地域戦略ラボ

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アメリカのテックシティーの興隆

昨年の12月にアメリカのBrookings 財団からアメリカの成長拠点であるテックシティーの状況に関するレポートが公表されました。

 

アメリカのイノベーション産業は活況を呈しており、その様な産業が集積しているテックシティ(イノベーション・ハブ)も大きく成長しています。

 

※)イノベーション産業とは、基礎科学、創薬、医療機器、コンピュータ、半導体、航空宇宙、ソフトウェア、データ処理、学術研究などの産業を指します。

 

イノベーション都市圏の雇用増加率を2005年からの推移を見てみると、トップ5%、トップ10%の成長率が高く、元々産業資源を多く抱えていた都市が集積効果もあり、大きく成長していることが窺えます。

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アメリカ イノベーション都市圏の成長推移

特に成長している都市としては、サンフランシスコ、サンノゼ、シアトル、サンディエゴ、ボストンが挙げられます。その他のテックシティ都市圏としては、ニューヨーク、ワシントンDC、ロサンゼルス、ダラス、シカゴ、フェニックス、マイアミ、オースチンアトランタ、ヒューストン、デンバーなどが挙げられています。

 

しかし、これらの都市は力強い成長をしていますが、賃金の上昇もそうですが特に住宅価格が上昇しすぎており、集積の不経済が起きています。

 

本報告書では、まとめとして5点を挙げています。

1.イノベーション(ハイテク)産業の立地は特定の都市圏で進んでいる。

 

2.地域間格差が大きくなり、国として問題を抱えている。ハイテク投資が国内他都市ではなく、インド、中国、台湾などに流れている。

 

3.市場メカニズムではこの問題を解決できないので、地域にあった政策介入が必要である。

 

4.他のテックシティを8~10つくり、成長を拡散させる。 

次のテックシティ候補としては、セントルイスナッシュビルシンシナティなどの他に、ピッツバーグデトロイトクリーブランドバッファローなどの旧工業都市が挙げられています。

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次のテックシティ候補

 

5.多くの大都市圏が次のイノベーションセンターになるポテンシャルをもっている。

 

イノベーション産業は金融業より給料が高くなっており、その様な雇用を多く生んでいる都市が成長しています。

 アメリカのハイテク都市はシリコンバレーだけでなく、少なくとも10都市程度は成長の極としてハイテク都市と言えるでしょう。

次のテックシティ候補は旧工業都市が多いので、旧工業都市がが復活するかどうか注目していきたいと思います。

 

地域産業のポートフォリオを考えた政策展開が必要です。

地域産業政策は地域にある既存の産業の支援が中心となり、未来の産業を育てる仕事が片手間にやられていることが多いです。

 

地域の産業は税金も払っており、雇用も多く抱え、ステークホルダーとして行政との関係も強く(声も大きく)、地域に大きな影響力を有しています。

なので、地方自治体の産業政策は既存産業の支援が中心となります。

 

下図は有名なBCGの作成したプロダクト・ポートフォリオリオ・マネジメントの図です。市場成長率と相対的マーケット・シェアから企業内の製品を、花形製品、問題児、金のなる木、負け犬の4つのカテゴリーに分けています。

 

それを地域産業に当てはめて考えると、既存産業は金のなる木と負け犬に多く分類できると思います。なので、そこに多くの支援策が展開されています。それでは未来は構築できません。

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旧来の政策展開では、工業団地を開発し企業誘致をすれば(当時の)ハイテク産業が地域で育った行ったのでしょうが、現在ではそのようなアプローチは望めません。

 

新産業を地域で育成させるためには、地域の産業の強みを知ると同時に、時代の変化を追いながら地域産業のポートフォリオを考えて、政策展開する必要があります。

 

イノベーションをとりまく地方的雰囲気について

 地方都市に住んでいると、イノベーションという言葉とそれに対する反応が東京の大手企業やマスコミで捉えられているものと違うと感じます。

イノベーションを取り巻く地域の雰囲気について、以下にその違いの背景について述べていきたいと思います。

 

イノベーションリテラシー不足

地方では、まずは”イノベーション”という言葉を知らない企業や人が多いです。技術革新という言葉は知っていますが、イノベーションは技術由来のモノだけでないということでもう技術革新という訳語は使わなくなりましたので、イノベーションが言葉とともに定着していないと言えます。

