地域戦略ラボ

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イノベーションのつくり方はあるのか?

 イノベーションとは、新たな技術や概念、ビジネスモデルを用いて財やサービスが市場や社会で受け入れられることである。それは個人や一企業がコントロールできるものではないので、ある意味偶然性が必要である。

そこで、そのようなイノベーションが計画的に生み出させるという方法論等あるのだろうか。

 

最近、イノベーションを生み出す手法に関する著作が2冊発表された。

濱口秀司(2019)『SHIFT イノベーションの作法』ダイヤモンド社

篠原信(2020)『ひらめかない人のためのイノベーションの技法』実務教育出版社

 

手短に要約してしまうと、イノベーションのためにはバイアス(フレームワーク)を破壊する、価値体系を転換するということに尽きるであろう。

イノベーションは個人や部署などの組織だけではなく、会社組織の内部や外部との関係を結んで知識を集め・創造するとても複雑な知的活動である。

IDEOが開発したデザイン思考も、イノベーションを生み出すための方法論と位置づけられる。

 

イノベーションの創出プロセスにおいてはいろいろな障害がある。それを乗り越えるためには、あきらめない力、やり抜く力が必要となる。

その様な力が生れるのは、夢をもとにした大きな情熱がなければできない。つまり、イノベーションにとって一番重要なことはマインドセットであると言える。

しかし、それは方法論があるわけではい。

つまり、イノベーションの方法論とは、何か新しいもの・ことを作りたいというマインドを持っているということを前提に書かれている。

 

SHIFT:イノベーションの作法

SHIFT:イノベーションの作法

 

 (※なぜこの本はKindleでしか販売されないのか?)

 

ひらめかない人のためのイノベーションの技法

ひらめかない人のためのイノベーションの技法

  • 作者:篠原 信
  • 発売日: 2020/01/28
  • メディア: 単行本
 

 

アフターコロナ社会を思い巡らす(1)

今回の新型コロナウイルスの蔓延は全世界に広がり、世界史に残るような大きな出来事となっています。

今回の出来事は今後文明的な変換をもたらすでしょう。

その中で多くの人が新型コロナウイルス後の世界を想像し始めています。

 朝日新聞ヨーロッパ総局長の国末氏はtwitterで『サピエンス全史』の著者ハルリのコメントを以下の通り紹介しています。

 

アフターコロナに思いを巡らすにあたり、一つの視点として、監視社会と自由社会という対立軸があります。これはつまり中国と米国との対立に置き換えられることがあります。今回のコロナ騒動後の国際政治経済においてどこの国が覇権を握っているかということです。現在の状況だけから判断すると、中国は回復基調にあり米国はますます混乱しています。なので、中国が有利のように思える状況と言えます。これは、データ(デジタル)テクノロジーの普及と大いに関係しています。

ただ、データ(デジタル)テクノロジー化については、デンマークスウェーデンでも進んでいるので、データ(デジタル)テクノロジー化がすべて監視社会になるとは言えないでしょう。監視社会にならないでデータ(デジタル)テクノロジー化を進めていくことは可能でしょう。

データ(デジタル)テクノロジー化に関しては、テレワークやオンライン会議、オンライン教育の経験がかなり進んだと思います。これによって、いらない業務のようなものがかなりあぶりだされてきていると思ういますので、サービスのオンライン化が進むものと思われます。

 

また、大きな対立軸としてはローカル主義とグローバル主義があります。今後はグローバル化が世界経済にとって良いことだとは単純に思えなくなるでしょう。外国人嫌いなど偏狭主義としてのローカル主義が力を持ってくると思います。

そのほかの対立軸としては若者と年寄りの世代間対立も先鋭化してくるであろうし、都市生活と田園生活という価値観の揺らぎも生まれるでしょう。

 今回の出来事は文明の地層を大きく揺るがし、しばらくの間は余震のように様々な軋轢や議論が起きてくると思います。

 

ただ、このコロナショックにおいて日本は(今のところ)本当の危機に陥っていないという点が(幸いではありますが)問題だとも指摘できると思います。ヨーロッパやアメリカのようなショックを経験せずに、表面的に取り繕うことで破滅的な社会へのダメージを避けていると言えます。

つまりは、今回は抜本的に社会を変革できるチャンスであるのに、アフターコロナも表面的に取り繕った前世紀の制度やシステムが残ったままの社会が続く可能性があります。

 

アフターコロナを議論しているわけではありませんが、NewsPicksで『シン・ニホン』の著者 安宅和人氏が落合陽一氏と対談で日本の再興について対談しています。

安宅氏は政府の委員をいくつもやっているが、官僚・政治家は動かないので、民意を変えるために本書を執筆したと前書きで書いてあります。安宅氏はたぶん相当な危機感をもって執筆したことでしょう。

