地域戦略ラボ

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”地域イノベーション”に関する研究はどのような状況ですか?

地域イノベーションという言葉を最近聞きますか? 日本ではあまり地域でイノベーションが起きているようなことは聞きませんし、”地域イノベーション”に関する研究はどのような状況なのでしょうか?

 

そこで、海外(英語論文)の研究状況はオランダにある国際的な学術出版社であるELSEVIERが提供するデータベースScience Directを使用し、国内の研究状況については国立情報学研究所が提供するデータベースCiNiiを使用し、定量的に分析してみました

 

海外(英語論文)の研究状況について、キーワードを” regional innovation system" "regional innovation ecosystem" "urban innovation" "rural innovation"で、国内の研究状況については、キーワードを”地域イノベーション”として状況を分析しました。

 

(注)データベースの違いがあるため、国際状況と国内状況の違いについては比較は妥当ではない。Science Directは主に査読付き論文、国際学会の抄録がメインであるのに対し、国内のCiNiiは査読のない論文の他に、雑誌記事なども多く含まれている。

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地域イノベーションに関する論文・抄録等発表件数の推移

海外(英語論文)の推移を見ると、”regional innovation system (地域イノベーションシステム)"は1990年代後半頃から研究が行われており、2000年以降着実に研究が拡大しており、近年は年100件近くなっています。

また、最近よく聞かれる”regional innovation ecosystem (地域イノベーションエコシステム)”について見てみますと、研究自体は2012年から発表され、近年増加傾向にありますが、年10件前後と決して多いとは言えません。つまり、”regional innovation ecosystem”とは学術用語としてはあまり定着していないようです。

 

その他に、"urban innovation(都市イノベーション)" "rural innovation(農村地域のイノベーション)"について見てみますと、両方とも1990年代半ばころから研究成果は発表されてきましたが、特に"urban innovation(都市イノベーション)"が2010年代から着目を浴び始め、近年研究が拡大している状況です。

 

国内の推移を見ると、地域イノベーションについては1990年代後半頃からと海外とほぼ同時期から研究が行われておりました。その後、2000年代に着実に発表件数が増加していきました。これは国のクラスター政策や地域イノベーション政策が行われていた時期と重なっています。2010年代はおよそ年60件程度で横ばい状態と言えます。2020年は36件と大幅に減少しました。2021年は17件ですが8月までの情報なので確定できませんが、減少している可能性が高いです。

 

◆まとめ◆・地域イノベーションに関する研究は、海外では年々盛んになっている状況であるのに対して、国内では頭打ちもしくは減少傾向です。

・海外では、地域イノベーションの中でも、特に都市イノベーションに関する研究が特に盛んにおこなわれています。

・地域イノベーションエコシステムの研究は特に盛んにおこなわれているという状況ではなく、地域イノベーションエコシステムという用語は、学術用語というより政策用語の可能性が高いです。