたが、リーマンショック後の緊縮財政により地方政策関連予算は約20%以上削減されており、若干増えたとしてもリーマンショック前程度に戻るだけである。

・地方へは、労働党が元々強い地域(Red Wall)を崩していくために予算を分配していると指摘されている。本当に困っている地域より、保守党の戦略地域でプロジェクトが実施されている。

・私が調査したティ―サイドは保守党の市長が就任して以来、明らかに公共投資が大幅に増えました。それを「ティーサイド・ルネッサンス」と成功例として取り上げています。

・これは政策議事(アジェンダ)ではなく、政治的スローガンに過ぎないとの批判もあります。

地域間格差は昔からある問題であり、ジョンソン内閣によって解決されるとは思えません。

・また、地域にフォーカスしすぎて、人への投資が弱いと言えます。

 

<個人的な関心事>

・全国に市長型合同行政機構をつくり権限移譲を進めるとしているが、どれぐらい実現するのか関心がある。

グラスゴーマンチェスターバーミンガムイノベーション地区を整備していくとしている。マンチェスターイノベーション地区は具体的に計画されており、マンチェスターの中心地区に約1600億円投資して整備するそうです。

・この政策は地域間格差の是正を目標と掲げており、経済地理学の考え方が基盤に生かされています。

・日本の地域政策は理想もビジョンもないので、大風呂敷を敷くのも悪くはないかなと思います。

 

<イギリスの地域政策についてもっと知りたい人は>

イングランドの地域政策の現状について知りたい人は、私が日本地理学会のE-journal GEOに投稿した「北東イングランドにおける権限移譲と地域の変容」を参考にしてください。

<関連記事>

think-region.hatenadiary.jp

地域でイノベーションを起こしやすい環境づくり:英国ニューカッスルの取組み

このブログでは、最近イノベーションハブについて紹介しましたが、地域イノベーションの空間づくりの実証研究としてイギリスのニューカッスルで行ったフィールド調査の結果をとおして具体的に見ていきたいと思います。

 

なお、本編はイノベーション空間の整備と大学の役割: 英国・ニューカッスルを事例にして」として 愛媛大学社会共創学部紀要 で公表しています(興味のある人はリンクにアクセスしてください)。

 

以下は論文の要旨です。

要旨 複雑化する現代社会に対応するために大学は多様な機能が求められており、特にイノベーション・システムの中心的役割を期待されている。本研究では, 大学を中心としたイノベーション空間の構築という視点から大学の役割を再考し、大学の社会連携に関する新たな知見を提供する。事例として取り上げたニューカッスルでは、イノベーション空間の構築において大学が果たしている機能として、研究開発、人材育成の他に、イノベーション・マネジメント、コミュニティの形成、イノベーション地区の開発とプレイスメイキングなどがあげられる。また、サイエンスシティとして市の意図と大学の意図が融合して、新たな学問分野を創造すると同時に、新産業の創出を図っている。サイエンスシティの称号の獲得は、都市のブランドづくりに役立つと同時に地域のアイデンティティ形成の道具となっている。

 

 

1.ニューカッスルの地域概要

ニューカッスルはイギリス中部、北海に面した人口約30万人3)の北東イングランド地域の中心都市です。

ニューカッスルおよび周辺地域は古くから石炭の産地であり、その積み出し港として商業・貿易の街として発展していきました。産業革命時、市内を流れるタイン川には多くの造船所が立地して、世界の造船業の中心地でありました。

しかし、第二次世界大戦後には造船業は衰退し、1970年代には周辺の炭坑の多くも閉山し、ニューカッスルは産業の空洞化や失業者の増大に悩まされるようになりました。

その後、ニューカッスルでは産業構造の転換を模索し、中心市街地の再開発による商業施設の拡大や、医療、教育などのサービス業の育成に力を入れています。

ニューカッスル教育機関としては、ニューカッスル大学、ノーサンブリア大学、ニューカッスルカレッジの3つの高等教育機関が立地しています。

 

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ニューカッスル所在地

2.ニューカッスルにおけるサイエンスシティの取組み

ニューカッスルではここ20年間の動きとして、イノベーションを基軸とした都市再開発の取組みを継続的に行っています。以下にその動きについて見ていきます。

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ニューカッスルにおけるイノベーションの制度構築の沿革

(1)サイエンスシティ:イノベーションという地域アイデンティティの構築

ニューカッスルにおいて大学にあるサイエンスをもとにした地域活性化の取組みの嚆矢として2000年の生命科学センターの開設があげられます。

同施設はサイエンスビレッジとしてニューカッスル駅の隣地を再開発し、ニューカッスル大学の産(婦人)科研究所や国民医療サービス(NHS)などの研究機関や会議場・インキュベーションなどのビジネス施設だけでなく、子供向けの科学博物館が建設されました。科学博物館では科学に関するイベントやショーを定期的に行っており、ボトムアップで科学技術のリテラシーの向上を図るなど地域の小中学生のSTEM教育の中心的拠点となっています。

施設内にはレストランやバーも備わっており、賑わいを生み出しています。この市民に開かれたかたちの生命科学国際センターの建設はサイエンスシティの取組みのきっかけとなり、シンボル的な意味合いを持つようになりました。

 