そこで、彼はこれからの社会では異人が必要であり、科学技術・教育をはじめ「もう少し未来に投資しよう」と主張しています。

では今後の日本をどうすればいいのかという議論では、一般的には「教育を変える」という結論になりますが、落合氏は安宅氏との対談の中で、その処方箋は教育ではなく、「認知を変える」ことだと言っています。確かに既存の制度の枠組みの中で教育を変えてもしょうがないと考えます。

 

想像から構想されたものに対して共感が集まり、創造につながります。新しい社会を構築するために、まずどのような社会を作りたいのか未来を想像することから始ていきたいと思います。

 

  

地域イノベーションにおける経路依存と経路棄却

イノベーションが継続的に創出される地域となるためには、地域の組織が成功体験を積み重ねて経路依存性を構築することが必要です。

しかし、その経路依存性とは地域の組織間の関係が固定化されてしまうとマンネリ化し、新たな知識やアイデアが生み出されにくくなり、逆に発展性が阻害されてしまうことにつながります。そのため経路依存性を打破することが必要となります。

 

人や組織が継続的に成長していくためにはダブルループ学習として学習と学習棄却のサイクルをスパイラルに回していくことが必要なのと同様に、地域が継続的にイノベーションを創出させ成長していくに為には、イノベーションのための経路を創造させながらもその経路に拘泥せずに経路を棄却して新たな経路を創造し続けることが必要です。

具体的には、他所から新たな知識や新規メンバーなどを取り入れ、新たな連携関係を構築することなどです。


つまり、地域イノベーションは地域という領域性に強く依存しているが、同時に、脱領域した空間を如何にネットワークとして地域内に取り込み関係性を構築して、成果を地域に埋め込んでいくことが重要となります。

イノベーションにとって、地域は関係構築を促進し、密なコミュニケーションを行う場という意味で促進要素であると同時に、強すぎる地域主義(ローカリズム)により関係構築を地域内のステークホルダーに拘れば活動が停滞していくという意味で制約要素ともなりえます。

 

イノベーションにおいて地域が重要であるということは、必ずしも地域のステークホルダーおける関係構築に注力することを意味していません。

イノベーションが継続的に創出される地域とはローカルな文脈を大事にしながら、積極的にグローバルとのつながりを持っているところです。

地域の主体性を保ちながら、地域外の資源を取り込むことによって既存の経路を棄却し、新たな経路を創造することが肝要と言えます。

 

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

イノベーションの空間的分業におけるポジショニング

イノベーションは空間的に分業されており、一つのイノベーションの創出のための学習活動は一つの行政圏域で完結するものではないです。つまり、イノベーションは領域的(Territorial)にも分業されています。

それぞれの分業されたイノベーション活動が連鎖されてネットワークが形成されているが、そのネットワークの中で地域の役割が異なっています。

イノベーション活動においてシーズの創出を行う地域もあり、要素技術の開発を担当する地域もあれば、量産製造に特化した地域もあります。商品やビジネスモデルの設計・開発を行う地域もあるし、プラットフォームとして知識を統合させる地域もあります。

例えば、アップルはシリコンバレーでは商品やビジネスモデルの開発を行い、量産は中国などで集中的に行っており、部品生産は日本・韓国企業などが行っています。

一般的には、要素技術を開発するだけより、技術を統合することにより、より付加価値の高い知識を生み出す可能性が高くなります。

しかし、知識の統合の最終形態である最終製品を担うことが必ずしも最も価値が高いことを意味するわけではありません。


イノベーションの価値連鎖において、利益幅の少ないプロセスを担う従属的なポジショニングではそこから生み出される富は少ないです。

また、最先端のハイテク分野だからと言って付加価値が高いとは限りません。

ハイテク分野でも価値連鎖において従属的な工程を担うのであれば利益は少ないです。

一方、ローテクでも独自性・希少性があればイノベーション・プロセスにおいて中心性を確保しやすく利益を得ることが出来ます。

つまり、発明から市場に至る価値連鎖の部分にある「ボトルネック」や「難所」をコントロールすることにより大きな利益を得る可能性もあります。

また、全体のコンセプトやビジネスモデルを設計することによっても利益を享受できます。

そのため、 イノベーションの空間的分業において、地域がイノベーションの経済的成果をより多く享受することを目指すのであれば、イノベーションの価値連鎖において優位なポジションを取ることが重要です。

また、当初はイノベーションの周辺的な位置づけを担っていても、イノベーションの価値連鎖を徐々に地域内で内製化して、アップグレードしていくことが求められます。

地域におけるイノベーション

地域におけるイノベーションと言いながらも、それは「Innovation in a region」を意味し、そのイノベーションは必ずしも地域のモノとは限らない。地域のためのイノベーション「Innovation for (or of) a region」とは別モノといえます。

 

 イノベーションの活動領域と地域イノベーションのマネジメント主体である行政の領域は一致していません。つまり、地域イノベーションイノベーションを創出した地域が利益を享受するとは限りません。

また、地域においては、知識を創造するだけではなく、地域外から幅広く技術を吸収し、ビジネス展開から産業システムとして展開することが求められています。

つまり、イノベーションは、技術があるからその地域が発展するのではなく、その地域が発展するのはその技術を活かすビジネスがあるからです。

ビジネスの担い手である企業が地域内で価値連鎖を形成し、イノベーションの成果を地域に定着させることが求めらています。その意味で、イノベーションの担い手はあくまで企業であり、行政がその活動をコントロールできるものではありません。

そこで行政がイノベーションの創出を支援する意味としては、イノベーションの確率を増加させるための環境整備を行うことであると言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

[読書メモ]アイデアを実現させる建築的思考術(アーキテクチャル・シンキング)って何?