以前のブログでも述べましたが、イノベーションを”新しいものを創る”ことと認識すればもっと気軽に取組めると思います。

 

イノベーションを特別視する

イノベ―ションについて技術革新という思い込みがあり、また政府のアプローチが革新的なイノベーションを求めることもあり、イノベーションの取組みを大変なことと、自分たちに関係のないこととして、排除することがあります。

現在の内閣府のムーンショット型研究開発制度については「それ別世界、別の星の話?」っていう感じです。(確かに突っ込みどころ満載の事業ですが…)

政府の取組みだけがイノベーションではないので、もう少しイノベーションを広くとらえ、心理的バリアを除いていく必要があると感じます。

 

イノベーション疲れ

2002年の知的クラスター創成事業・都市エリア産学官連携促進事業から多くの自治体で多くの予算を割いて地域でイノベーションを創出する取組みを行ってきました。それから20年弱の年月が経っていますが、目立った成果が表れていないことが挙げられます。

政策現場では、イノベーションは東京の大企業のモノで地方で起こすのは無理だとして、イノベーションを看板に掲げなくなった自治体も多くあります。

 

確かに、イノベーションって地方においては身近にないし、自分たちに関係がないものと捉えられている傾向が見受けられます。しかし、新しい産業をおこしたり、我々の生活をより良くさせるためには、”何かあたらしい”ものやことが必要となります。そのためイノベーションという新しいもの・ことを創る取り組みが求められます。

現在の知識経済社会における産業政策は、従来型の企業誘致や設備投資補助ではなく、新しい知識を創出し新しい価値を生むことを支援することが中心になるべきだと考えています。

 

 

 

 

地方創生で地方は恩恵を受けています。

都道府県別の就業者数の変化を見てみました。

(資料 総務省労働力調査」を参照)

 

図1は全国の就業者数の2002年から2018年の変化をみたものです。2002年には6335万人であったものが、東日本大震災後の2012年には6278万人に落ち込み、2018年には6667万人に増加しています。2012年(12月ですが...)第2次安倍内閣発足以降380万人増加して、地方創生が言われ始めた2014年以降280万人増加しています。

 

図1 全国就業者数の変化(2002~2018年)

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図2は同期間の産業別の就業者数の変化をみています。医療・福祉分野は35万人増加と圧倒しています。その他は、その他サービス業や情報通信業が伸びています。製造業、建設業、農業・林業は大幅に減少しています。

 

図2 産業別就業者数の変化(2002~2018年)

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図3は同期間の都道府県別就業者数の変化を見ています。東京都や160万人増加と圧倒しています。続いて神奈川県57万人、愛知県36万人、埼玉県30万人増加となっています。増加した都道府県を見ると、3大都市圏と宮城県広島県、福岡県、鹿児島県、沖縄県となっております。

 

図3 都道府県別就業者数の変化(2002~2018年)

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以下に地方創生が言われ始めた2014年以降の変化を見て行きます。就業者数は全国では280万人の増加でしたが、この期間ではやはり医療、福祉業が7万人増加していました。続いてそのたサービス業5万人、宿泊業・飲食業3万人と続いています。2002年からの変化では減少していた製造業が増加しており、逆に増加していた公務が減少しています。

 

図4 産業別就業者数の変化(2014年~2018年)

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図5は同時期の都道府県別の就業者数の変化を見てみます。2002年からの変化では、3大都市圏と限られた県でしか増加していませんでしたが、秋田県山形県和歌山県、宮崎県以外は増加しています。

 

図5 都道府県別就業者数の推移(2014年~2018年)

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就業者数だけ見ると、第2次安倍内閣では増加しています。東京の一極集中も続いていますが、増加数は他を圧倒するほどではないですし、多くの県も就業者数自体は伸びています。ただ、地方が抱える閉塞感は続いていますので、労働の質(正規・非正規や低賃金職業かなど)も見ていかないといけないです。