生命科学国際センターの建設を契機として、ニューカッスル市は2005年に英国政府によりサイエンスシティに選定されました。サイエンスシティ政策は、大学を中心にサイエンスを基盤にしたイノベーションを起こし、成長を促し、それを地域の経済開発につなげるというコンセプトです。

ニューカッスルとしても、サイエンスの中でも特にデジタル技術やライフサイエンスをもとにした新しい産業創出を図ることを目標としており、英国政府はサイエンスシティの称号を提供することで、サイエンスという知識を軸とした経済開発を促進させていきました。そして、知識経済においてサイエンス活動を特定地域に領域化して、地域の競争力を構築し地域内外から多くの投資を受けることを目的としていました。

 

(2)ヘリックス:イノベーション地区の開発

ヘリックス(サイエンスセントラル)は、ニューカッスル大学の近隣にあったビール工場の跡地に研究施設やビジネス施設、住宅などを建設する都市再開発プロジェクトです。

この再開発はかつてサイエンスセントラルと言われていたが、2018年にヘリックスと名称を変えた。ヘリックスはエツコウィッツがモデル化した産学官連携の制度的仕組みを三重らせん構造(トリプル・ヘリックス)のヘリックスにちなんで名づけられました。

ヘリックス地区は、24エーカー(約97,000㎡)の敷地15)に大学校舎、研究施設、オフィスビル、住宅など20棟余りの建物を建設し、4,000人の雇用を生む事業予算3億5,000万ポンドの再開発計画です。

同地区の具体的施設配置を見ていくと、大学関連施設として、2017年にオープンしたアーバン・サイエンス・ビルにはニューカッスル大学のコンピュータ科学部がメインキャンパスから移転してきました。

2019年にオープンしたフレデリック・ダグラス・センターは大学の大講堂やセミナールーム、展示スペースなど社会との交流を図る目的の建物である。2020年に竣工したカタリストビルには高齢化研究とデータ科学研究を行う2つの国立イノベーションセンターが入居しています。

民間の施設として、バイオスヘアビルではバイオ関係のスタートアップ支援が行われており、コアビルではデータサイエンス関係の中小企業や、ドイツの電機メーカーのシーメンス、地元の水道会社のノーサンブリア・ウォーターの実験室などがある。その他に、オフィスビル、ホテル、地域エネルギーセンター、450戸の住宅などが今後建設される予定です。

ヘリックスは複合的な施設を配置する面的なイノベーション地区であり、サイエンスを通した都市再開発として視覚的にイメージしやすいものです。


同地区では、ニューカッスル大学および国立イノベーションセンターを中心機関として、ニューカッスル・サイエンス・フューチャーのプロジェクトとして、例えば環境に配慮した水処理の研究、高齢者に配慮したスマート住宅の研究、地区内でのスマートグリッドなど実験場として研究が行われており、モニタリングやデータの採集などが行われるリビングラボとなっています。

 

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ニューカッスル ヘリックス地区再開発建物配置図

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カタリストビル【国立イノベーションセンター】

(3)ニューカッスル・シティ・フューチャー:リビングラボのための場の構築

ニューカッスルにおける都市課題の解決を目指す包括的なプロジェクトとしてニューカッスル・シティー・フューチャー(NCF)があります。

NCFは、2014年にニューカッスル大学により作られた、ニューカッスル市とゲーツヘッド市における長期的な政策動向とビジネスニーズに答える研究開発のための協働的プラットフォームです。

2015年に活動の中心組織としてニューカッスル市役所、ニューカッスル大学、ノーサンブリア大学、ゲーツヘッド市役所の4団体はワーキンググループとして都市未来開発グループ(UFDG)を組成しました。都市未来開発グループではメンバー間で話し合い重ね、2065年のニューカッスル市・ゲーツヘッド市の未来図を作成しました。

NCFでは、4団体のほかに地域産業パートナーシップ(LEP)、企業など22の団体のパートナーシップ・コンソーシアムを組成しています。NCFは、産学官の三重らせん構造ではなく、イノベーションの実装のために産学官に市民や非営利団体が加わる四重らせん構造を特徴としています(Vallance et al. 2020)。

 

(4)国立イノベーションセンター:イノベーション拠点の設置

ヘリックスを舞台に、イノベーションの創出を推進する機関として国立イノベーションセンターがあります。ニューカッスル大学は国と資金を合わせ、2014年に高齢化研究、2017年にデータ科学のための国立イノベーションセンターを開設しました。ヘリックスにはこの2つの国立イノベーションセンターが立地しています。


この国立イノベーションセンターは大学の研究者ばかりではなく企業出身も多く所属しており、イノベーションに向けた実用的な開発を行っています。

イノベーションセンターはニューカッスル大学の一組織であるが、大学と民間企業の橋渡しを行う間組織として機能しています。この2つのセンターは近接立地することにより、デジタル技術を活用した高齢化問題の解決策を図るなどの独自のアプローチを生み、相乗効果が期待されています。


国立データ・イノベーション・センターでは、デジタル技術、クラウド技術を中心に、シーメンスやアクゾ・ノーベルなどの企業と未来社会のための共同技術開発を行っています。

