地域戦略ラボ

地域経済や地域マネジメントに関していろいろな事を考えていきます。

[読書ノート]どんなビジネスにも場所は必要である。

馬田隆明(2019)『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』日経BP

 

著者はマイクロソフトでの勤務経験を経て、現在、東京大学産学協創推進本部でスタートアップの支援などを行っている。

 成功するスタートアップの多くは起業家の能力だけではなく、時の利、地の利を得ながら成功する。

本書では、その環境条件を

Place(どこでやるか?)

People(誰とつながるか?)

Practice(どう訓練するか?)

Process(どう仕組みをつくるか?)と4つ分けて

それらをまとめると、「もし起業して成功したいのであれば、最適な場所(Place)と人(People)を選び、正しく訓練(Practice)をしながらその実践プロセス(process)も整備しよう」としている。

 

起業には、助けてくれる仲間起業を促進させる制度・文化が重要である。仲間とは親密なコミュニケーションが必要であり、そのためには物理的な近接性が必要となる。また、起業を促進させる制度や文化とは人々が集まる特定の空間で形成される。よって、起業には特定の環境としての空間が必要だと言える。著者はこれを「居場所」と名付けている。

 

 場所に関する議論を見てみると、働く場所としてコミュニケーションがとりやすく創造性を掻き立てる空間があり、大学などで親密な関係を気付くことが人脈形成として重要であり、イノベーションを加速させる場所としてサロンやカフェなどのサード・プレイスがある。また、シリコンバレーではHPやアップルのように、ガレージで操業することもあるとしている。

 

起業はビジネス行為であるので人々が集う物理的な空間を必要とするし、同じようにイノベーションの学習も当然人々が集う物理的な空間を必要とする。起業とイノベーションは切っても切り離せない関係であり、イノベーション・エコシステムの議論ではそれは一体化している。

つまり、起業が場所という制度的空間が必要であるのと同様に、イノベーションにも場所という制度的空間が必要となる。

 

著者はスタートアップの育成支援に関して多くの経験があるが、自分の経験則だけによって本書の結論を抽出したわけではなく、本文中に多くの参考文献を紹介しながら、自分の理論を補強している点で好感が持てる。

 

 

イノベーションにおける学習と空間 (1)拡散する知識と凝集する知識

知識経済社会において交通・通信技術が発達することで知識を広範囲なところから探索して調達することが可能となりました。

同時に、ハイテク人材や高度技能者の人材獲得競争は激しい状況であり、高度な科学技術に関する知識のみならず、そのような人たちが持つ特殊技能やノウハウは人の移動と共に拡散されやすくなっています。

 

高度な科学技術をもとにした論文や特許のような形式知はコード化された知識なので拡散しやすく、ノウハウや特殊技術などの暗黙知は、文脈に依存する性格があるので特定の場所から拡散しにくいと言われています。

しかし、拡散する知識とは、形式知という知識の性格によるものではく、科学技術分野では、形式知は言うに及ばず暗黙知も個人だけでなく、チームでの人材獲得活動が活発に行われることで、チーム内で培ったノウハウや暗黙知なども移転可能となっています 。

また、企業は外資系企業の買収によって組織的近接性を構築し、ノウハウを含んだ知識を獲得しやすくなっています。

つまり、現代社会では、特定の技能やノウハウを持った人材やチームが移動すれば、イノベーションの源泉となる科学技術などの知識は簡単に国境を越えることができます。


しかし、知識は拡散しやすい状況である一方、知識は特定の地域に凝集しているという現象が見られます。

世界では科学技術をベースとしたイノベーションが盛んに行われている地域があり、それらの場所では知的集積拠点として、イノベーションに取組む多くの企業や高度技術者が集い、拡散しやすい性質であるはずの高度な科学技術に関する知識や集められ、新たな知識が日々創造されています。


知識が特定の場所に集まるのには大きく3つの要因が考えられます。

第1は、知識の累積性という性質です。

科学技術などの知識は、現在の知識が基礎となって次の知識が生れるというという連続体の中にある。また、知識は単独で存在するのではなく、様々に組み合わされた中で認知も高くなり、活用されやすくなります。

つまり、知識は集合した方が、価値が高まるという特性があるためです。

例えば、知識が要素技術として断片的に存在するより、統合された技術の方が新たなイノベーションに結びつきやすいです。

第2に、知識を創造する人々は可能性と快適性があるところに集まるという性質があります。

知識は人に付随しており、知識を創造する人間が好むライフスタイルがあり、それらが実現可能な地域に人々が集まることで新たな知識が生れます。

第3は、知識の養育者としてのパトロンの存在があります。

歴史的に見ても、知識とくに科学技術の創造には多くの費用がかかるため、資本のある所で知識が創造されて、活用・蓄積されるという性質があります。

世界的に見て富が偏在している中、知識は知識を養ってくれる富の集まるところに凝集すると言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

