地域戦略ラボ

地域づくり・まちづくりに興味がある人、したい人のための学びのメディア

ヨーロッパにおける地域間格差(その1)

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの地理学部の看板教授3人が昨年Journal of Economic Geographyで公表した論文をもとにヨーロッパにおける地域格差の現状について紹介したいと思います。

Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019)  Regional inequality in Europe: evidence, theory and policy implication, Journal of Economic Geogeaphy, 19:273-298.

 

下の地図はヨーロッパにおける地域間格差を示しております。

地域を

①とても豊か(1人当たりGDPEU平均の150%以上)

②豊か   (1人当たりGDPEU平均の120-149%)

③中間   (1人当たりGDPEU平均の75-119%)

④豊かでない(1人当たりGDPEU平均の75%未満) の4つに分類しています。

 

①とても豊かな地域は、ロンドンパリなどの首都地域やミュンヘン地域(ドイツ)、ランドスタット(オランダ)などのネットワーク化された都市に広がっており一般的にメトロポリタンを形成しています。

 

②豊かな地域は、イギリス南東部からオランダ・ベルギーを経て、ドイツ南部、オーストリア、イタリア北部を通る地帯に広がっています。イノベーションが起きている地域もあれば、停滞している地域もあります。

 

③中間地域は、主に北・西部ヨーロッパに広がっています。元々工業地帯が多いので停滞している地域もありますが、移民が多く集まっている地域は成長しています。

 

③豊かでない地域は、東・南ヨーロッパ地域に広がっています。西ヨーロッパ地域ではティーズバレー、ウェールズ(イギリス)などに広がっています。

f:id:ehimeman:20200303101106j:plain

EUにおける地域間格差

下の図は、2000~2014年にかけての4地域別の人口移動を表したものです。この15年間において、とても豊かな地域に人口が集まり、豊かでない地域では人口が流出していることが窺えます。

 

f:id:ehimeman:20200303100944j:plain

EUにおける人口移動 (2000-2014年)

 

下の図は、2000~2014年にかけての4地域の雇用増加率を表してものです。とても豊かな地域が最も雇用を創造し、豊かでない地域は雇用を喪失していることが窺えます。

f:id:ehimeman:20200303101015j:plain

EUにおける雇用率の変化(2000-2014年)

 

以上のように、ヨーロッパでは地域間格差が大きく、大都市圏で雇用を創出し、より人口が集中していることがわかります。

より豊かな大都市圏で雇用が創出され、人口が集まるのは、日本のみの現象ではなく、ヨーロッパでも見られる特徴です。

 

ヨーロッパでは地域間格差の是正には比較的気を使っています。それは、2つの世界大戦はヨーロッパにおける経済格差が要因の一つと考えている点と、最近では地域的貧困はポピュリズムを生む土壌となり、社会的問題を引き起こしやすいという考えが共有されているからです。

 

イギリスのEU離脱で、今後の分析はイギリスなしとなります。(現在でもノルウェーとスイスは入っていませんが…)

 

4つのタイプの地域がどのようなアプローチをとったら良いかについては後日紹介したいと思います。