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地域づくり・地域経済について学びたい人におすすめの新書12選[読書]

大学で地域経済学経済地理学を教えています。

地域活性化について、例えば地産地消や観光振興、ふるさと納税など次々と政策が打ち出されますが、学生に対してはそれが地域経済にどのような影響を与えるのか、地域経済の構造と意味を理解してほしいと考えています。

 

地産地消だけでは外貨を稼いでいないので地域経済を救えません。観光振興といっても、もっと生産性の高い産業に参入する機会を逸しているかもしれません。

 

地域活性化の取組みならその効果は地域にとって良い、とは限らないということも理解して欲しいです。

 

なので、地域経済について考える時、新聞や雑誌などのマスコミで取り上げられる事例や現象ばかりに目を奪われるのではなく、はやりの施策に乗っかるのではなく、地域経済を体系的に捉えていく必要があります。

 

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地域経済について学ぶのにおすすめの新書を12冊紹介したいと思います。

 

《今回紹介する本》

増田寛也(2014)『地方消滅』中央公論新社

2014年のベストセラーなので読んだことのある人も多いと思います。批判も色々ありましたが、人口減少による地方の持続可能性の危険性をわかりやすい形で問題提起したと思います。 2014年出版ともう古くなってしまっていますが、今後の地域を考えていく上で問題提起をした起点となる本です。

 

②木下斉(2015)『稼ぐまちが地方を変える』NHK出版

地域を活性化するということは、そこでお金が回っているということです。まちづくりにおいても「まちを一つの会社に見立てて経営する」という視点が大切です。

つまり、資金調達し、投資し、回収して、利益をあげ、それを元手としてさらに新しい事業に再投資する。このサイクルを町の経営で徹底することです。

著者は、まちづくりのためには官に依存するのではなく、市民や企業などの民が中心となって「稼ぐ」ことが重要だとしています。そして、まちづくりを成功させる「10の鉄則」を提案しています。

 

 

飯田泰之 他(2016)『地域再生の失敗学』光文社

本書は、合計6人の学者、プランナー、市長により、地域再生を巡る3つの講義と5つの対談によって構成されています。

地域経済の再生において、その取組み内容、実施主体(ガバナンス)、手法は様々であり、経済学だけでなく、地方自治論、地方財政論、組織論など様々なアプローチが必要となります。

著者の一人である東洋大学の川崎教授の「所得の移転が都市から地方へという「地域間移転」から、将来世代から現役世代へという「世代間移転」へと変わってしまった」との指摘は正鵠を射ています。

 

橘木俊詔・造事務所(2017)『都道府県格差』日本経済新聞出版社

経済に限らず社会、生活などいろいろな都道府県別のランキングが公表されています。地域間には様々な種類の格差があり、ある面では恵まれていても、別の面では豊かではないこともあります。

人々は公平は機会を持つことが権利があり、地域格差は社会的な不安定要因になるので、是正されるべきと考えます。しかし、地域とは地域資源の存在や地理的・社会的条件により多様です。そのような状況において地域格差の是正は可能でしょうか。

本書は、都道府県ランキングに一喜一憂するのではなく、地域格差の現状を把握する一助となる本です。

 

⑤諸富徹(2018)『人口減少時代の都市』中央公論新社

人口の減少、老朽化する社会資本、都市財政の悪化など、都市は大きな問題を抱えている。このような環境の中で、著者は持続可能な都市づくりとして「成長型」ではなく、コンパクト化した「成熟型都市経営」を提案しています。

成熟型都市経営では、人口減少を前提として、地域経済循環を促し、自治体間で連携することが必要であるとしています。

 

しなやかに強い地域を作るためには、経済基盤が必要であり、それはつまり、地域内に経済の好循環を築くことです。

本書は、地域経済の構造を理解する手助けとなります。そして、地域経済循環としてバケツ理論を紹介しています。バケツ理論は貨幣の流出を防ぐ意味で地域経済に効果があります。

ただやみくもに経済の量的拡大を図るのではなく、地域経済の内実を見直していくことが必要だと言えます。

 