 

[読書メモ]産業革命も連続的イノベーションによってもたらされた

ジョエル・モイキア、監訳長尾伸一、訳伊藤庄一(2019)『知識経済の形成 産業革命から情報化社会まで』名古屋大学出版会

 

本書は 経済史の泰斗である米国ノースウエスタン大学教授のジョエル・モイキアの”The Gift of Athena””の邦訳本です。彼は、技術革新が経済に与える影響を歴史的視点から研究しており、特に第1次産業革命についての多くの研究を蓄積しています。

 

1970年代のダニエル・ベルの(1975)『脱工業社会の到来――社会予測の一つの試み』を代表として、今までの工業化社会から知識経済社会に移行するとの論評が広がりました。モノや資源を投入資源として経済的価値を生むという視点からヒトが生み出す知識こそが経済的価値を生む社会に移行していると指摘されてきました。

 

モイキアは18世紀以降のイギリスで起きた第1次産業革命も、知識としての技術が重要な役割を果たしており、起業家の活動も技術の発展に支えられたものであるとしています。

そして、技術の発展は、一人の個人発明家によって成し遂げられたものではなく、時代の制度や文化が大きな影響を与えているとしています。なぜなら、文化は選好や優先順位を決め、制度はインセンティブやペナルティーを課すからです。

 

また、技術に関する洞察の中で、技術の発展は一人の個人が知っていることよりも、その共同体が知っていることが重要であると指摘しています。そして、共同体の中で知識が伝播し、またフィードバックにより技術が継続的に進化したとしています。

その意味で、技術の進化は社会的なプロセスであるとしています。

 

技術革新やイノベーションとは当代的現象ではなく、過去においても色々な展開がありました。本書は、現代の技術革新とイノベーションに対しても示唆の富む優れた歴史書です。

 

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

知識経済の形成――産業革命から情報化社会まで

 

 

 ジョエル・モキイアに関心のある人はForbのインタビュー記事(

歴史家が認める、米経済史に影響を与えた「7人の凄い人物」)も参考になります。

データで見る東京一極集中:地方創生総合戦略1期の検証

昨日のWeb News Business Japanに「なぜ広島県が人口流出ワースト1位…」という記事があり、気になりましたので、データーソースの住民基本台帳人口移動報告2019年(令和元年)結果にあたってみました。 

 

まず、広島県の状況を見る前に、内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」の目的意識が人口の東京一極集中是正にありましたので、よく見るグラフではありますが、3大都市圏の転入出超過者数(外国人含む)の推移を見ます。図1の3大都市圏転入出超過者数の推移から、内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」が本格的にスタートした2015年からを見ても、名古屋圏、大阪圏は横ばいですが、東京圏の転入超過者数が伸びていることがわかります。

 

図1 3大都市圏転入出超過者数の推移

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都道府県の2019年の状況を図2から見てみると、転入超過となっているのは東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,福岡県,滋賀県及び沖縄県の8都府県だけです。

一方、転出超過となっているのは広島県茨城県長崎県新潟県など39道府県で、転出超過数が最も拡大しているのは広島県(1961人)です。愛知県が前年の転入超過から転出超過へ転じてます。

図2 都道府県別転入出超過者数(2018-2019)

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地方中枢都市に人口をとどまらせて、東京への流出を防ごうという「人口のダム」という考え方がありましたので、政令指定都市の転入出超過者数を図3で見てみます。地方圏の中では、札幌市、仙台市、福岡市、熊本市がプラスになっています。他の新潟市静岡市浜松市岡山市広島市はマイナスになっています。

広島県は人口流出傾向にありますが、広島市も人口のダムになりえていないことが窺えます。

 

図3 政令指定都市別転入出超過者数(2019年)

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図4は内閣府の「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」が本格的にスタートした2015年から2019年までの札幌市、仙台市広島市、福岡市の転入出超過者数の推移を見ています。

札幌市、福岡市は地域での人口のダムの機能を果たしています。仙台市も東北各県、宮城県の移動がマイナスの中、プラスを維持しており、かろうじて人口のダムの機能を果たしています。

 

図4 札幌・仙台・広島・福岡市転入出超過者数推移(2015-2019)

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図5は2019年の年齢3区分別転入出超過者数の上位20市町を見ています。札幌市は道内から高齢者が集まっていることが指摘されてきましたが、若年層、生産年齢人口層でも人口を集めています。福岡市では生産年齢人口層でも人を集めています。仙台市広島市では高齢者人口増で人を集めていますが、若年層、生産年齢人口層での人を集める力が札幌市や福岡市に比べ弱いと言えます。

 

図5 年齢3区分別転入出超過者数の上位20市町(2019年)

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自治体で地方創生総合戦略の2期がスタートします。政府の地方創生大臣が適材適所で配置されましたので、5年後の結果が懸念されるところです。

 

 