西澤明洋(2019) 『アイデアを実現させる建築的思考術』 日経BP

 

世の中、シンキングばやりです。デザイン・シンキング、ロジカル・シンキング、クリティカル・シンキング

一体、どれがどれで、どのように使えばいいのかわからなくなります。

 

この本は、新しい思考法として、建築的思考術=アーキテクチャル・シンキングを紹介する本です。

大学の建築学科では、立地の状況や施主の条件、法規制などを統合し、建物という具体的なものを形づくるプロセスを学んで行きますが、その手法は、建築設計にだけ使えるのではなく、例えばデザインやブランディングマーケティングなどさまざな状況で使えるというものです。

私も以前の職場で建築学科出身の人がいて、彼の仕事の仕方を見ていて、与件の整理や統合が上手だなと思っており、建築を学ぶ過程におけるトレーニングは有効であると感じていました。

 

著者は、建築の方法として、1協働性、2社会性、3確実性、4統合性の4つの特徴があり、これは建築だけでなく社会のあらゆる創造活動に適合できると考えています。

そして、アーキテクチャル・シンキングの要素として

1.構造

2.コンテクスト

3.コンセプト

4.場

5.考える

6.共創

7.構想力 の7つがあるとしています。

これらは実はイノベーションの創造についても共通する要素と言えます。

本書では、これらの要素ごとに建築学的トレーニングを受けてきた、もしくは関連のあるエキスパート(たとえば、隈研吾氏、紺野登氏、山崎亮氏など)と対談し、考察しています。

 

本書は、アーキテクチャル・シンキングとは「プロセスをデザインする」こととしています。なので、具体的にどうすればアーキテクチャル・シンキングを使えるかとかは示していません。

 

私は、例えば社会的課題や政策などのアイデア出しでアーキテクチャル・シンキングが活用できるのではないかと考え、本書を手に取ってみました。

 アーキテクチャル・シンキングについては、手順が書いてありませんでしたが、要素については示してありましたので、今後具体的にどのような手順でできるか、自分なりに考えていきたいと思います。

 

本書は、アーキテクチャル・シンキングを具体的に試してみたいという人にはお勧めできませんが、”アーキテクチャル・シンキング”というコンセプトをもとに、自分なりに思考法をあれこれ模索してみたい人にお勧めします。

 

アイデアを実現させる建築的思考術 アーキテクチュアル・シンキング

アイデアを実現させる建築的思考術 アーキテクチュアル・シンキング

  • 作者:西澤明洋
  • 発売日: 2019/09/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

企業におけるイノベーションのための地域

先日までは、イノベーションの創出のために地域が重要であるとの議論を見てきました。

しかし、大企業のイノベーションの創出活動では必ずしも地域的な要素を見受けるとは限りません。そこで、企業の視点からイノベーションのための地域や場所の利点について考えてみます。


イノベーションでは研究機関や行政機関が様々な介入・支援を行うが、その創出主体はあくまで企業です。

そのイノベーションの創出要因は、企業の研究開発戦略、市場戦略、販売戦略、人事戦略など様々な経営判断から生まれるもの、つまり企業家による意思決定の問題であり、地理的条件により決定されるものではないとの指摘されています。確かに、イノベーションの地域的局面による企業の優位性の構築は事業構築における競争フィールドの一局面を示すに過ぎないので、イノベーションにおける地域的局面を過大評価すべきではないと言えます。

しかし、事業環境は企業の成長に大きな影響を与えるし、人もビジネスチャンスを得やすい良い環境に集まる傾向が強いです。さらに、企業家の意思決定自体も地域がもつ制度に影響されている可能性があります。

つまり、イノベーションのための企業活動において、立地の選択は競争力構築のための重要な経営戦略の1つであることに違いはありません。


知識経済社会における集積のメリットとして、マーシャル(Marshall 1890 )が工業化時代に洞察したのと同じように、知識や技術の取引の低コスト化、知識の溢出(スピルオーバー)、専門人材の労働市場の形成が挙げられます。

しかし、これらは地域および地域の中小企業にとってのメリットであり、大企業にとってのメリットと必ずしも一致するわけではありません。

多額の資金によって調達力を有する大企業は、先端技術という希少性のある高度な研究をグローバルな空間で探索・調達しており、地域の大学や企業から調達することに拘っていません。