国立高齢化イノベーションセンターでは、イノベーションのための研究としてP&G、グラクソ、ユニリーバpwcなどと高齢化社会に向けた共同研究を行っています。国立高齢化イノベーションセンターの特徴としてVOICE(Valuing Our Intellectual Capital and Experience)という高齢者や患者、ケアワーカーなので構成される15,000人余りのボランティアベースの組織があります。この組織を中心に高齢者向けの新製品・新サービス開発のデータを収集しています。この組織の存在によりニューカッスルの産学連携は四重らせん構造であると同時に、リビングラボという場を形成していることを意味します。

 

4.イノベーションの空間的整備

ニューカッスルでは2000年の生命科学国際センターの開設以降、サイエンスシティプロジェクト、ヘリックス地区の再開発、NCF、国立イノベーションセンターの設置というように、都市再開発という空間的整備と同時にイノベーションに関する制度的整備が連続的に行われています。

それにより、ニューカッスルイノベーション・システムにおいて制度的・空間的進化が見られます

2000年の先端生命国際センターの開設時は、産学連携は大学の科学知の商業化を主目的として進めており、まだ産学官の三重らせん型の連携で市民やユーザーが参加するものではなかったです。また、その取り組みは、サイエンスシティは地域におけるイノベーション・ミリュー(イノベーションの制度的空間)の形成を目指していたが、企業の参加は少なく地域全体の取組みとは言えませんでした(Vallance et al. 2020)。

その後、政府からサイエンスシティのブランドを獲得すると、それを都市開発のコンセプトとして生命科学やデータ科学分野に力を入れ、地域全体としてボトムアップからイノベーションリテラシーを高める努力をしていきました。
サイエンスシティ事業は、地域の産学官連携フレームワークを形成し、地域にイノベーション醸成の雰囲気をもたらしました

また、ヘリックスの整備は、イノベーション地区としてイノベーション人材の集積を促進し、イノベーション活動を目に見える形で顕在化させています。さらに、元工場をハイテク学術集積地として不動産価値を向上させたと言えます。

そして、拠点としては、ニューカッスル大学および2つの国立イノベーションセンターの存在があげられます。

国立イノベーションセンターは大学の組織ではあるが、イノベーション創出を目的とした開発をミッションとしており、間組として企業などからも新たな人材を獲得しイノベーションプラットフォームを形成しています。

また、大学はシビック大学として産学官に市民を交えた四重らせん構造の中心機関として社会課題の解決を目指しています。

NCFがあることで具体的に人々が協働しながら活動することができていると同時に、プロジェクトが束になることで将来像を話し合うなどの場が形成されています。

また、NCFは社会課題のプログラムを組織化しており、ヘリックスではリビングラボとしてNCFのプログラムが実施されています。

これら一連の取組みはアーバン・イノベーションの取組みといえる。

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ニューカッスルにおけるイノベーションの取組みと空間的コンセプト

 

5.おわりに

ニューカッスルでは、サイエンスという大学の知識を活用しイノベーションを軸とした都市空間の再整備が行われていました。

大学を中心にハードなインフラとして施設が建設されると同時に、ソフトな仕掛けによりイノベーションのコミュニティが形成されていっています。

サイエンスパークやイノベーション地区などのハードを整備してもソフトがなければ機能が働きません。

NCFはイノベーション地区の活動を支え、コミュニティを形成する取組みでありました。社会構造、産業構造を変えるイノベーションを創出するには、制度だけ構築しても空間だけ整備してもだめです。

制度と空間は補強関係にあります。イノベーション創出のためには両者を相互に関連付けながら導入を図っていく必要があります。

クラスター政策を見直してみませんか。

アメリカではクラスター政策が復活するらしいです。

米国のブルッキンズ研究所のレポート では、米国商務省経済開発局はコロナ禍の復興政策の一つとして、新たなクラスター政策BUILD BACK BETTER REGIONAL CHALLENGE(創造的復興のための地域の挑戦)を紹介しています。

 

この政策 は、総予算10億ドル(約1100億円)であり、フェーズ1として、全国50~60か所に500000ドル(5500万円)程度分配し、フェーズ2は20~30か所に2500万~7500万ドル(27~82億円)程度分配し、人材育成、イノベーションやインフラの強化を図り地域の産業コミュニティの強化を図ることを目的にしています。

米国連邦政府は、地域経済の復興のアプローチとしてクラスターが生む集積のメリットをテコとした地域開発を模索しています。

 

ブルッキンズ研究所では、クラスターの取組みが成功するためには、以下の5つの特徴を紹介しています。

1.何年もかけて強固なエコシステムを確立することに重点を置く
クラスタへの取り組みは、何よりもまず、クラスター内の既存企業(および関連企業)の成長と競争力を高めるものでなければなりません。クラスター外の企業からの雇用拡大や投資は、いずれ顕在化しますが、すぐには実現するものではありません。

既存、新規を問わず、企業が繁栄するために必要なイノベーション、人材、経済機会を生み出す、強固で再生可能なエコシステムを確立する必要があります。雇用は、クラスターの重力に引き寄せられて、最終的には後からついてきます。

 

2.産業界が主導、大学は推進、そして政府はサポート

最も強力なクラスターは、民間企業が主導しており、問題解決のために協力することで利益が得られると考える企業グループが介入することで、活性化します。研究大学は必要なイノベーションと人材を提供し、連邦政府、州政府、地方政府は各イニシアティブを支援するために大規模な投資を行い、早期に信頼性を高めます。