地域イノベーションの課題 その2

先日のブログで、地域イノベーションの課題として、大きく分類して
(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及

(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます、と申し上げました。

本日は(2)イノベーションの領域とマネジメント について考えてみたいと思います。

 

(2)イノベーションの領域とマネジメント
地域イノベーションは、地域内の産学官組織の連携のみならず、地域外の企業が関与することにより加速されていました

地域イノベーションは、シーズの開発からその実用化に至る研究開発から生産まで一つの地域で一貫して行われているのではなく、地域内組織で行われるフェーズもあれば地域外組織を中心に行われるフェーズもあります。

シーズとなる技術の発明者と特許の権利者、部品、最終製品の製造者はそれぞれ違う地域に立地していることが多く、また、イノベーションの担い手は企業であり、その活動は行政の領域に拘束されるものではありません。

その結果、行政の領域とイノベーション活動の領域が異なっています


地域イノベーションは地域の主体的な関与があって成功します

しかし、自治体が地域内での成果に固執しすぎると、イノベーションで必要な機能や技術を持った地域外企業を排除する可能性があります。

地域外企業の参加は、イノベーションの加速要素であるが、同時にイノベーションの成果が地域外へ漏出する原因にもなりえます。

そこに地域イノベーションにおける活動と行政の領域性におけるジレンマがあります


また、地域内でのマンネリ化と負の固定化が考えられます。

地域を行政的領域として捉えると、そのイノベーション活動は、場合によっては地域内での関係構築が優先され、地域の既得権者を中心とした設計がなされ、地域振興は既存資源の活用に拘った縮小均衡的な動きがとられることがあります。

また、地域内での担い手となりえる能力をもった企業の存在は限定的であり地域の中で同じ企業ばかりが政策の受け手となってしまうことがあります。その結果、マンネリ化つまり負の固定化(ロックイン)に陥ってしまい、革新的なイノベーションを生むことは難しくなってしまいます。

 

外部の知識は、イノベーション・プロセスの空いたピースを埋め、固定化(ロックイン)を避ける上で重要な役割を果たしています

イノベーションとは、既存の価値観を打破して、新たな価値観を創出する活動です。よって、イノベーションインパクトをより大きなものとさせるためには、地域においては、成功体験を経路依存的になぞるだけでなく、新たな知(血)を導入し地域の親和的関係を壊すことによって、新たな経路を形成していくことも必要となってきます


地域イノベーション政策のアプローチは、地域活性化のための取組みであるため地域の都道府県が主体性をもって担っていくべきものとされてきました。

地域イノベーションの一層の創出を図るのであれば、研究能力や起業活動を盛んにして地域の科学技術イノベーションのポテンシャルを上げると同時に、地方自治体のみならず国も含めて、イノベーションや産業・ビジネスに関する深い理解と戦略立案及び政策運営のキャパシティの更なる向上が必要と言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

デトロイトに見る産業都市の盛衰

20世紀を代表する産業都市としてアメリカ・ミシガン州デトロイトが挙げられる。デトロイト自動車産業の興隆とともに発展していった町である。デトロイトの興隆から衰退の軌跡について見ていきたいと思います。

 

 

1. デトロイトとフォードの発展

自動車産業の立地する前のデトロイトの様子を見ると、1820年から30年代頃はエリー湖を行き来する船舶の造船所や水運を活用して運搬する小麦関連の製粉所や製粉機機関関連の産業が立地する地域でした。

1860年から80年代にかけては銅製錬所が立地し、その関連の銅合金、真鋳、金具製造が発展し、造船業に関連する塗料、ニス、蒸気発生機、ポンプ、潤滑装置、工具、ストーブなども立地するようになっていきました。


1903年にフォードが創業したが、デトロイト周辺に立地する機械産業や船の艤装関連産業をベースに自動車産業が発展していきました。1907年にフォードののT型発売が販売されると町は自動車の生産とともに大きくなっていきました。

 フォードにより自動車産業が形成されてと言えるが、フォードが自動車を産業したわけではなです。フォードの成し遂げたことは、生産の標準化と新市場の開発により、自動車を手ごろな価格で発売していったことです。

 (フォードの成しえたこと)

■生産の標準化
 大量生産「フォードシステム」大量生産システム
 製品の標準化:5000点以上の部品構成
 高い生産性
 自動車組み立て時間を12.5時間から1.5時間へ短縮

■新市場の開発
 自動車の価格が大幅に引き下げられた。
 価格:1908年には850ドル→1915年には440ドル
 中流農夫や工場労働者が買えるようになった。

その後、T型に固執したフォードのシェアは低下していきますが。GMなどが興隆して、町は拡大していきました。

 

デトロイトの最盛期は1962~1964年と言われています。その頃、スモーキー・ロビンソンダイアナ・ロスマービン・ゲイなどが所属するモータウンレコードは全米のミュージックシーンの中心的存在となり、公民権運動が盛んに起きな割れたり、経済力を背景にオリンピックの誘致活動が行われたりしました。フォードの最先端のスポーツカーであるマスタングが発売されたのも1964年でした。

