地域戦略ラボ

地域づくり・まちづくりに興味がある人、したい人のための学びのメディア

『イノベーションの空間論』の出版にあたって

『イノベーションの空間論』はネットではもう発売になっておりますが、本の奥付では4月3日が発行日となっております。そこで拙著の出版に際し、執筆の動機、目的について以下に簡単に述べたいと思います。 21世紀において、国や地域が繁栄していくためには、…

改めて、いま必要なのはテクノロジーイノベーションである。

日本ではイノベーションは技術革新を訳されてきて、それがイノベーションに対する誤解を生んだと言われています。確かに、イノベーションは技術革新だけを指すものではありません。技術に由来しないビジネスモデルや制度や社会的なイノベーションもあります。…

この激動の社会における学習について考える。

私の勤務している大学では4月8日から授業が開始される予定ですが、従来通りの内容(コンテンツ)で教えることが、学生にとって本当に意味があるものかどうか逡巡しています(当然、時代の変化にかかわらず変わらぬ価値のある科目もあると思いますが)。 特に…

[読書レビュー]知識経済における地政学について考える

『Geopolitics of the Knowledge-based Economy』はフィンランド・ヘルシンキ大学地理学部のサミ・モイシオ教授の著書であり、2019年にRegional Study Associationの著作賞を受賞した本である。 知識経済を地政学の視点で論じるにあたり、2つのアプローチが…

イノベーションのつくり方はあるのか?

イノベーションとは、新たな技術や概念、ビジネスモデルを用いて財やサービスが市場や社会で受け入れられることである。それは個人や一企業がコントロールできるものではないので、ある意味偶然性が必要である。 そこで、そのようなイノベーションが計画的に…

アフターコロナ社会を思い巡らす(1)

今回の新型コロナウイルスの蔓延は全世界に広がり、世界史に残るような大きな出来事となっています。 今回の出来事は今後文明的な変換をもたらすでしょう。 その中で多くの人が新型コロナウイルス後の世界を想像し始めています。 朝日新聞ヨーロッパ総局長の…

地域イノベーションにおける経路依存と経路棄却

イノベーションが継続的に創出される地域となるためには、地域の組織が成功体験を積み重ねて経路依存性を構築することが必要です。 しかし、その経路依存性とは地域の組織間の関係が固定化されてしまうとマンネリ化し、新たな知識やアイデアが生み出されにく…

イノベーションの空間的分業におけるポジショニング

イノベーションは空間的に分業されており、一つのイノベーションの創出のための学習活動は一つの行政圏域で完結するものではないです。つまり、イノベーションは領域的(Territorial)にも分業されています。 それぞれの分業されたイノベーション活動が連鎖…

地域におけるイノベーション

地域におけるイノベーションと言いながらも、それは「Innovation in a region」を意味し、そのイノベーションは必ずしも地域のモノとは限らない。地域のためのイノベーション「Innovation for (or of) a region」とは別モノといえます。 イノベーションの活…

[読書メモ]アイデアを実現させる建築的思考術(アーキテクチャル・シンキング)って何?

西澤明洋(2019) 『アイデアを実現させる建築的思考術』 日経BP 世の中、シンキングばやりです。デザイン・シンキング、ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキング。 一体、どれがどれで、どのように使えばいいのかわからなくなります。 この本は、新…

企業におけるイノベーションのための地域

先日までは、イノベーションの創出のために地域が重要であるとの議論を見てきました。 しかし、大企業のイノベーションの創出活動では必ずしも地域的な要素を見受けるとは限りません。そこで、企業の視点からイノベーションのための地域や場所の利点について…

イノベーションにおける地域(3)多層的空間としてのイノベーション圏

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考察しました。 本日は多層的空間としてのイノベーション圏について考えます。 イノベーション創出のプロセスを俯瞰すると、知識の調達においてその空間は…

地域格差は是正されるのか?

地域格差の是正について、高度成長期は、日本全体が経済成長する中で、産出された富の分配として富める地域から富めない地域へ経済的支援という側面がありました。 しかし、国全体が経済成長していない中で、富を分配すること自体が難しくなっていっています…

地域による地域のための地域政策

欧米の地域政策の最近のキーワードとして"place-based approach"、つまり場所をもとにした政策アプローチが挙げられます。 今までの地域政策は中央政府によるトップダインの政策が多く、”One size fit all”として、画一的なアプローチが多かったですが、それ…

イノベーションにおける地域 (2)イノベーションにおける機能・環境空間としての地域

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションの拠点性について考察した。 本日はイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考える。 イノベーションのための知的集積拠点とは単独で存在するものではありません。人々や企業が研究…

イノベーションにおける地域 (1)イノベーションの拠点性

以前のブログのイノベーションのための学習と空間では、イノベーションが継続的に創出されるためには、その活動の基盤となるイノベーション・コミュニティが必要であるということについて見てきました。そこで本日以降は、イノベーション・コミュニティを構…

