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”関係人口”ってたまに聞くけど、どういうもの?(読書メモ『関係人口の社会学』)

田中輝美(2021)は『関係人口の社会学において”関係人口”に関する最近の議論と事例をまとめている。

 

地域活性化においては、若者、よそ者、バカ者の参加が必要と言われてきた。そのよそ者の効果として5つある。その5つとは、①地域の再発見効果、②誇りの涵養効果、③知識移転効果、④地域の変容を促進、⑤しがらみのない立場からの問題解決、である。  (敷田麻美2009)(p116)

 

近年、総務省などの政策もあり、地方創生の取組みにおいてよそ者である”関係人口”という言葉が聞かれる。似たような言葉として”交流人口”という言葉があるが、交流人口とは一般的には観光客を意味するが、”関係人口”とは明確な定義はなく、「地域と関わりを持つ外部者」(田口2017、p15)と認識されている。移住などによる人口増加が難しい現状においては、関係人口の増加は地域活性化の切り札の一つとして期待されている。

 

結論から紹介すると、田中は本書で明らかになったこととして次の三点を紹介している。(p308)
①関係人口は、地域住民と社会関係資本を構築する過程で地域再生主体として形成される。
②その関係人口と社会関係資本を構築する過程で、新たな地域住民が地域再生主体として形成され、両者の共同という相互作用によって創発的な地域課題の解決が可能になる。関係人口が地域再生に果たす役割は、地域再生主体の形成と、創発的な地域課題解決の二つである。
地域再生主体が多層的に形成され、地域課題が解決され続けるという連続的過程が地域再生であり、現代社会の地域再生において目指すべきあり方である

として、関係人口を地域再生にしっかり組み込むことが必要とされている。

 

その中で、地域再生を目指す上で関係人口の創出・拡大は「手段」であって、決して目的ではない(p320)、としている。確かに、関係人口を交流人口の延長線上に位置づけてしまうと、関係人口も量を追い求めてしまうことになってしまう。それよりも、関係人口の質・機能の向上が地域再生のためには重要である。

 

そして、地域再生における関係人口の役割は、次の二つであると考えられる。
地域再生の主体を形成する
創発的な課題解決を促す(p292)

 

関係人口としての参画者と地域側の地域再生主体との形成過程は、共通して大きく次の三つのステップに分かれている(p245)。
①関係人口が地域課題の解決に動き出す
②関係人口と地域住民の間に信頼関係ができる
③地域住民が地域課題の解決に動き出す


そして、関係人口が地域再生主体として形成されるための条件を検討すると、次の三つの条件が考えられる(p266)。
①関心の対象が地域課題である。
②その解決に取り組むことで地域と関与する
③地域住民と信頼関係を築く


一般的に言って、共通する地域再生プロセスは4期の段階を踏まえている。
Ⅰ期は、地域において解決すべき課題が顕在化する段階である。
Ⅱ期では、顕在化した地域課題と自身の関心が一致する地域外の主体、つまり、関係人口がその解決に関わるようになる
Ⅲ期は、Ⅱ期で登場した関係人口の影響を受け、地域住民が新たに地域再生主体として形成されていく段階である。
Ⅳ期は、顕在化した地域課題が創発的に解決される段階である(p276)。

地域においては関係人口が求められるわけだが、信頼性と異質性という、相反する要素を両立させるアンビバレントさが「近さと遠さのダイナミクス」であり、この二つを兼ね備えることで、地域再生の主体として最大限に効果を発現する可能性が生まれるのである。
だからと言って、地域社会がこうした二つをもともと兼ね備えているような、いわゆる「スーパースター」的な関係人口だけを選んで呼び込もうと考えたとしたら、その態度は誤っていると言わざると得ない(p300)。

関係人口がすべての地域課題を解決できるわけもなく、むしろ関係人口の数は少なくてもいいとも言うことができる。多くなればなるほど、関係の質を担保することは難しくなるだろう。かつて都市農村交流で起こった「交流疲れ」現象ならぬ「関係疲れ」現象を生んでいくことにもなりかねない(p301)。

 

関係人口は地方創生の特効薬ではない。しかし、地方自治体は、総務省の「関係人口創出事業」などの政策フレームワークに捉われることなく、関係人口というよそ者のもつ機能を地域創生の取組みに組込むことが求められる。

 

 

関係人口に関しては河井先生の著書もある。関心ある人は重ねて読んでみるのも良いだろう。