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2.デトロイトの衰退

 デトロイトが衰退を始めたきっかけと言えるのが 1967年7月23日から27日にかけて起きたデトロイト暴動です。黒人暴動は警察の手には負えず、国境警備隊などの軍を派遣、死者は43名、1189名負傷、逮捕者は約7,200名とアメリカ史上最大の暴動と言われております。それ以降、白人を中心にデトロイト市から中流階級が流出していきました。

デトロイト市の人口は、最盛期の185万人から直近では70万人にまで減少しています。

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 ジェイン・ジャイコブズは『都市の原理』 で「都市の発展はイノベーションが持続的に生み出されることによってもたらされ、それが行えなくなった時に都市は衰退する。」と言っています。

デトロイトの発展は元々造船業や機械工業などの多様な産業基盤があったがゆえに、フォード式自動車大量生産システムを生みましたが、1920年以降自動車産業に集中し、効率な生産を追求することで、巨大企業への部品の供給は「単純な」仕事になってしまったと言えます。それゆえに地域としての創造性を失っていきました。

 

 3.再生への取組み

 その後のデトロイト市の荒廃はマスコミなどで報道されている通りです。しかし、最近デトロイトで再生への取組みが行われています。

 

JP Morganが1.5億$を投資したり人材を派遣しています。地元住宅ローン会社の社長Dan Gilbertが95の施設を21億$で買収・改修の予定です。

また、1988年に閉鎖されたミシガン中央駅(1913年開業)を2018年6月にフォードが買収し、自動運転に関するイノベーションハブ(拠点)として2022年から使用を開始し、そこでは2500人の従業員が勤務する予定です。

 

確かに、デトロイト市中心部は再開発が進み、ICT関連企業が入居したりして活気が戻ってきています。GMの本社があるルネッサンスセンターからFOXシアターにかけては治安はだいぶ安全になっていると言えます。しかし、FOXシアターの北部にあるウェイン州立大学の裏や中央駅の裏および中心部から8マイルロードまでの郊外部は今でもかなり治安が悪いと言えます。

 

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<参考文献>

都市の原理 (SD選書)

都市の原理 (SD選書)

 

  

都市は人類最高の発明である

都市は人類最高の発明である

 

  

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

 

 

フィールドワークにおける現場観察法

1回生の授業でフィールドワークの基礎編を担当していますが、その授業での指導内容を簡単に紹介します。

 

<基本姿勢>
新しいものに心を開く(好奇心をもつ)。
  些細なものでもいいから、不思議に思うこと、真新しいもの、矛盾、謎に目を向ける。
  意外なものにアンテナを広げる。
現場の視点に立つ。
  自分の立場を離れて現場の人の視点になって想像力を広げてみる。
  (注)現場といっても人や立場によって視点は変わってくる。

 

<観察姿勢>
五感を働かせて観る。
問いかけながら観る。(What、Who、Why、When、(Where)、How)
意識して観察する。(仮説を立ててみる)

  ↓
・何気なく視界に入ったものの意味に気づく。

 

<情報収集>
文字情報の収集: チラシ、パンフレット、看板、掲示
写真を撮る。
計る。測る。
・耳に入ってくるものを聴く。(うるさい。静か。他人の会話。)

味わう。
嗅ぐ。臭い・香り

 

<メモる>
メモを取る、書き留める(現場メモ)→見出しを付ける(言語化する)・写真も文字化してみる→集める→フィールドノートを清書する。(項目ごとにまとめてみる)

 

●フィールドワークで各自が持ち帰るもの
 不思議に思うこと、真新しいもの、矛盾、謎、戸惑い、意外なもの、気付き
  ↓
 現場で新たな問いを発見する。(問題発見できたらOK)

 

細かなメソッドは授業で教えられますが、好奇心や気づき(センス)などの基本的なことは指導でどうなることではないと思っています。

 

大学におけるアクティブラーニング

新年度から新教育指導要領が大幅に改定になり、小学校から教育の仕方が大幅に変わります。それを先取りする形で、大学でも文部科学省からアクティブラーニングを取り入れるように指導されています。

アクティブラーニングとは、学修者が能動的(アクティブ)に学修(ラーニング)に参加する学習法の総称であり、体験学習、調査学習、グループディスカッション、ディベート、グループワーク等を指します。

 

本務校の学部でも通常授業で、ペア学習、リアクションペーパー、グループディスカッションなど積極的にアクティブラーニングの手法が取り入れられており、アクティブラーニング型の講義がどれだけ実施されているかをカウントしています。

本学部生の特性かもしれませんが、学生もアクティブラーニング型で授業中に何か作業があったほうが良いというものが多く、一般的な座学の授業では90分間退屈で時間が持たないと言います。