イノベーションのための学習と空間 (5)コミュニケーション空間としてのイノベーション・コミュニティ

イノベーションのための学習と空間として (1)拡散する知識と凝集する知識 (2)イノベーションの価値連鎖 (3)関係構築のための信頼と評判 (4)イノベーションの空間的分業 について見てきました。 今回は、(5)コミュニケーション空間としてのイ…

ヨーロッパにおける地域間格差(その2)

昨日公表したJournal of Economic Geographyの論文をもとに、その続きとしてヨーロッパにおける地域間格差への政策アプローチについて紹介したいと思います。 (論文) Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019) Regional inequality in Eu…

ヨーロッパにおける地域間格差(その1)

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの地理学部の看板教授3人が昨年Journal of Economic Geographyで公表した論文をもとにヨーロッパにおける地域格差の現状について紹介したいと思います。 Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019) …

ピッツバーグに見る産業都市の盛衰

2月18日のブログで、20世紀を代表する産業都市としてデトロイトを紹介しましたが、本日はもう一つの代表的な重工業都市であったペンシルバニア州のピッツバーグを紹介します。 1.ピッツバーグ概要 ピッツバーグとはペンシルバニア州西部に位置する人口約31…

イノベーションのための学習と空間(4)イノベーションの空間的分業

イノベーションのための学習と空間として (1)拡散する知識と凝集する知識 (2)イノベーションの価値連鎖 (3)関係構築のための信頼と評判 について見てきました。 今回は(4)イノベーションの空間的分業 について考えていきます。 1つのイノベーシ…

人口減少社会において持続可能な地域をつくれるのか?

『地方消滅 - 東京一極集中が招く人口急減 (中公新書)』 が書き示すように、日本の地域は人口減少により将来消滅すると言っても決して驚くような言説ではなくなりました。 下図は愛媛県八幡浜市の人口動態を示したグラフです。1950年に7.3万人だった人口が20…

イノベーションのための学習と空間(3)関係構築のための信頼と評判

イノベーションのための学習と空間として (1)拡散する知識と凝集する知識 (2)イノベーションの価値連鎖 について見てきました。 今回は(3)関係構築のための信頼と評判 について考えてみます。 イノベーション創出の取組みでは、多様な組織間で関係…

世界のテックシティー(イギリス編)

世界にはハイテク、特にデジタル技術をもとにした新しいビジネス活動が集積している都市・地域があります。 以下、世界のテックシティーについて紹介していきたいと思います。 まずは、イギリス編 イギリスには優れた学術機関があります。2020年THEの世界大…

大学を殺すのは誰か?

大学に対する不満が大きく論じられています。 特にYou tube界隈ではホリエモン、イケダハヤト、マナブ、岡田斗司夫、ひろゆき などによる大学不要論が大きく展開されています。 彼らの主張の多くは、大学は時代に合っていないオワコンである。自分たちも大学…

イノベーションにおける学習と空間 (2)イノベーションの価値連鎖

先日は知識の拡散性と凝集性についてみてきました。 今回はイノベーションの価値連鎖について考えてみたいと思います。 イノベーションを知識の創造と連鎖として捉えた場合、イノベーションとは一つのアイデアやコンセプトの着想からプロダクト・サービスの…

[読書ノート]どんなビジネスにも場所は必要である。

馬田隆明(2019)『成功する起業家は「居場所」を選ぶ』日経BP 著者はマイクロソフトでの勤務経験を経て、現在、東京大学産学協創推進本部でスタートアップの支援などを行っている。 成功するスタートアップの多くは起業家の能力だけではなく、時の利、地の…

イノベーションにおける学習と空間 (1)拡散する知識と凝集する知識

知識経済社会において交通・通信技術が発達することで知識を広範囲なところから探索して調達することが可能となりました。 同時に、ハイテク人材や高度技能者の人材獲得競争は激しい状況であり、高度な科学技術に関する知識のみならず、そのような人たちが持…

[読書メモ]産業革命も連続的イノベーションによってもたらされた

ジョエル・モイキア、監訳長尾伸一、訳伊藤庄一(2019)『知識経済の形成 産業革命から情報化社会まで』名古屋大学出版会 本書は 経済史の泰斗である米国ノースウエスタン大学教授のジョエル・モイキアの”The Gift of Athena””の邦訳本です。彼は、技術革新…

データで見る東京一極集中:地方創生総合戦略1期の検証

昨日のWeb News Business Japanに「なぜ広島県が人口流出ワースト1位…」という記事があり、気になりましたので、データーソースの住民基本台帳人口移動報告2019年(令和元年)結果にあたってみました。 まず、広島県の状況を見る前に、内閣府の「まち・ひと…