地域戦略ラボ

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地域のマーケティングについて考えてみる

 昨年イギリスの自治体の都市計画部署を訪問した際に、「市役所に勤めるのに今後必要な能力はどのような能力ですか?」という質問をした際に、「マーケティング能力」という答えがありました。

そのことがありましたので、最近改めてコトラーら(1996)の『地域のマーケティング』 東洋経済新報社)を読んで見ました。

 

(原題は『Marketing Places』で、Placeを「まち」と訳しています。)

 

どうして「まち」のマーケティングが必要なのか(p.350)

「まち」の開発にマーケティングアプローチを採用することは、「まち」が新しい経済において効果的に競争していくための最優先課題である。

「まち」は、現在そして将来の顧客ニーズを満たすような製品やサービスを作り出さなければならない。

「まち」はその製品とサービスを、「まち」の内部にも外部にも、国内にも海外にも、販売しなくてはならない。

「まち」のマーケティングは、刻々と変化する経済状況と新しい機会に応じて柔軟に適応すべき継続性のある行動である。

 

地域ブランド品、観光だけでなく、企業誘致、人材獲得、移出(輸出)振興などが地域の発展には重要であり、そのために地域が戦略的に「地域」を売り出す必要が高くなっています。

地域イノベーションにおいても、企業や人材・資金の獲得のために、地域のブランド力(例えばシリコンバレーなど)は重要になってきています。

 

「「まち」のマーケティング」の中心となる考え方は、「まち」は、抵抗する内部・外部の強大な力を乗り越えて、その資源と人々の力を結集して、競争上の比較優位性を改善することができる、ということである。

国の国家間の競争に対する対応と同じように、「まち」も流動的な経済秩序に対して、対応していかねばならない。そのチャレンジにうまく対応するためのマーケティングの手法や機会を戦略的市場計画立案の考え方が与えてくれるのである。(p.351) 

 

→地域をマーケティング的に考えることは難しいことではないですが、それを実行させるとなると、地域内外の軋轢もあり難しいです。

それは、行政では平等が原則であるのに対し、マーケティング戦略では選択と集中があり優先順位をつけなければいけないからです。 

 

「まち」はこれからの問題点にどのように対処すべきか

 「ビジネスのスタート、成長、変革、新製品の開発販売、生産性の向上、輸出市場の開拓、契約、衰退、移転、撤退などが成功するかしないかは、「まち」の実行力にかかっている」 (p.327)

 

21世へ向けたこれからの「まち」の開発を導く枠組みとなる10の対応策(p.327~)

対応策1:「まち」は戦略的なビジョンを確立して問題に対応する必要がある

対応策2:「まち」は市場に基づいた戦略的な計画立案方法を確立する必要がある

対応策3:「まち」は本物の市場志向を採用しなければならない

対応策4:「まち」はそのプログラムやサービスの品質をうちたてなくてはならない

対応策5:「まち」は自分たちの競争優位性を効果的に伝達し、プロモーションする能 力が必要である

対応策6:「まち」は経済基盤を多様化して、変化する状況に応じて柔軟に対応できる体制を作らなければならない

対応策7:「まち」は起業家的な体質を身につけなければならない

対応策8:「まち」はもっと民間部門を活用すべきである

対応策9:それぞれの「まち」がもつ文化・政策・リーダーシップの違いによって、そ  れぞれ独自の変化の過程を経る必要がある

対応策10:「まち」の開発を支え、開発スタート時の勢いを維持するために、組織的な カニズムをつくっておかねばならない

 

 →いわゆる行政として”地域政策”を展開するという従来の考え方ではなく、起業家的な発想が必要となるでしょう。そのようなコンセプトとして”Institutional Entrepreneur”、”Public Entrepreneur"という概念があります。

 

「まち」はその時々の選挙民のニーズを超越して、もっと広い視野を持って戦略的に「まち」の計画を立案しなければならない。戦略的市場計画は、「まち」の未来の開発を導く力となり、具体的な行動計画や提案を選別し、優先付けしてくれる。また、「まち」を変えようとする要求に対していちいち対応するのではなく、「まち」ができることを一歩一歩実現していかなければならない。

現実の政治を無視せよというわけではなく、政治的なニーズと市場の力とのバランスをとるべきであると言っているのである。

自分たちの資源・資産、機会、そして顧客を明らかにするべきである。「まち」は自分たちの潜在的な顧客のニーズ・認識・好み・購買意思決定のしくみを理解する必要がある。「まち」は自分たちの未来のシナリオを描き、競争優位を持った「まち」になる道筋を決めなければならない。(p.330)

 

→地域政策は現状のニーズに対応することが第一とされていますが、それでは将来への投資が十分にされない可能性が高いです。

将来の地域づくりを考えるためには、現在のステークホルダーの意見ばかり聞いていてはできないです。

  

「まち」の盛衰は、能力を持ち、やる気のある、満足した市民(労働者・教育者・独創者・起業家・経営者などからなる市民)を作り出せるかどうかにかかっている。人的な資源が、「まち」が競争に生き残っていくための持つとも重要な資源なのである。(p.331) 

 

→いくら優れた戦略があっても人を中心とした資源がなければ実行できません。

 

人々が毎日の生活で「まち」を評価するのは、「まち」のもつ大きなビジョンによってではなく、「まち」の毎日のサービスの質によってである。(p.332)  

 

→いくら立派で正しいビジョンでも、人々がメリットを感じられなければ人々はついてきません。

 

「まち」は、ごく少数の産業や企業に、その未来を託すわけにはいかない。技術革新によって産業の浮き沈みは激しく、企業はコスト優位を求めて国際的に移動していく。「まち」は、うまくバランスのとれた企業のポートフォリオを組み立てなければならない。(p.335) 

 

→地域のステークホルダーに対応していくと、どうしても既存産業の振興に力を入れがちになります。

ポートフォリオの構築のために、地域における将来の飯のたねとしての産業づくりができる体制が必要です。

 

異なった「まち」が、同じような方法で変化に適応し、同じような未来を描くことはあり得ない。「まち」は固有の歴史、文化、価値観、政府や民間機関、官民の意思決定とリーダーシップのしくみを持っている。(p.344 )

 

→従来の行政の考え方から逸脱した時、その取組みを正当化できるガバナンスが必要になります。

 

→当然、地域を”商品”として扱いマーケット概念を当てはめるという考えはよいのかという反論はあります。

 

 →本はアメリカの事例であり、ちょっと時代遅れの感もあります。本は絶版になっていますが、マーケティング・マネジメントの考え方は現在でも十分に通用する考え方です。