 

ただ、通常授業でペア学習などを部分的に取り入れても深い学びにはなっていないく、知識が本当に習得できているのか疑問に思う点があります。

また、手法としてアクティブラーニングを取り入れることが目的化して、深い学びの検証が疎かになっている気がします。

 

それらの要因として、現行の大学のカリキュラムが90分×15回で2単位を基本として、幅広い知識を仕入れる広く浅いが学習が中心になっており、そのフレームワークの中で部分的にアクティブラーニングを手法として取り入れても深い学びにはならないと思います。

さらに、アクティブラーニングの目的として、アクティブラーニングによる気づきから自ら学習をすることが前提となっていますが、その講義が終了してしまえば、その自らの学習をどのように行っているかを、本当にやっているのか検証していません

(学生は講義の最後の振り返りで、「○○について知識が不足しているので今後勉強していきたいです」というようなことを言っても、単位を取ってしまえば忘却の彼方です。)

 

本当にアクティブラーニングを推進するのであれば、学生の学習の相談にのるチュートリアル制度が必要だと思います。

また、文系学部にとっては、いくつかの例外はありますがゼミこそがアクティブラーニングであると思います。なので、ゼミを90分×15回×週2回で4単位にするとか、ゼミを同学年で複数履修できるようにするとかして、じっくりディスカッション、グループワークができるゼミ型講義を増やす方が、通常授業での形だけアクティブラーニングを増やすより良いと思います。

 

将来的には、従来型の知識習得型の座学の授業はオンライン学習等に任せて、ゼミ系授業を複数こなしていくのが良いでしょう。

 

 

アクティブラーニングについては最近注目されており、選ぶのを迷ってしまうぐらい多くの関連書籍が出版されています。以下にいくつか紹介いたします。

松下佳代(2015)ディープ・アクティブラーニング

学習効果の視点からアクティブラーニングの手法について考察した本です。

ディープ・アクティブラーニング

ディープ・アクティブラーニング

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 勁草書房
  • 発売日: 2015/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 ②渡部淳(2020)アクティブ・ラーニングとは何か

 アクティブラーニングのの取組み事例について知りたければいかが良いでしょう。

一番最近出されたアクティブラーニングに関する本です。

アクティブ・ラーニングとは何か (岩波新書)

アクティブ・ラーニングとは何か (岩波新書)

 

 

小針誠(2018)アクティブラーニング

アクティブラーニングが学校教育に導入されている現象を客観的(批判的)に捉えたい方にお勧めです。 

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

アクティブラーニング 学校教育の理想と現実 (講談社現代新書)

  • 作者:小針 誠
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 新書
 

 

中井俊樹(2015)アクティブラーニング

 アクティブラーニングを実践的に導入したい現場の大学教員向けのテキストです。

アクティブラーニング (シリーズ 大学の教授法)

アクティブラーニング (シリーズ 大学の教授法)

  • 作者:中井 俊樹
  • 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
  • 発売日: 2015/12/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

地域イノベーションの課題 その1

地域イノベーションの課題として、大きく分類して
(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及

(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます。

本日は(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及 について考えてみたいと思います。

 

各地で公的支援をうけながら新しい製品を生み出し、経済価値を生んでいるという意味でイノベーションを創出した事例がいくつか見られる。しかし、大きなインパクトを残しているとは言い難い状況です。その要因として、5点が考えられます。

 

第1は、ハイテクであれば革新的なイノベーションであるとは限らないのと同様に、学術的価値が高いからと言ってそこから生み出される経済的価値が高いとは限らない点が挙げられます。

イノベーションの経済的な規模や成長性は、学術的な価値には関係なく、応用分野の市場発展性やビジネスモデルの戦略性に依存すると言えます。また、多くのイノベーションの取組みにおける応用分野は成熟産業のため、イノベーションは改善(漸進)的なものになる可能性が高いです。


第2は、地域イノベーションの波及は国の産業システムに依存するということが考えられます。

多くのイノベーションとは社会を一変させるようなラディカルなものではなく、改善的(漸進的)なイノベーションでは産業システムを変革させるほどのインパクトはありません。さらに、市場が国内向けだけであったり、多品種少量生産モデルの中であれば販売量にも限りがあります。国の産業システムが成熟化しており、既存産業の成長性が低ければ、そこで創造されたイノベーションインパクトも弱いと言えます。


第3は、イノベーションのネットワーク拠点における卓越性の未確立な点が指摘できます。

研究開発の拠点はイノベーションのためのネットワーク拠点としての卓越性を構築して国際的に認識されている状況にはなっていない例が多いです。さらに、研究開発拠点を取り囲む環境としての地域を見ると、新たな起業が見られたり、研究開発を行う企業の投資などが次々と行われている状況ではなく、必ずしもイノベーションが継続的に起こるようなイノベーション・ミリューとはなっていないです。