しかし、企業の外部環境としての集積地にレベルの高いパートナーとなる大学や企業、ユーザーが集まっていることは競争力構築の一助となります。

例えば、高度技能者や技術者を採用する際に、地域内に人材プール(労働市場)が存在している方が、人材確保が容易にいきやすいです。

さらに、地域の中間組織との研究開発により新しい規格などの標準化をやりやすくなるというメリットもあります。

付け加えて、地域内に物理的なイノベーション・コミュニティがあることにより、予期しない関係性が構築出来て、新たなプロジェクトが生れる可能性が高くなります。


オランダのフィリップスはオープン・イノベーションにおける立地環境を整備して優位性を構築しています。

地域にあるベンチャー企業の買収により最新技術を取り込んだり、地域にハイテク人材の労働市場があれば、高度人材の調達において柔軟に対応できることで優位に立てます。更に、優れた高度研究者や起業家が集うことによりイノベーションの環境(ミリュー)がつくられ、研究開発に優れた拠点・地域との評判を得られれば、地域はリビングラボとして最先端の技術的課題やニーズが持ち込まれることもあります。

そのような最先端の技術的課題を抱えている企業は、往々にして先駆的なユーザーとなり、最先端のイノベーションを生む可能性が高くなると同時にそのことは新たな事業機会の発見・創出につながります。

つまり、地域の顕在性を上げて、評判を高めることは正の固定化(ロックイン)となります。また、その結果、多くの参加者が増えていけば、地域・拠点にとってネットワーク効果を高めるという働きがあります。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

イノベーションにおける地域(3)多層的空間としてのイノベーション圏

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考察しました。

本日は多層的空間としてのイノベーション圏について考えます。

  

イノベーション創出のプロセスを俯瞰すると、知識の調達においてその空間はグローバルに拡がっており、知識の創造と統合においては特定の場所で行われていました。イノベーションの空間とは、企業などの組織間の関係を編集し、知識を創造・連鎖させる物理的な空間を意味します。

そして、イノベーションのための地域とは、立地を共有しているローカルな環境により生まれる知識と、立地を共有していないグローバルなネットワークの活動により生まれる知識を統合する場所であると言えます。

つまり、イノベーション活動において、ローカル化とグローバル化の両方が進んでいると言えます。

その中で、イノベーションのための場所・地域とは、知識創造のための地域内外の活動を集合させ協働させるところであり、そのために、組織的・文化的背景の異なった多くの組織が容易に関係を構築できる中間組織的な機能を持ったところです。


そのようなイノベーションにおける空間・地域は、4つの層にまたがるネットワークが重なった結節点です。

先ず中心となる層が、具体的に人々が行き交い、活動の集積地となる物理的空間としての拠点です。そこは、活動の核となる企業家が存在する。そしてその企業家とは必ずしも企業人である必要はなく、行政、学術機関においても存在しうる。そしてその拠点はプラットフォームとして人・金・情報が内外から行き交い、知識創造空間としてプロジェクトやコンソーシアムが組成されたり、解散させられたりしている場所です。その拠点とは必ずしも1つの組織を意味するとは限らず、複数の組織が集合的に拠点を形成する場合があります。

 

次の層に、その拠点を囲むようにイノベーション地区があります。イノベーション地区には研究開発拠点だけではなく、複数の企業や人材育成機関が地区内に立地し、事業創造のために企業間や産学官間で比較的密にコミュニケーションを図るビジネス空間です。

同時に、拠点ではイノベーション活動に取り組む研究者や高度技術者、企業家のためのアメニティ施設や住居などを有する生活空間であることもあります。そのため、密なコミュニケーションを図れるため社会関係が構築しやすいと言えます。

 

さらに、イノベーション地区の外にはイノベーティブ・ミリューが広がる層あります。イノベーション活動を行うには企業家の行動の基準となる慣習・制度や、イノベーションへの志向性や熱意などの雰囲気に文化があります。

つまり、イノベーティブ・ミリューとはイノベーションの創出を促進させるための規則や規範などの制度が及ぶ範囲としての制度空間であり、併せて、イノベーションを具体化するサプライチェーンを形成する産業・生産空間でもあります。また、郊外型居住を好む研究者や高度技術者の生活を支える生活空間でもあります。


さらにその外層にはイノベーション・ネットワークがあります。その空間とは行政範囲としての囲まれた領域を越えて、グローバルおよびサイバー空間に拡がっています。そのネットワークでのコミュニケーションでは主に知識の交換が行われており、知識調達空間と言えます。

なお、イノベーション・コミュニティとは、イノベーション拠点、イノベーション地区、イノベーション・ミリュー、イノベーション・ネットワークを通貫しているイノベーションのためのコミュニケーションが比較的密に行われる空間です。


つまり、イノベーションのための空間とは、行政領域の境界に囲まれた領域としての空間ではなく、広範囲な空間から資源、情報、人材、資金等を集めることのできる拠点と、その活動を支える地区・都市、および制度や雰囲気を作る地域とからなる多層的な空間構造をしています。