最も成功したイニシアチブでは、EDAがBBBRCを通じて達成しようとしていることを、これらのセクターの関係者が実行できるような組織や共通基盤が作られています。つまり、「それぞれの部分の合計以上の結果が得られるように調整された」一連の明確なプロジェクトを開発するのです。

 

3.ユニークな機会に集団で大きな賭けをする

最も成功しているクラスター・イニシアチブは、長期的な視点を持ち、数ある選択肢の中から「勝者を選ぶ」ことを恐れない地域にあります。活気の出てきた市場で差別化を図るには、限られた独自の専門分野にエネルギーと投資を集中させるしかないと認識しているのです。

 

4.情熱的で献身的なリーダーによって育てられる

クラスター・イニシアティブを成功させるためには、その分野で活躍する企業のリーダーが必要不可欠です。このようなリーダーは、ユニークな機会を認識し、説得力のあるストーリーを作成し、大胆なクラスター・イニシアチブを立ち上げて維持するために必要な時間を割くことができる思想的なリーダーです。

質問をし、意思決定を行い、共有の投資を行う共通基盤をまとめるには、信頼できるカリスマ的なリーダーによる持続的なリーダーシップが必要です。

 

5.物理的なセンターに支えられている

クラスターに参加している企業や資産は各地域に散らばっていることが多いですが、物理的なセンターは、企業、学術指導者、新規事業者間の知識のスピルオーバーや交流を促進する統一された空間となります。

また、クラスターがその地域に関連していることを具体的に示すことができます。以上のように、不動産は、すでに強固なクラスターを定着させるために重要な役割を果たしますが、それだけでクラスターを形成することはできません。クラスターには工業団地が必要かもしれませんが、工業団地がクラスターを作るわけではありません。

  

<日本への含意>

日本のクラスター政策は、「地域のことは、国が介入するのではなく、地域に任せるべきだ」という趣旨で2009年の民主党政権による事業仕分けにより廃止されました。

それ以来、「クラスター」という言葉はNGワード扱いとなり、政策的にも研究的にも使われることが少なくなりました。

近年の日本の地域経済政策は、新たな産業を育成するいうよりは、既得権者の多い業界を保護するまたは事業継承を第一にすることが中心となり、未来を育てるという取組みが弱くなっています。

 

クラスター政策にはいくつかの問題がありましたが、良い点としては産業に対する戦略的なアプローチが挙げられます。

戦略とは、できる力を集中させることでもあるので、限られた資源をどの分野に注力するかということを決定することが必要です。クラスター政策では、未来の産業を育成するために戦略を立てる手段としてとても有用であったと言えます。

 

日本の地域経済政策ではクラスターという言葉は使用されなくなりましたが、ヨーロッパでは今でもクラスターの考えを基本として、地域経済政策が戦略的に展開されています。そこでは、地域の独自性、強み・弱みについて一生懸命に考え、地域がどのように稼いでいくのかということを検討しています。

 

日本の地方自治体の地域経済政策はおおかた将来投資に注力するより総花的で現在救済的な傾向がとても強いと思われます。地域経済政策における戦略的思考を図るうえで、産業クラスターを再考してみることは、とても価値のあることだと思います。

地域イノベーションに関連するいろいろなコンセプト[研究メモ]

地域でイノベーションを創造する取組みが積極的に行われています。そのため、”地域イノベーション”という用語はいろいろな局面で議論されています。

 

以下の図は、地域イノベーションの議論における関連のコンセプトを挙げたものです。いくつかのカテゴリーに分けてみましたので、内容を紹介していきます。

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イノベーションシステム

まず、地域イノベーションの議論が広がったのは、地域におけるイノベ―ションシステムの発見からです。地域にはイノベーションが次々と起きて豊かな地域と、イノベーションがあまり起きず、あまり豊かでない地域があり、イノベーションが次々を起こる地域には地域独自のイノベーションシステムがあるとされています。そこから地域イノベーションシステムの研究が盛んに展開されるようになりました。最近では、起業活動を含めた地域イノベーションエコシステムが注目されています。また、地域とはあいまいな概念であり、地域の特性によってイノベーションのシステムは違うであろうということで、都市におけるイノベーションとしてアーバンイノベーション、田舎におけるローカルイノベーションと議論を分けて行われることがあります。

 

②産業集積

豊かな地域と豊かな地域でない地域がある、その要因として産業集積での活動に違いがあるとの議論があります。その1つとして、産業クラスターがあります。産業クラスターは比較的イノベーションが起きやすく、産業クラスターには地域イノベーションシステムがあるとされています。また、豊かな地域を創造するためには、地域における学習活動がカギであるという学習地域論があります。イノベーションのための技術開発もビジネス開発も学習行為と言えます。さらに、産業集積に立地する企業は協力し合い集合的に学習活動を起こしやすい環境にあるということで、そのような環境(雰囲気)のある地域をイノベーションミリューとされています。

 