第4は、研究テーマは成果の上げやすいものに走りがちとなり、イノベーション政策と言いながらも現実的には、不確実性の高いイノベーションにはチャレンジしにくい状況となっています。

大学などの研究機関に所属している研究者は様々な単発の公的研究助成金をパッチワークのようにつなぎ合わせてプロジェクトを連続的に展開し、実用化につなげようとしています。その公的研究助成金事業の多くは、近年、短期間で実用化という成果を求めている。そのため、その成果が出やすいプロジェクトを行う傾向が強くなります。


第5に、イノベーションと地域経済との連鎖が課題として挙げられます。

地域自治体のイノベーション創出の目標はあくまでも地域経済の活性化にある。しかし、地域大学と地域内企業が連携して共同研究を行い、その成果が商品化されたとしても、地域で受け皿となる企業がなければ地域内での売り上げや雇用などの経済効果は限定的となります。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

地域イノベーション・システムの構成要素

従来、イノベーションは、企業内で起こされるものと捉えられてきたが、現在では、企業単体ではなく他企業とのアライアンスや大学や公設試験研究機関との連携など企業外とのネットワークの中で起きるものであると捉えられるようになってきています。

つまり、イノベーション創出のためには制度的環境が重要になってきています。


国レベルにおいてイノベーションの創出を促進する制度的フレームワークとしてナショナル・イノベーション・システムがあるように、地域レベルには地域イノベーション・システムがあります。

つまり、地域イノベーション・システムは、地域の生産構造におけるイノベーションをサポートする制度的インフラと解釈することができます。


そのような地域イノベーション・システムの構成要素は下図に示されます。

活動の中心として地域の産業企業群を囲う顧客、下請業者、協力企業、競争企業からなるクラスタがあり、知識の適用・活用のサブシステムとして位置づけられています。

そして、それを支える技術仲介機関や教育機関などの知識の創造・普及のサブシステムと、行政や地域開発会社による地域政策のサブシステムの3部分により地域イノベーション・システムが構成されています。

そして、それらサブシステム間では政策などを介して知識、資源、人的資本のフロー及び相互作用が生じています。

同時に、地域イノベーション・システムは国のイノベーション・システムや国際的な諸組織・政策の影響を受けています。

そして、現在、世界各地でイノベーションを生むための空間的制度としてのイノベーション・システムの構築競争が行われています。

 

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Trippl and Tödtling (2008)


野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

新しい地域のガバナンスの”カタチ”について思考中です。

 第2期まち・ひと・しごと総合戦略がはじまりましたが(自治体レベルでは総合戦略の策定真っ只中ですが)、それはそれとして、地方の今後を考えていく上で新しい地域のガバナンスの在り方を考えなければいけないと思っています。

なぜなら、住民ニーズの多様化、急激な時代変化、行政のリソース不足など公共を地方自治体だけが担う時代ではなくなってきているからです。

 

よく言われることですが、公務員の給料が高いとか、公務員の数が多すぎるから減らせとかいう批判は、単なる公務員いじめポピュリズムだと思います。

確かに、現在の非効率的な事務しごととしてのお役所仕事がそれでいいわけではありません。テクノロジーを利用しながら現在のお役所仕事は合理的、効率的に変えていく必要は当然あります。

例えばまちづくりの取組みも、行政が役立たないとか批判しながらNPOとかがやっているプロジェクトが多いですが、組織力・リソースのある地方自治体と協力してその能力を発揮できれば、さらに良いわけです。

公務員の仕事もより地域の課題発見→課題解決型のようなクリエイティブな仕事に変わっていくべきでしょう。

 

政府が使用する新しい公共”という言葉は、行政ではなくNPOや民間でしっかり頑張れと言っているようで、また、それをPPPとかPFIを指すようで、あまり好きな言葉ではないです。しかし、概念としては新しい公共性の構築が必要であり、新しい(オルタナティブな)”新しい公共が必要だと考えている。

 

私はここ数年、ヨーロッパのいくつかの自治体を回っていますが、地域が新しい時代に向けてより良い地域(市民)社会を築いていこうという動きが見られます。

日本は欧米のような市民社会ではないし、民主主義の考え方が違うので、欧米の地方自治体がそのまま当てはまるわけでありません。

しかし、日本の地域社会においても、ただ人口減少や急激なグローバル化・デジタル化におびえるだけでなく、より暮らしやすい地域社会を築くために、新たな地域(市民)社会のためのガバナンスを構想していくことは必要だと考えます。

地方のガバナンスについては誰が変えるのか?それは地方自治体みずからでは不可能です。それは、馬力だけはある超変わり者の首長である場合もありますが、やはり市民自体が変えていくしかないでしょう。

 

今、私に新しい(オルタナティブな)”新しい公共のイメージがあるわけではありません。今後何かしらのアウトプットができればと考えています。

 