そして、知識創造のために新たな関係を構築して、密にコミュニケーションを図るために領域性に強く依存していると同時に、知識の調達のためには脱領域化したネットワーク空間における資源・活動を、結節地として自分の領域に取り込むなどして再構築しており、それはイノベーションにおける活動圏であると言えます。


グローバルネットワーク知識経済社会は、企業や人ばかりではなく地域もグローバルネットワークの中に存在すると言えます。地域がイノベーションのための知的集積拠点として顕在性を示すためには、そのネットワークの中で埋もれることなくネットワークの中核に位置する必要があります。


ネットワーク性はインタネットビジネスだけに働くものではありません。仲間やユーザーの増加、つまりネットワークの規模が拡大すれば、ネットワークの経済的・社会的な価値が増し、新技術や新製品の標準化などでイニシアチブを握りやすくなることにつながります。

参加者が増加すれば、ネットワーク効果によりプラットフォームの価値が高まり、更に多くの参加者が引き付けられ、プラットフォームの価値はさらに上がります。

よって、知識集積拠点としての優位性を確保した地域は、ポジティブ・フィードバックにより、その優位性を一層増幅させることができます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

地域格差は是正されるのか?

地域格差の是正について、高度成長期は、日本全体が経済成長する中で、産出された富の分配として富める地域から富めない地域へ経済的支援という側面がありました。

しかし、国全体が経済成長していない中で、富を分配すること自体が難しくなっていっています。

東京一極集中で東京圏の一人勝ちということが言われますが、東京は日本の中で相対的には豊かな地域であるが、昔ほど富を多く生み出しているとは言えません。なので、地方に多く資金を委譲できる状態ではありません。

 

 政府が地域の自助努力を求める政策は1990年代から行われてきたアプローチであり約30年間にわたり展開されています。特に2000年代前半の小泉内閣の時には、三位一体の改革として地方交付金が削減されました。

 

地域の主権拡大を主張すれば、政府としては地域間格差を是正する介入はせず、「それでは地域は自分たちでやってください」と資金の移譲を控えるようになるでしょう。

 

政府は、基本的には地域の発展には介入せず、地域の発展は地域の裁量によるものであり、その結果は自己責任であるという姿勢です。自己責任とは、つまり政府は地方の面倒は見れませんということを意味します。

 

もう政府は地方の守護者ではありません。政府は地域格差の是正をすべきであるということの是非を議論しても、このフレームワークはよほどのことがない限り変えられないと考えています。

 

昨日のブログ「地域による地域のための地域政策」でも書きましたように、地域において上手く地域政策を立案・展開できる力が求められてきています。

 

新自由市場主義の時代、人だけでなく地域もグローバルな競争市場の中で生き残りをかけていかなければならない状況に立たされています。

 

地域は対東京の相対的な視点で足りないものを求めるのではなく、自分達を正確に認識し、何がほんとうに必要なのかを見極めていく能力が必要になっていきます。

 

 

<地方都市の生き残りを考える参考文献>

地方都市の持続可能性 (ちくま新書)

地方都市の持続可能性 (ちくま新書)

 

  

日本の地方政府 1700自治体の実態と課題 (中公新書)

日本の地方政府 1700自治体の実態と課題 (中公新書)

 

  

人口減が地方を強くする 日経プレミアシリーズ

人口減が地方を強くする 日経プレミアシリーズ

 

 

地域による地域のための地域政策

欧米の地域政策の最近のキーワードとして"place-based approach"、つまり場所をもとにした政策アプローチが挙げられます。

今までの地域政策は中央政府によるトップダインの政策が多く、”One size fit all”として、画一的なアプローチが多かったですが、それで何年かけても地域は豊かになっていないという現実があります。

そこで、今までの考え方をやめて地域を一番よく知っている地域の人に地域政策は任せるべきであるという考え方です。

それ自体は、内発的発展の中で議論してきたので特に目新しいことはありませんが、それを地域政策と言う具体的な実現段階で地域をより知ることが大切である、という考え方です。

 

欧米ではなくニュージーランド(欧米のコンテクストは共有している)のコンサルタントであるデービッド・ウィルソン氏によるレポート”Powering up the Regionsが注目されています。

このレポートは、新しい考え方を示しているというより、"place-based approach"をサステイナビリティと絡めながら政策立案のフェーズで上手くまとめている点にあります。

 

これからの地域政策は、日本においても当然"place-based approach"の考え方が主流になると思います。つまり、地域において上手く地域政策を立案・展開できる力が求められて生きます。

 

本日は、以下にそのレポートにおいて指摘している5点を簡単に紹介したいと思います。

本レポートでは

1. 地域の潜在能力を発掘するためにはより地域主導のアプローチをとるべきである

 a - 多層的、多機関的な目的志向の地域ガバナンスを構築させる

 b - 地域経済開発機構間のネットワーク力を向上させるガバナンスが必要とするリソースを確保する

 c - 地域経済開発を実施する地域レベルの能力を向上させる

 d - 場所に基づいたアプローチとリスクの分担を通して政策の柔軟性を増幅させるのとサポートす

 