著者は自治省の官僚を経た新潟大学の教授です。

まず、東京のひとり勝ちをデータで示しています。その中で地方都市はどのように生き残りを果たしていくのか。都市は元々多様な中で発展、存在してきており、都市間競争の時代における都市のライバル関係の比較が興味深いです。

 

⑧曽我謙悟(2019)『日本の地方政府』 中央公論新社

地方政府(自治)については中学の公民や高校の現代社会の授業で学びました。しかし、大学で地域おこしについて学ぼうとするのであれば、そのレベルで知識がアップデートしていないのは問題があります。

地方政府は、住民、地域社会、地方政府、中央政府との関係性の中でとらえられていいます。都道府県も市町村もある地方政府は、複雑で雑多な課題を抱えており、その様々な関係性の中で、すぐれた政策マネジメントを行う必要があります。

地方政府の機能・構造はある意味、可塑的であると言えます。(イングランドの地方政府のガバナンスの変化については最近論文にまとめましたのでそちらをご覧ください。→論文URL

 


⑨河合雅司(2019)『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること』講談社 

ベストセラーとなった『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)』(2017)の著者による人口減少を地域を舞台にして分析した本です。

前著では人口減少を日本全体の問題として捉えていましたが、具体的に地域ごとに分析してみることで、より身近に人口減少社会というものがイメージできるようになると思います。

日本社会において、人口減少による勝ち逃げ地域などはないことがわかります。地方の人口減少を東京の一極集中のせいにされますが、東京圏においても人口減少は避けられない問題ですし、すでに人口減少している地域と違い、人口減少慣れしていないため、これから大きな地域社会の変革が求められるようになっていくと思います。

また、東京圏に限らず日本全国の地域は、コロナ禍によって人口減少が加速し、地域社会は急激な変化を余儀なくされることとなるでしょう。

 

 ⑩岩永洋平(2020)『地域活性マーケティング筑摩書房

地域活性化の切り口として、 ふるさと納税地域ブランドを軸に地域活性化について検討しています。

ふるさと納税地方財政の問題ですが、返礼品に注目があつまり、いかに返礼品として魅力ある地域産品を提供できるかが課題となっています。

制度的には問題が多いふるさと納税ですが、各地域が他の地域の消費者と結ばれる機会を創出した点では評価できると思います。その現実に対して、いかに産品として地域ブランドを確立して、地域と消費者を結びつける関係性を構築していくかを考えていくうえで参考になります。

 

 

⑪宮崎雅人(2021)『地域衰退』岩波書店

著者は先ず、地域はどのくらい衰退したかをデータを用いて説明していきます。地方圏に住んだ人なら肌感覚でわかることですが、商店数が減少し、バスの便も減少し、使われなくなった家屋が増えてきています。

地域衰退の原因は、基盤産業の衰退にあります。産業の担い手である労働力人口が減っている中、新たな産業を興していくことはとても難しいことですが、政府の過度な政策誘導より、地域にあった産業を興すことが重要であるとしています。

 

著者は、地域活性化の取り組みが失敗している現場を数多く見てきたことから、政府の補助金を活用した地方創生は失敗であると一喝しています。

著者によると”「まちづくり幻想」とは、皆が常識だと思い込んでいるものが、実は現実と異なり、それを信じ、共有してしまうがゆえに地域の衰退を加速させるという本質的な問題です。”としています。
まちづくり・地域づくりは、他地域の成功事例をむやみに後追いすることではなく、地域の人たちが、行政任せ、よそ者任せにせず、自らの頭で考えて行っていくものであるとしています。
 

地域経済に関してある程度体系的に学ぼうとすると、新たな取り組みも出てきますし、政策も変わりやすいので専門書よりも新書が適当かと思います。

学生には、この中から1冊だけ選ぶなら『地方消滅』かな、という話はしております。「地域が消滅することはない。消滅するのは自治体という組織である。」というような批判はありますが、人口減少時代においてこれからの持続可能な地域を検討するうえでこの本は読んでおいた方がいいと思います。

 

<余談>

以前、大学の講義で①から⑩を課題図書として、レポートを書かせました。選んだほんの集計結果を示したのが下記のグラフです。『地方消滅』が最も多く、続いて『未来の地図帳』『稼ぐまちが地方を変える』でした。f:id:ehimeman:20220224173355p:plain