最近新しい”新しい公共”を考える上で参考にした図書を以下に紹介します。

若林恵(2019)『NEXT GENERATION GOVERNMENT 次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方』黒鳥社

元『Wired』編集長の若林氏の次世代のガバメントについて考察した本です。なぜテック系雑誌元編集長がガバメントについてまとめているのか? 本人に聞いたわけではないですが、欧米ではシビックエコノミーや、スマートシティ、行政のデジタル化が推進されており、それら分けることができない大きな潮流に関心を持たれたのかと思います。本中には私も関心のあるデンマークの取組みなども紹介されています。

今後の公共のありかたについて考えてみたい人に特におすすめの本です。

ただ、個人的にはガバメントではなくガバナンスという用語を使っていただきたかったと思います。

 

② 曽我謙悟(2019)『日本の地方政府 1700自治体の実態と課題』中央公論新社

京都大学行政学の先生が執筆した地方自治体の現状と今後について考察した本です。タイトルが”地方自治体”ではなく自ら決定する権限をもつという意味において”地方政府”としたところがミソだと思います。日本の自治体の実体を知る教科書として良い本だと思います。

日本の地方政府-1700自治体の実態と課題 (中公新書)

日本の地方政府-1700自治体の実態と課題 (中公新書)

 

 地域のガバナンスは、中央政府や地域住民との関係、グローバル化の影響など様々な変数の上で成り立つものなので、国のガバナンスを考えるより複雑で理解が難しいものと言えます。

 

テックシティの興隆 その2

2月8日のブログでも書きましたが、アメリカを中心にテックシティへの富の集中が進んでいます。

 

最近、イギリスLSEのSimona Iammarino教授らがデジタルテクノロジー企業の富の偏在が地理的に与える影響について分析していますので、ここに簡単に紹介します。

 

結論から言うと、アメリカで発展している都市として、サンフランシスコベイエリア、ワシントンDC、ボストン、シャーロッテ( North Carolina) ローリー・ダーラム (North Carolina)、オースチン(Texas)、シアトル、サンディエゴ、ニューヨーク などであり、そして、それに取り残されたデトロイトなどの地域があるとしている点に変わりはありません。

 

それらテックシティの興隆の要因として、集積、市場構造、金融の力を上げています。

先ず前提として、現在の富の創出の中心としてICT技術を中心としたGAFAなどの企業によるものであるとしています。

その中で、デジタル産業は集積を活用することにより生産性を上昇させており、高度な技術を持った企業や人材が集積する都市により集まりやすいとしています。

さらにデジタル産業の産業構造はネットワーク構造をしており、その活動の中心地としてネットワークのハブがあります。

そして、金融取引の自由化・資本の流動化によりさらにそのような都市への投資が進んでいることを示しています。

 

これから日本への含意を検討してみると、東京一極集中現象は日本におけるテックシティは東京しかないという現実を突きつけているということです。関西圏も中京圏GAFAなどのハイテク企業が投資したくなるような企業や人材がいないということを示していると言えます。

なので、東京一極集中の是正策としては、東京のみの発展による怨嗟を取り除くための地方への資金配分ではなく、東京以外にデジタル化、ネットワーク化に対応できる人材・企業の集積をしっかり育てることが必要と言えます。

 

Simona Iammarino教授らは最近他にも同テーマで論文を書いていますので、機会があれば今後紹介していきたいと思います。

 

イノベーションのためのプラットフォームの構築

イノベーション活動は、迅速に知識や人材などのリソースを集め、イノベーションを効率的に起こし、普及させていくことが求められています。

そのため、イノベーションのコミュニティには参加者を誘引する強力な磁場(マグネット)となる拠点があります。こうした拠点では、様々な組織や人、それに伴う情報やお金が出入りして、新たな関係を構築する働きがあります。

つまり、イノベーション創出のための拠点とは、物理的な研究開発施設だけを意味するのではなく、人や情報及びお金が行き交うプラットフォームであることが求められていいます。


プラットフォームとは、従来はIT産業やネットワーク・サービス産業で重視されてきた概念であり、コミュニケーションの基盤となる道具と仕組みを備え、多様な組織の協働を促進し、新しい活用や価値を生み出す基盤を意味します(飯盛2015、国領2011)。

さらに、プラットフォームの機能として、参加者間の相互接続性が向上するため、複数の主体が相互作用することにより、意図していなかった創発象を生む点が挙げられます(国領2011)。

IT産業における勝者総獲りの例をあげるまでもなく、ネットワーク知識社会においてもプラットフォームの構築が経済的な利益を多く生むメカニズムが働きます(Srnicek 2016)。


そして、イノベーションプラットフォームはネットワークの結節点であるため、ネットワーク効果や収穫逓増などの原理が働きやすくなるという可能性があります。

つまり、多くの参加者を集めたイノベーションのプラットフォームは、その価値が増大すると考えられるし、卓越性が確立されると考えられます。

また、ユーザーや開発者など多様なバックグランドを持つ参加者が多いほうが課題解決のスピードが早くなる特性をもっています。

 