2. 地域経済政策の実行を改善するためには、広範囲な体系的な政治体制をとるべきである 

 a - 地域経済開発機構が何ができて何をすべきかを明らかにする

 b - 中央政府が何ができて何をすべきかを明らかにする

 c - 全てのレベルにおいて地域経済開発政策の理解を向上させる

 

3. 地域経済開発予算の補助金提供を増やすべきである

 a - 地域行政成長ファンドから地域経済ファンドへの移行すべきである

 b - 地域行政開発ユニットから地域開発のユニット移行すべきである

 c - 地域における地域投資ファンドを設立し、活性化させるべきである

 

4. 地域のイノベーションを創成し、専門性を高めるべきである

 a - クラスター開発と専門性を向上させる

 b - イノベーションと地域の専門化に積極的に投資すべきである

 

5. 現実的な政策効果評価のフレームワークを作るべきである

 a -文脈やメカニズム、アウトカムを評価する 

 b - なぜ、どのような状況で何が作用するのかを学ぶ

 c - 地域ごとや国の視点によって地域を評価する。

 

イノベーションにおける地域 (2)イノベーションにおける機能・環境空間としての地域

先日はイノベーションにおける地域としてイノベーションの拠点性について考察した。

本日はイノベーションにおける機能・環境空間としての地域について考える。


イノベーションのための知的集積拠点とは単独で存在するものではありません。人々や企業が研究開発のためにコミュニケーションをとる知識創造空間と、企業がサプライチェーンを構築する産業空間があります。

また、研究者および家族が生き生きと過ごすことができる生活空間が必要となってきます。

さらに、人びとが協調し協力し合うとか、新しいことにチャレンジするなどという規範や慣習などが及ぶ範囲としての制度・文化的空間が必要となってきます。


以下に、イノベーションのための地域の役割について見てみます。

第1の役割は知識創造のために多くの組織および人と関係を構築するための役割です。元々、地域とは関係的資産の集合体です。組織的・体系的な知識の統合を行うためには、人びとが集う物理的空間が必要です。多様な知識を収集して創造して統合させるためには、多くの組織が必要であり、そのためには、関係性を多層にわたり拡張させる必要があります。

そのことにより、研究開発プロジェクトの組織展開と複数プロジェクトの相互作用が可能となります。また、複数のプロジェクトが集積することで、思わぬものを偶然に発見するセレンディピティ により、意図しない新たな創造性の芽が生まれる可能性が高くなります。


第2は、知識の伝播と累積の役割です。知識を伝播させるためのコミュニケーションを図るためには文脈を共有させなければいけません。

その文脈の共有を構築するための空間として地域が求められます。また、学習した知識を累積させさらに発展させるためにも、知識創造の主体が集う空間が必要です。

さらに、知識創造における人々の活動を安定化、組織化するためにも地域という空間がその役割を果たします。

知識は編集、組織化、再生産、蓄積、拡散されることにより、更に新しい知識を生む。それを特定の地域で集中的に行うことにより、イノベーションの学習効果が上がり、知識や経験・ノウハウが累積されていきます。


第3は、イノベーションに関する地域ブランドの形成としての役割です。先述したように、イノベーションのためには境界を越えて、資源、情報、人材、資金等を効率的に集めることが必要であり、地域ブランドは産業集積において重要な戦略手段となっています。

そこで地域は、研究開発のレベルを上げたり、クリエイティブな環境(ミリュー)を作ったりしています。


第4は、技術の標準化、技術トレンド形成の役割です。一般的には、イノベーションは新奇性があり、新たな規格やルールが必要な場合があります。

そのイノベーションの不確実性の低減やトレンドの形成のためには仲間づくりが必要となります。ネットワークはその参加者が多ければ多いほどその価値が増します。

新たな課題の解決のためのリビングラボなどの取組みの過程で、仲間づくりを行い新たな技術の標準化が図られたりします。

そのような先進的かつ具体的な課題解決の取組みの中で、仲間を集め、活動を行う場所として地域は重要な役割を果たすと言えます。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』

イノベーションにおける地域 (1)イノベーションの拠点性

以前のブログのイノベーションのための学習と空間では、イノベーションが継続的に創出されるためには、その活動の基盤となるイノベーション・コミュニティが必要であるということについて見てきました。そこで本日以降は、イノベーション・コミュニティを構成する要素であるイノベーションの拠点とその活動を支える機能・環境空間としての地域について見ていきます。


イノベーションのための知的集積拠点とは、ただ単に研究者が集まって研究開発を行っている学術的な場所を指すものではなく、実用化を目的として、スケールアップや評価・分析、人材育成、標準化を中心とした活動を行う場所です。

そこでは、異なったバックグラウンドを持つ組織の関係を触媒的にとりもつ仕掛けとしての間組があることが多いです。異なる組織の関係構築機能として属人的なブローカーより、組織である中間組織のメリットとしては以下3点あげられます。

