地域戦略ラボ

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地域イノベーションの課題 その1

地域イノベーションの課題として、大きく分類して
(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及

(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます。

本日は(1)イノベーションインパクトおよび地域への波及 について考えてみたいと思います。

 

各地で公的支援をうけながら新しい製品を生み出し、経済価値を生んでいるという意味でイノベーションを創出した事例がいくつか見られる。しかし、大きなインパクトを残しているとは言い難い状況です。その要因として、5点が考えられます。

 

第1は、ハイテクであれば革新的なイノベーションであるとは限らないのと同様に、学術的価値が高いからと言ってそこから生み出される経済的価値が高いとは限らない点が挙げられます。

イノベーションの経済的な規模や成長性は、学術的な価値には関係なく、応用分野の市場発展性やビジネスモデルの戦略性に依存すると言えます。また、多くのイノベーションの取組みにおける応用分野は成熟産業のため、イノベーションは改善(漸進)的なものになる可能性が高いです。


第2は、地域イノベーションの波及は国の産業システムに依存するということが考えられます。

多くのイノベーションとは社会を一変させるようなラディカルなものではなく、改善的(漸進的)なイノベーションでは産業システムを変革させるほどのインパクトはありません。さらに、市場が国内向けだけであったり、多品種少量生産モデルの中であれば販売量にも限りがあります。国の産業システムが成熟化しており、既存産業の成長性が低ければ、そこで創造されたイノベーションインパクトも弱いと言えます。


第3は、イノベーションのネットワーク拠点における卓越性の未確立な点が指摘できます。

研究開発の拠点はイノベーションのためのネットワーク拠点としての卓越性を構築して国際的に認識されている状況にはなっていない例が多いです。さらに、研究開発拠点を取り囲む環境としての地域を見ると、新たな起業が見られたり、研究開発を行う企業の投資などが次々と行われている状況ではなく、必ずしもイノベーションが継続的に起こるようなイノベーション・ミリューとはなっていないです。


第4は、研究テーマは成果の上げやすいものに走りがちとなり、イノベーション政策と言いながらも現実的には、不確実性の高いイノベーションにはチャレンジしにくい状況となっています。

大学などの研究機関に所属している研究者は様々な単発の公的研究助成金をパッチワークのようにつなぎ合わせてプロジェクトを連続的に展開し、実用化につなげようとしています。その公的研究助成金事業の多くは、近年、短期間で実用化という成果を求めている。そのため、その成果が出やすいプロジェクトを行う傾向が強くなります。


第5に、イノベーションと地域経済との連鎖が課題として挙げられます。

地域自治体のイノベーション創出の目標はあくまでも地域経済の活性化にある。しかし、地域大学と地域内企業が連携して共同研究を行い、その成果が商品化されたとしても、地域で受け皿となる企業がなければ地域内での売り上げや雇用などの経済効果は限定的となります。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