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ヨーロッパにおける地域間格差(その2)

昨日公表したJournal of Economic Geographyの論文をもとに、その続きとしてヨーロッパにおける地域間格差への政策アプローチについて紹介したいと思います。

(論文)

Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019) Regional inequality in Europe: evidence, theory and policy implication, Journal of Economic Geogeaphy, 19:273-298.

 

その論文の中では、地域開発政策においては地域間の平等性と政策の効率性が二律背反的であり、両方を同時に求めることは難しいとしています。

 

そこで、地域開発政策のフレームワークとして以下の5点を挙げています。

1)集積の経済

2)知識のスピルオーバ

3)労働者の移動

4)地域間を結ぶインフラの整備

5)中心地の形成

 

論文ではヨーロッパの地域を、

①とても豊か(1人当たりGDPEU平均の150%以上)

②豊か   (1人当たりGDPEU平均の120-149%)

③中間   (1人当たりGDPEU平均の75-119%)

④豊かでない(1人当たりGDPEU平均の75%未満) の4つに分類していますが

その地域の特性ごとの政策アプローチをとるべきだとしています。

 

とても豊かな地域は、競争力のある地域であり、引き続きイノベーションの推進に取り組むべきです。その時、地域産業は古いタイプの産業から先端テクノロジー型のものに新陳代謝させるべきだとしています。

 

豊かな地域は、とても豊かな地域に比べて競争力がなく、不安定な状況です。技術的には成熟している産業が多いので漸進的なイノベーションが中心です。産学連携研究や、創造性、大学院教育などが重要であり、人材の国際還流のためのオープンな姿勢が重要であるとしています。

 

中間地域は、4つの地域の中では、豊かな地域ほどイノベーション能力が高くなく、豊かでない地域と比べて土地と給料は安くないため、最もマネジメントが難しい地域だとしています。オープンな姿勢で、外資系企業の投資を受けることが大切であり、ガバナンスを信頼のあるもの、整ったものに変える必要があるとしています。

 

豊かでない地域は、人材や技術や組織などの資産の乏しい地域である。土地と労働コストの安い地域であるので、ビジネス投資がしやすく後進性の利益を受けられる地域です。しかし、その後進性の利益はすぐに解消されてしまうものです。地域労働市場の形成がカギのため、特に人材育成が大切であり、大学などだけでなく職業訓練なども重要です。

 

以上のように、地域経済政策は以前のように貧しい地域に政府からリソースを補填するという考えではなく、地域自身が時代の特徴を読み何が地域経済の成長につながるのかを考えることが重要だとしています。

つまり、地域経済政策は中央政府からの一律的な展開ではなく、地域ごとの特色にあった政策である必要があり、地域での政策立案能力が求められています

 

今後、日本の自治体も独自で地域政策を立てる能力が求められてくると思います。