天才は、ある時、ある場所に凝集して現れる。
私は イノベーションの場所性について考えているので、エリック・ワイナーの『世界天才紀行』について、とても興味深く読んだ。何せこの本の原題は”The Geography of Genius"なのだから。
天才を才能論で論じるのではなく、創造性は、特定の場所で、特定の時期に、輝かしい才能と革新的アイデアが大量に生み出された事実に着目している。そのため著者は、問うべきは「創造性とは何か」ではなく、「創造性はどこにあるのか」としている。
世界史をたどり、天才が生まれるのは、アテネから、杭州、フィレンツェ、エジンバラ、カルカッタ、ウィーン、シリコンバレーと、ある時代のある特定の場所において数多く現れることを示している。それは私が尊敬するイギリスの都市学者のSir Peter Hallの ”Cities in Civilization" でも示されている。著者は文筆業者であるのでそれよりも人物中心に生き生きと描かれている。
天才が生まれる場所とは、オープンな環境であり、新たな情報と、新たなアイデアをいつでも歓迎する風土が大切であると言っている。この指摘自体はフロリダの
『新 クリエイティブ資本論』と繋がる話である。
著者は天才の生まれる空間だけではなく、天才の特性についても言及している。天才とは、“しぶとい”と。たんに胆力があるとか、頑固でしつこいのではなく、“しぶとい”人たちは、機転が利き、気概があり、創造力に富んでいるらしいと。これは、つまり
『やり抜く力 GRIT(グリット)』だな。
この本は天才を扱っているが、間接的には新しい科学を生んだ場所についても言及している。”科学は国境を超える”とか”科学はユニバーサルである”とか特に自然科学を叩き込まれた人々は主張するが、歴史的に見れば、科学も特定な場所で生まれている。そこはベルファーストのクイーンズ大学のリヴィングストン教授も
『科学の地理学: 場所が問題になるとき』で論証している。
科学技術振興における空間の重要性について考える材料になる。
世界天才紀行――ソクラテスからスティーブ・ジョブズまで (ハヤカワ・ノンフィクション)
- 作者: エリック・ワイナー,Eric Weiner,関根光宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2016/10/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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