さらに、プラットフォームの卓越性は、参加コミュニティの権威付けに結びつき、そこでの仲間づくりはイノベーションにおける新たな標準化策定につながります。

そして、最先端のプラットフォームでは、世界中のユーザーから解決策を求めて最先端の課題が集まる。それゆえ、最先端のプラットフォームでは最先端のソリューションが開発される可能性が高く、インパクトのあるイノベーションが創出される可能性が高いです。

そして、イノベーションの競争はプラットフォームという「場」を単位とする競争にシフトしています。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

[書評]『他者と働く』:対話により組織が形づくれられる。

宇田川元一(2019)『他者と働く』Newspicks Publishing

 

著者は、対話こそが新しい関係性を構築し、ひいては組織を形成すると社会構成主義から組織を議論しています。

対話のプロセスを「溝に橋を架ける」という行為に例えて、以下4つのプロセスを経て対話が成り立るとしています。

 

1.準備 「溝に気づく」 相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく。

2.観察 「溝の向こうを眺める」 相手の言動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る。

3.解釈 「溝を渡り橋を設計する」 溝を飛び越えれ、橋が架けられそうな場所や架け方を探る。

4.介入 「溝に橋を架ける」 実際に行動に橋を架ける。

それを一巡、二巡と回を重ねることで、組織が実体化していきます。

 

組織とは、ある権限により囲い込まれたものではなく、人々がコミュニケーションを手追ってはじめて成り立つものであると言えます。

 

確かに、対話により関係が実体化し、それにより組織が形づくられるのは理解できるが、対話が生れるモチベーション、必然性が必要ではないだろうかと新たな疑問が生れました。 

 

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)

  • 作者:宇田川 元一
  • 出版社/メーカー: NewsPicksパブリッシング
  • 発売日: 2019/10/04
  • メディア: 単行本
 

 

イノベーションのためのコミュニティとは

イノベーションのネットワークは、それを構成する企業や大学およびそれらに所属する人々が特定の目的や言語(コード)、文脈を共有しコミュニケーションを密に行っていくことでイノベーションのコミュニティへと発展していきます。

コミュニティとは、地域共同体と捉えられてくることが多かったが、イノベーションのコミュニティとは、必ずしもローカル・コミュニティのように地域のメンバー間で関係が維持される地域社会を意味するものではなく、地域のメンバーを越えた関係を構築していきます。

イノベーション創出のプロセスにおいて必要とする資源を広範囲から臨機応変に集め、組み合わされていく。そのプロセスにおいて知識創造をおこなう組織と組織の関係性の集合としてコミュニティが構築される。


イノベーションのコミュニティでは開発者同士だけではなくユーザーとの関りが重要である。イノベーションでは、既存顧客を先導し、そして潜在的な新しい顧客を見つけ出すことだけでなく、ユーザーのニーズを理解し、先導的なユーザーを取り込むことによって生まれるユーザー・イノベーションがあります。

通常、ユーザーは、製品の改善点について深い洞察をもっているので、イノベーションの実験の重要な参加者となりえる。新製品・新サービス開発における新しいアイデアは、突然浮かぶのではなく市場の要求に対して多くの実験と繰り返しの試行錯誤の結果生まれるものであります。

イノベーションの中には、分析と行動のフィードバックとしての効果的な学習と、組織・部門を越えた情報・知識の効率的な統合を同時に実現させていくことがポイントです。
そのユーザー・イノベーションには2つのアプローチがあります。

一つは、既存市場において具体的なユーザーに対して市場のニーズを把握するものであり、テスト販売などがあげられる。そのためのコミュニティはテストベッドと言われることが多です。

もう一つは、企業の境界を越えて消費者だけでなく、供給業者、時にはライバル企業などと関係を構築し、潜在的なニーズを探索し、試作品などをユーザーや消費者に実際に使用してもらいながら作り込んでいくアプローチであり、これを発展させたモデルとしてリビングラボ です。リビングラボとは、課題を顕在化させて解決策を検討する物理的空間を含んだコミュニティであり、ユーザーを中心としてステークホルダー間のイノベーション活動のための実践的なコミュニティを意味します。


イノベーションは、知識や製品・サービスの創出でとどまるものではなく、それらが実際に使用してみるなど社会実装されてイノベーションとして結実するものです。

よって、製品やサービスとして展開されるその前に試作や試行を積み重ねる必要があります。

つまり、イノベーションの社会化と言えます。そのため、製品・サービスの試作、試行がされる実験を行う物理的空間が必要されている。テストベッドやリビングラボでは、知識やイノベーションの創造の基本的要素となる人間活動を組織化する必要があり、その時、協力企業やユーザー、ステークホルダーなどが集う、実証フィールドとしての地理的空間が不可欠なものとなります。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