③産業

産業クラスターは元々、経営学者であるポーター教授の考察から生まれたものですが、産業には様々な生産機能のみならず、行政や学術機関などのアクターがつながりシステムとしてかかわっています。例えば、起業活動は、個人のモチベーションなどが発端とされていますが、起業を行うには、それが行いやすい環境が重要となっています。そのようなシステムを起業システムとして捉えられます。また、イノベーションには技術開発などの知識創造面だけではなく、ビジネス開発として起業が重要であり、それはイノベーションエコシステムとして捉えられています。

 

④創造性

イノベーションには技術開発やビジネス開発において創造性が必要となります。そのような創造性に富んだ都市として創造(クリエイティブ)都市論があります。創造都市論としては、創造性のためには、個々人のライフスタイルを重視した、地域における生活のアメニティが重視されていました。創造性とイノベーションはイコール関係ではないですが、創造都市での議論は地域でのイノベーション活動に結びつきます。この、地域における創造性の議論は、都市のみならず、地域でも展開可能であり、学習地域論と重なります。

 

⑤都市

最近、地域イノベーションの議論は、地域という漠然とした空間から都市に焦点が移っています。これは後述するテクノロジーの進展と大きく関わっています。元々、都市は多様なアクターによる異種受粉効果が働くため、創造性が高く、イノベーションが起きやすいとされてきました。それが創造都市論につながっています。都市は創造性を高めるという議論がありますが、都市空間では空間的に広すぎるということで、創造性のための蜜のコミュニケーションを図る空間としてイノベーション地区イノベーションハブがあるとされています。

また、創造都市論はどちらかというと、アートなどの文化産業を取り上げることが多かったため、それらと区別するため、文化産業でない創造都市として、イノベーション都市テックシティーが挙げられます。アメリカなどの創造都市論の議論では、その雇用の大半は文化産業よりIT産業に従事している人が殆どなので、創造都市の実態はGAFAなどのテクノロジー企業が立地するイノベーション都市(テックシティ)と言えます。

 

⑥テクノロジー

IT産業を中心に、都市は新しい技術開発の場となっています。自動運転などのモビリティ技術や、エネルギーシステム、防犯・監視システム、電子決済システムなど、デジタル技術により新たなサービスが開発されています。それらはスマートシティーにおける中核的な取組みです。それらのサービスは、試験的に社会で実際に使いながら改良を図る形で開発されています。そのような試験的に開発が行われる場をリビングラボと言います。それらを総称して、アーバンイノベーションと呼称されることが多いです。

また、都市では様々なデータが収集され始めているため、AIなどを使用し、それらデータの分析が行われています。これはアーバンデータサーエンスとして新たな研究のフィールドが広がっています。

 

⑦コミュニティ

リビングラボは、ある具体的なイノベーションプロジェクトにおける社会実装前の試験段階として、開発者とユーザーが一緒にコミュニケーションを取りながら開発を行う空間です。

それに対して、イノベーション地区イノベーションハブは、イノベーションを創出する環境として、企業や大学の研究者・開発者などが密なコミュニケーションを取れる機関の近接配置として取り上げられます。また、このイノベーション地区やイノベーションハブは活動の基盤となるプラットフォームが構築されることにより、他地域との競争上の差別化につながるとされています。

 

⑧ローカル

イノベーションは、イノベーションが起きやすい地域では益々盛んにおこなわれていますが、起きにくい地域ではなかなか起こすことが難しいです。そのため、イノベーションは地域の格差を広げる可能性があります。しかし、地域活性化のためには、イノベーションの創出は必要であり、学術機関や企業の集積の少ないローカル地域でのイノベーション創出のあり方として、ローカルイノベーションの議論が行われていります。

 

 

 

 

 



 

”地域イノベーション”に関する研究はどのような状況ですか?

地域イノベーションという言葉を最近聞きますか? 日本ではあまり地域でイノベーションが起きているようなことは聞きませんし、”地域イノベーション”に関する研究はどのような状況なのでしょうか?

 

そこで、海外(英語論文)の研究状況はオランダにある国際的な学術出版社であるELSEVIERが提供するデータベースScience Directを使用し、国内の研究状況については国立情報学研究所が提供するデータベースCiNiiを使用し、定量的に分析してみました

 

海外(英語論文)の研究状況について、キーワードを” regional innovation system" "regional innovation ecosystem" "urban innovation" "rural innovation"で、国内の研究状況については、キーワードを”地域イノベーション”として状況を分析しました。

 

(注)データベースの違いがあるため、国際状況と国内状況の違いについては比較は妥当ではない。Science Directは主に査読付き論文、国際学会の抄録がメインであるのに対し、国内のCiNiiは査読のない論文の他に、雑誌記事なども多く含まれている。

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地域イノベーションに関する論文・抄録等発表件数の推移

海外(英語論文)の推移を見ると、”regional innovation system (地域イノベーションシステム)"は1990年代後半頃から研究が行われており、2000年以降着実に研究が拡大しており、近年は年100件近くなっています。

また、最近よく聞かれる”regional innovation ecosystem (地域イノベーションエコシステム)”について見てみますと、研究自体は2012年から発表され、近年増加傾向にありますが、年10件前後と決して多いとは言えません。つまり、”regional innovation ecosystem”とは学術用語としてはあまり定着していないようです。

 

その他に、"urban innovation(都市イノベーション)" "rural innovation(農村地域のイノベーション)"について見てみますと、両方とも1990年代半ばころから研究成果は発表されてきましたが、特に"urban innovation(都市イノベーション)"が2010年代から着目を浴び始め、近年研究が拡大している状況です。