第1に、組織は継続性が高いため取組みに対する信頼を得やすい

第2に、異なる組織のマッチングだけでなく体系的に情報やファンドの提供などの様々なサービスを提供することが出来る

第3に、組織として冗長性があるほうが、思いがけない出会いをもとにした関係構築できやすい 点です。

また、中間組織は、そこを一つの基盤として、多くの組織が出入りするプラットフォームに発展する可能性が高まります。このプラットフォームはネットワークという形態をとり、参加者が増加することでプラットフォームとしての価値が向上します。


現在、持続可能な開発目標(SDGs)などに関する複雑な社会課題に取り組むために、多様な分野のリソースを組織化する必要があります。

そのために異なるステークホルダーが集まるためのプラットフォームの形成が目指されています。

そこでは、技術的のみならず社会的な課題が持ち込まれて、リビングラボとしてイノベーションの実験場となる場合もあります。

各地域の戦略として、研究開発拠点の設置だけではなくリビングラボの提供まで行うかというと、スマートシティ高齢化社会への対応などの社会課題解決型のイノベーションは社会実装まで行ってはじめてイノベーションが結実するという特性をもっているためです。

さらに、イノベーションの実装における活動を集め、イノベーションの価値連鎖を地域に埋め込みイノベーションの果実を地域に吸収しようというためでもあります。


このようなプラットフォームを具備したイノベーションのための知的集積拠点は、空間的要素、組織的要素、制度的要素、機能的要素から構成されています。

空間的要素とは、文字通り拠点としての物理的空間である。大学や企業が存在し、そこに属する人々が活動する空間です。ハイテク人材は、もともと流動性の高い性質を持っているが、そのような人材を誘致・定着させるためには、生活の質を高めるなどの魅力を作ることで、地域への定着を図り、労働市場を地域化することが求められます。

組織的要素として、拠点とは一つの組織を意味するものではなく、大学や研究機関、企業が周辺に分散している組織の集合体の場合もあります。大学や研究機関、中間組織、企業など様々な組織が有機的に地域内でつながれている。

制度的要素とは、公式な制度としては地域内の協働的な学習活動を促進させるための共同研究支援施策などがあげられます。慣習や規範などの非公式な制度としては、起業活動への指向性や、地域内での協調的な態度などがあげられます。

機能的要素とは、拠点として学習活動を盛んに行っていくためには、組織間や人々をつなげるという重要な役割があります。また、卓越性を確立するためにブランドを作るなどの機能も必要となります。

イノベーションのための学習と空間 (5)コミュニケーション空間としてのイノベーション・コミュニティ

イノベーションのための学習と空間として

(1)拡散する知識と凝集する知識

(2)イノベーションの価値連鎖  

(3)関係構築のための信頼と評判 

(4)イノベーションの空間的分業 について見てきました。

今回は、(5)コミュニケーション空間としてのイノベーション・コミュニティについて考えていきます。


グローバルネットワーク・知識経済社会において、イノベーション・ネットワークの空間は、国の境界を越えてグローバル空間で分業されています。

しかし、イノベーション創出活動を新たな知識の探索・創造・活用と見た時に、空間的に分業状態であるネットワークにおいて、新たな関係を構築し集合させる機能としての物理的空間が必要となっています。


イノベーションはチームの対話および協働によってなされており、イノベーションの創出において必要なことは、人々とのつながりの場です。

また、オープン・イノベーションとは単に企業が外部から知識を獲得し、イノベーションを効率的・経済的に創出するだけではなく、多数の異なった分野の組織・人々が協力しあう多層的にコラボレーションが行われていることです。

つまり、イノベーションを継続的に創出させるためには、迅速にチームを形成し、イノベーション・コミュニティを作る必要性があります。


イノベーション創出のためのコミュニケーションが起こす空間は3つの層から構成されています。

1層目は、コミュニケーションの基盤となる、言葉や会話が通じるという意味において文脈としての言語や価値観が共有される層です。

2層目は、物事を判断したり行動したりする際に基準とする考え方としての規範や慣習などの制度の及ぶ範囲としての層です。

3層目は、共感や情熱などをつくり、伝える雰囲気・環境の層である。人と人とのコミュニケーションが起こるには、心理的な共感や情熱などが必要です。

そして、イノベーションのための文脈、制度、雰囲気・環境が層となり、それらの3層が内包される形でイノベーションのコミュニティ空間が形成されています。

 

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

ヨーロッパにおける地域間格差(その2)

昨日公表したJournal of Economic Geographyの論文をもとに、その続きとしてヨーロッパにおける地域間格差への政策アプローチについて紹介したいと思います。

(論文)

Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019) Regional inequality in Europe: evidence, theory and policy implication, Journal of Economic Geogeaphy, 19:273-298.