 

国内の推移を見ると、地域イノベーションについては1990年代後半頃からと海外とほぼ同時期から研究が行われておりました。その後、2000年代に着実に発表件数が増加していきました。これは国のクラスター政策や地域イノベーション政策が行われていた時期と重なっています。2010年代はおよそ年60件程度で横ばい状態と言えます。2020年は36件と大幅に減少しました。2021年は17件ですが8月までの情報なので確定できませんが、減少している可能性が高いです。

 

◆まとめ◆・地域イノベーションに関する研究は、海外では年々盛んになっている状況であるのに対して、国内では頭打ちもしくは減少傾向です。

・海外では、地域イノベーションの中でも、特に都市イノベーションに関する研究が特に盛んにおこなわれています。

・地域イノベーションエコシステムの研究は特に盛んにおこなわれているという状況ではなく、地域イノベーションエコシステムという用語は、学術用語というより政策用語の可能性が高いです。

イノベーション・ハブの作り方[研究ノート]

 

前回のブログ(イノベーション・ハブって何?)で、イギリスの研究機関である Connected places Catapultから公表されたイノベーション・ハブの類型化に関する報告書について紹介しましたが、同時に政策担当者向けにイノベーション・ハブの作り方に関する報告書も公表されていたので、今回はそちらを紹介いたします。

 

  

 ■イノベーション・プレイスは他の場所と何が違うのか

 少なくとも3つの点で他の場所とは異なる:
1. 新しい企業モデル、新技術、新手法を継続的に育成、採用しなければならない。より多くの中小企業や革新的な組織を受け入れるために、新しい企業モデル、新技術、新手法を継続的に育成・採用しなければならない。

2. 場所としては、技術を利用できるようにする方法、柔軟なレイアウト、オープンイノベーション活動、暗黙知を創造する都市環境など、革新的でなければならない。

3. パンデミックによる都市・大都市経済への深刻な影響により、イノベーションに割く経済の割合を拡大することが急務となっている。

 

イノベーション・プレイスのためのガバナンスの類型

 イノベーション・プレイス運営のガバナンスとして以下の4つのタイプが考えられる。

従来型のイノベーション地区

広域のイノベーション・コリドー(回廊)

多機関参加型のクォーター

大学主導型キャンパス

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イノベーション・プレイス構築の取組みとして3つの重要なテーマ

場所とつながり:本当の意味での場所を開発し、機動的なモビリティと連携させ、コラボレーションのためのスペース、プラットフォーム、組織を提供

エコシステムとコミュニティ:プログラム、メンター、サービス、交流、そしてあらゆるレベルの機関や地域コミュニティとの信頼関係を構築するためのエンゲージメント。

リーダーシップとコーディネーション:カリスマ性、年功序列、ガバナンス、財務、知名度、そして異質な利害関係を統一的な方向に導くためのコミットメント

 

 ■イノベーション・プレイス構築のための6つの段階

イノベーション・プレイス構築のプロセスには次の6つのプロセスがある。

 1.エコシステム推進者(ecosystem enabler)

エコシステム推進者は、イノベーションの場の存続と可能性の基礎となるものであるため、スタート地点となります。ダイナミックなイノベーション・エコシステムがなければ、イノベーション・プレイスはその取り組みを阻害され、時間と資源の浪費につながる可能性がある。

  • 定着機関と企業の間に高い情報の流れとネットワーク化された知識を確立する。
  • 将来の需要を喚起する強固な「地域全体」の経済戦略を支援する。
  • リスクキャピタルへのアクセスを可能にする促進剤と障壁の特定
  • 計画の機動性と土地利用の柔軟性を積極的に活用する
  • オープン・シビックイノベーション・プラットフォームの促進
  • 政府の協力体制とイノベーションへの意欲を高める

 

2. チェック(Audit)

エコシステムの条件が整うと、将来的に強みとなる真の分野を抽出し、リーダーシップの意欲を評価するために、通常はチェックの段階が不可欠となる。この段階がないと、機会の規模に関する証拠や信頼性が限られていたり、場所の目的が混乱していたり、差別化された特徴や国内外の競争の特徴についての考察が欠けていたりする可能性がある。

  • 場所のイノベーション資産を包括的に評価する
  • 場所の強みと弱みに正面から向き合う
  • 地域が本当にイノベーションを必要としているのか、シニアリーダーがそれを望んでいるのかを見直す
  • 相補性を見極める
  • エコシステム全体に影響を与えることができる触媒的なステークホルダーを特定する。
  • 早期達成の可能性を探す

 

3.セットアップ

監査によってイノベーションの場の価値が確認されると、その場のリーダーはセットアップの段階に移る。この段階では、戦略構築とパートナーシップの構築が加速する。この段階では、タイミングが非常に重要になる。特に、土地の価値や組み立てに関する戦術的な問題が重要になる。

  • 真の独自の強みを確立する
  • 利害関係者と資本パートナーの献身的な協力関係を構築する
  • 信頼性のあるビジョンと説得力のあるナラティブを定義する
  • 最初から包括的な成長の枠組みを構築する
  • 柔軟性とネットゼロの原則を組み込む
  • 意味のあるベースライン、ベンチマーク、ターゲットを設定する

 

4.基礎固め

基礎固めの段階では、戦略を実行するための最初のサイクルが必要である。この段階では、リーダーシップチームが前面に出てきて、テクノロジー、パートナーシップ、ガバナンスが推進される。

  • コラボレーションと衝突のためのハブとなる中心的な場所を特定する
  • 共同でのコラボレーションの取り組みやネットワーキングの機会を通じて、コミュニティを構築する
  • プレイスメイキングに投資し、イノベーションを可視化する
  • 政策実施ツールを強化し、ガバナンスモデルを成熟させる
  • 代表的なテナント、フォーラム、イベントを誘致する
  • サイトプラン、マスタープラン、プレイスビジョンの間に強い一貫性を持たせる

 

5.成長

成長段階では、イノベーションの成果が大いに発揮され、プロジェクトリーダーは、地域のより広い社会的、環境的、経済的な展開におけるその場所の役割を確立し始めている。調整タスクや課題が増え、場所の境界を越えた関係やプロファイルがより持続的な優先事項となる。プロジェクトリーダーは、都市全体や地域のより広い問題に関心を移し、政府とプロジェクトリーダーの間でより緊密な協力関係が築かれている。

  • 競争力のある規模の構築
  • エコシステムを調整する
  • 場所の財務と管理ツールの改善
  • 場所のストーリー、お祝い、コミュニケーションを充実させる
  • 手頃な価格を監視し、スペースと住宅の供給を多様化する
  • 場所全体、地域全体の課題に対するスマートなソリューションをテストし、展示する

 

6.クリティカルマス

クリティカルマスの段階では、場所は場所全体のリターンを提供している。イノベーションと居住者のコミュニティに、一連のサービスとアメニティを提供している。また、地域全体のアイデンティティーの確立にもつながる。その影響力とインパクトは、スペースの必要性と人間関係の分散化に伴い、より分散したリーダーシップを必要とする。

場所は、価値、ノウハウ、デザイン、帰属意識、結束力の原動力となる。成熟したこの段階では、どのようにしてより広い経済構造に完全に統合するか、またどのようにしてより大きなスケールでの実験を促進するかという選択がある。

  • 全面的なコミュニティの管理とサービス
  • 場所全体を提供するためのガバナンスを統合する
  • アメニティ、社会的多様性、接続性に投資して、より広い場所を提供する
  • 他の場所にサービスを提供し、サポートする
  • 発生する外部性を管理する。
  • インパクトのあるグローバルリーチの開発

 

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報告書ではイギリスでも100か所程度のイノベーションの場所づくりが行われているが、その多くが1.エコシステム推進者か2.チェックの段階に過ぎないと指摘しています。

 

 

 

イノベーション・ハブって何?[研究ノート]

イギリスの研究機関である Connected places Catapultが、イノベーションハブの類型化に関する報告書を公表しました。今回はその内容を簡単に紹介します。

 

《目次》

 

報告書の背景・問題意識

「コロナは、2020年代に向けて、イノベーション経済の景観を劇的に再構築しています。政府や企業がコロナ禍からの回復を目指す中で、イノベーションのための新たな拠点を機能させるために、場所が持つ資産やエコシステム、専門知識をどのように活用できるかが緊急の課題となっています。」

 

イノベーション・セクターの立地ニーズ

現代のイノベーション拠点では、コラボレーションを行う企業、機関、個人に近接していることが、ほぼすべての拠点の運営方法の一部となっています。

コロナは、世界の多くの地域でコラボレーションのパターンを破壊し、デジタル化し、特定の場所のデジタル接続点を拡大するかもしれませんが、対面での交流や定期的な近接性という基本的な利点に取って代わるものではありません。

同時にコロナはオフィスや研究室のスペースの柔軟性の重要性を再確認しました。それはチームが成長したり、危機の際には規模を縮小したり、用途を迅速に変更したりする余地を与えることです。

グループ作業、機器の使用、会議、イベントなどのための共有スペースやコラボレーションスペースは、ダイナミックな環境を提供してくれるため、非常に求められています。ダイナミックな環境を提供し、企業がコストを共有することができるからです。

 

イノベーションエコノミーが求める立地条件

何年も前から、イノベーションは都市化しています。多くの企業が郊外のサイエンスパークやテクノロジーパークから撤退し、よりアクセスしやすく、密度の高い都市環境を求めて、イノベーションや相互受精を促進してきました。イノベーションを求める企業は、概して、都市が提供する密度、接続性、市場アクセスを好んできました。

 

 イノベーション・ロケーションの10のタイプ

このレポートでは、過去10年間に出現した10種類のイノベーション拠点のタイプを明らかにしています。それぞれが、より広いエコシステムの中で、さまざまな専門的機能を果たすことができます。10種類の場所の形式とは (1)ハブビル (2)クオーター (3)空き地 、(4)キャンパス、(5)地区、(6)トライアングル、(7)公園、(8)ゾーン、(9)回廊 (10)ランドスケープ です。

 

 (1)ハブビル:市街地やCBD周辺に位置するイノベーションハブビル

世界には、一つのビルがその場所でイノベーションの先駆的なセンターとして確立されている例がたくさんあります。 イノベーションの先駆的な拠点として確立している例が世界各地にあります。