 

その論文の中では、地域開発政策においては地域間の平等性と政策の効率性が二律背反的であり、両方を同時に求めることは難しいとしています。

 

そこで、地域開発政策のフレームワークとして以下の5点を挙げています。

1)集積の経済

2)知識のスピルオーバ

3)労働者の移動

4)地域間を結ぶインフラの整備

5)中心地の形成

 

論文ではヨーロッパの地域を、

①とても豊か(1人当たりGDPEU平均の150%以上)

②豊か   (1人当たりGDPEU平均の120-149%)

③中間   (1人当たりGDPEU平均の75-119%)

④豊かでない(1人当たりGDPEU平均の75%未満) の4つに分類していますが

その地域の特性ごとの政策アプローチをとるべきだとしています。

 

とても豊かな地域は、競争力のある地域であり、引き続きイノベーションの推進に取り組むべきです。その時、地域産業は古いタイプの産業から先端テクノロジー型のものに新陳代謝させるべきだとしています。

 

豊かな地域は、とても豊かな地域に比べて競争力がなく、不安定な状況です。技術的には成熟している産業が多いので漸進的なイノベーションが中心です。産学連携研究や、創造性、大学院教育などが重要であり、人材の国際還流のためのオープンな姿勢が重要であるとしています。

 

中間地域は、4つの地域の中では、豊かな地域ほどイノベーション能力が高くなく、豊かでない地域と比べて土地と給料は安くないため、最もマネジメントが難しい地域だとしています。オープンな姿勢で、外資系企業の投資を受けることが大切であり、ガバナンスを信頼のあるもの、整ったものに変える必要があるとしています。

 

豊かでない地域は、人材や技術や組織などの資産の乏しい地域である。土地と労働コストの安い地域であるので、ビジネス投資がしやすく後進性の利益を受けられる地域です。しかし、その後進性の利益はすぐに解消されてしまうものです。地域労働市場の形成がカギのため、特に人材育成が大切であり、大学などだけでなく職業訓練なども重要です。

 

以上のように、地域経済政策は以前のように貧しい地域に政府からリソースを補填するという考えではなく、地域自身が時代の特徴を読み何が地域経済の成長につながるのかを考えることが重要だとしています。

つまり、地域経済政策は中央政府からの一律的な展開ではなく、地域ごとの特色にあった政策である必要があり、地域での政策立案能力が求められています

 

今後、日本の自治体も独自で地域政策を立てる能力が求められてくると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヨーロッパにおける地域間格差(その1)

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの地理学部の看板教授3人が昨年Journal of Economic Geographyで公表した論文をもとにヨーロッパにおける地域格差の現状について紹介したいと思います。

Iammarino, S., Rodriguez-Pose, A. and Storper, M. (2019)  Regional inequality in Europe: evidence, theory and policy implication, Journal of Economic Geogeaphy, 19:273-298.

 

下の地図はヨーロッパにおける地域間格差を示しております。

地域を

①とても豊か(1人当たりGDPEU平均の150%以上)

②豊か   (1人当たりGDPEU平均の120-149%)

③中間   (1人当たりGDPEU平均の75-119%)

④豊かでない(1人当たりGDPEU平均の75%未満) の4つに分類しています。

 

①とても豊かな地域は、ロンドンパリなどの首都地域やミュンヘン地域(ドイツ)、ランドスタット(オランダ)などのネットワーク化された都市に広がっており一般的にメトロポリタンを形成しています。

 

②豊かな地域は、イギリス南東部からオランダ・ベルギーを経て、ドイツ南部、オーストリア、イタリア北部を通る地帯に広がっています。イノベーションが起きている地域もあれば、停滞している地域もあります。

 

③中間地域は、主に北・西部ヨーロッパに広がっています。元々工業地帯が多いので停滞している地域もありますが、移民が多く集まっている地域は成長しています。

 

③豊かでない地域は、東・南ヨーロッパ地域に広がっています。西ヨーロッパ地域ではティーズバレー、ウェールズ(イギリス)などに広がっています。

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EUにおける地域間格差

下の図は、2000~2014年にかけての4地域別の人口移動を表したものです。この15年間において、とても豊かな地域に人口が集まり、豊かでない地域では人口が流出していることが窺えます。

 

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EUにおける人口移動 (2000-2014年)

 

下の図は、2000~2014年にかけての4地域の雇用増加率を表してものです。とても豊かな地域が最も雇用を創造し、豊かでない地域は雇用を喪失していることが窺えます。

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EUにおける雇用率の変化(2000-2014年)

 

以上のように、ヨーロッパでは地域間格差が大きく、大都市圏で雇用を創出し、より人口が集中していることがわかります。

より豊かな大都市圏で雇用が創出され、人口が集まるのは、日本のみの現象ではなく、ヨーロッパでも見られる特徴です。

 

ヨーロッパでは地域間格差の是正には比較的気を使っています。それは、2つの世界大戦はヨーロッパにおける経済格差が要因の一つと考えている点と、最近では地域的貧困はポピュリズムを生む土壌となり、社会的問題を引き起こしやすいという考えが共有されているからです。

 

イギリスのEU離脱で、今後の分析はイギリスなしとなります。(現在でもノルウェーとスイスは入っていませんが…)

 

4つのタイプの地域がどのようなアプローチをとったら良いかについては後日紹介したいと思います。