多くの場合、これらのビルは都市の中心部にあります。これらのビルは、大学、ベンチャーキャピタル、銀行、政府機関に近接していることを活かして高い成長が見込まれる企業の商業化や立ち上げを支援し 都市や地域全体のイノベーション文化を促進します。

 

(2)クオーター:主要交通機関のターミナルに近いイノベーション・クォーター

質の高い公共空間や遺産的な建物が特徴的で、一度衰退した後に再び利用されることも多いイノベーション・クォーターは、その優れた資産や立地のおかげで、特別な課題に直面しています。

 

(3)空き地:大手企業が撤退した跡地のイノベーション拠点

空き地になった場所や、閉鎖された場所に、イノベーションセンターが誕生しています。空港、島、軍事基地、移転中の病院などがその例です。

 

(4)キャンパス:大学を中心としたイノベーション・キャンパス

新しいイノベーション・プロジェクトの大部分は、都市部や郊外にある既存の大学の周辺で生まれています。都市部や郊外にある既存の大学の周辺では、知識を商業化する機会に恵まれています。

ここでは、工業地帯の再生というよりも、大学を中心としたコンパクトなエリアの都市化、高密度化、活性化に焦点が当てられています。大学は、ヘルスケアやテクノロジーを専門とする大学であることが多いです。

 

(5)地区:都心部の歴史的建造物の多い地域にあるイノベーション地区

都心部の伝統的な環境やブラウンフィールドの旧工業用地を再生して の再生は、イノベーション経済の最も一般的な形態の一つです。

このモデルでは、所有権や管理方法が大きく異なります。主に市政府が主導するものもありますが、このモデルでは様々な所有者や管理モデルが存在します(バルセロナ22@など)。また、大規模な民間の土地所有者や開発者が、協力的な地方自治体や市政府とパートナーシップを組んでいる場合もあります(例:シアトルのSouth Lake Union)。

 

(6)トライアングル:3つの異なる場所をつなぐイノベーショントライアングル

イノベーション・トライアングルの特徴は、多様な場所を結びつけ、別々の都市エリアや同じ都市内の3つのゾーンをつなぐことです。

これらの場所に共通しているのは、産業、住宅地、既存のオフィス拠点をつなぐことです。

 

(7)公園:郊外型イノベーションパーク

イノベーションの都市化が叫ばれていますが、多くのイノベーションパークは、郊外の人口密度の低い場所に設置されていることが多いです。

郊外の低密度地域に設立されたイノベーションパークの多くは、物流、研究所、エンジニアリングなど、都心部には適さない企業や活動のニーズを満たしています。市街地との税収競争を目指す郊外の地区リーダーの野心を満たすものです。

 

(8)ゾーン:都市外にあるイノベーションゾーン

世界各地の都市や地域では、イノベーションに特化した大規模なゾーンが作られています。その多くは、「経済特区」「フリーゾーン」「エンタープライズゾーン」として構成されています。

これらのゾーンでは、企業の立地や投資に対する条件が強化され、計画も簡素化されていることが多いです。

中には、既存の都市の独立した「都市」やサブセンターとして、緑地に誕生するものもあります。また、成長、投資、雇用創出の機会があると考えられることから、近隣の複数の場所で構成されているものもあります。

このようなゾーンは規模が大きいため、政府のトップ層が主導することが多いのですが 、地方自治体が協力してゾーンマネジメントチームを立ち上げることもあります。 

 

(9)回廊:イノベーション・コリドー

イノベーション回廊は、明らかに相互に関連した経済エリアを認識するように設立または構成されることが多です。

これらの場所は、強い通勤パターン、補完的な産業クラスターサプライチェーンを共有しています。

回廊型のアプローチは、スピードとコスト効率に依存した旧来の開発パラダイムを、専門化、集中化、スキル開発を用いたイノベーションに適した資産に最適化します。

 

(10)ランドスケープイノベーションランドスケープ

イノベーションランドスケープは、自然資産に近接していることを利用して、生態系がある程度の相互依存性と親密性を達成できる空間を作り出しています。

川、谷、山、海岸などの自然資産の種類は、その場所に立地する産業の種類を決定します。このような場所に立地する産業のタイプを決定し、強いアイデンティティと場所の感覚を提供します。

 

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図 イノベーションハブの類型

 

10のタイプに共通するイノベーションハブとしての成功要因

 

●ビジネスと人材の具体的なイノベーション要求を満たすための物理的・デジタル的な接続性

●イノベーター、教育機関、指導者、投資家、既存企業、地域のリーダーの間のコラボレーションの質と深さ

●場所の大きさ、変革と行動の規模に見合った野心、リソース、管理スキルの提供

●コミュニティがどのように成長していくかを予測し、成長のためのスペース、住宅やアメニティのニーズ、他の場所との相乗効果を考慮する

●何がイノベーション志向の企業や人材を惹きつけるのかを理解し、イノベーションコミュニティが包括的であることを保証する場全体の視点

●地域のスキル供給、将来のスキル需要、企業への道筋への積極的な関与

 

 

イノベーションハブに関する報告書は、地域リーダ向けにイノベーションハブの形成に関するプレイブックを同時に発表していますので、そちらについては後日報告します。