日本の停滞と近隣諸国の発展

かつて日本はアジアで最も経済的に豊かな国でした。1994年まではほぼ右肩上がりに伸びていましたが、それ以降は横ばいと言えます。

2007年にはシンガポールに抜かされ、2014年には香港にも抜かされました。現在のシンガポールの数値は日本の1.6倍、香港は日本の1.2倍となっています。

日本と韓国の差は6000ドル程度ですので数年のうちに日本を追い越すと思います。それが韓国の対日外交姿勢にも表れていると思います。

韓国と台湾の関係を見ると、2003年以降韓国経済が台湾を引き離しています。

香港とシンガポールの関係も、経済的にはほぼ同程度であったのが、特に21世紀になってからシンガポールが引き離しています。

台湾と中国の1人当たりのGDPの差は1980年に4倍程度であったのが、現在では2.5倍程度に迫っています。香港と中国の1人あたりのGDPの差は1980年に18倍程度であったのが、現在では5倍程度と差は縮小しています。

日本の中国の1人あたりのGDPの差は1980年に30倍であったのが、現在では4倍程度と差は大幅に縮小しています。現在の中国の1人当たりのGDPは日本の1980年と同程度なので、中国が決して貧しい国でないことは明らかでしょう。

かつて東アジアは日本が先頭を走る雁行型経済と言われていましたが、21世紀にはそれが全く崩れています。

 

図 東アジア主要国1人当たりGDP推移(名目GDP USドル換算)

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IMFデータをもとに作成)

 

学生に授業で上図を見せますと、自分たちの認識不足に少なからずショックを覚えると言います。学生が何かを感じて、何か行動を起こしてくれるといいです。

 

ジャパン パッシング(世界空港ランキングに見る日本の空港の機能的地位の低下)

日本の各空港はインバウンドブームで乗降客数を伸ばしていますが、世界的に見たらどのような状況なのでしょうか。

下表はAirport Council Internationalが発表した世界空港ランキングです。

表1は旅客者数のランキングです。

1.アトランタ(米国)

2.北京(中国)

3.ドバイ(UAE

4.ロサンゼルス(米国)

5.東京羽田

8.香港

9.上海(中国)

16.仁川(韓国)

東京羽田空港が5位と上位に位置しています。

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表2は国際線旅客者数のランキングです。

1.ドバイ(UAE

2.ロンドンヒースロー(英国)

3.香港

4.アムステルダム(オランダ)

5.仁川(韓国)

7.シンガポール

11.台北(台湾)

17.東京成田

国内線の利用約数が多い、米国、中国の空港のランクは下がっています。東京羽田も国内線中心なのでランキングには載っていません。その代わりドバイや香港など国内線のない空港が上位にランキングしています。特に仁川(韓国は)旅客者数全体では16位ですが、国際線のランキングで見ると5位に大幅上昇しています。

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表3は貨物線トン数のランキングです。

1.香港

2.メンフィス(米国)

3.上海(中国)

4.仁川(韓国)

5.アンカレッジ(米国)

8.台北(台湾)

9.東京成田

16.北京(中国)

仁川(韓国)は4位で、東京成田は9位で、国際線旅客数につづいて仁川(韓国)の方がランクが上位です。

デルタ航空のアジアのハブが成田から仁川に移るし、旅客ばかりでなく、貨物でも仁川の方がハブとしての機能が高くなっています。かつて東南アジア-北米線は日本に立ち寄っていましたが、現在は仁川経由になっているのでしょう。

デルタの属するスカイチームの連携航空会社が日本になくて、大韓航空スカイチームなので致し方ない点がありますが、日本の空港のネットワーク性が弱く、機能的地位が低くなっていると言えます。

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今年北京にさらに大きな空港が開港しました。日本の空港は大体整備済みというところでしょうが、周辺アジア諸国の発展もあり今後30年を見据えて整備(撤退)を考えていかなければならないでしょう。

 

イノベーションにおける組織間学習

イノベーションの創出のためには、他組織との連携を図るオープン・イノベーションが重要であり、そのオープン・イノベーションでは、新しい知識の創造という学習が行われています。つまり、オープン・イノベーションは組織と組織の間で行われる組織間学習と言えます。


イノベーションのための組織間学習は、企業間や産学間のアライアンスやコンソーシアム、ジョイントベンチャーなどの形態をとることが多いです。


研究コンソーシアムの形態としては、研究施設を共有し、研究者が同一の場所に集結して研究を行う集中研方式と、研究者がそれぞれの研究施設に分かれて研究を行い、その成果を持ち寄り進める分散研方式があります。

そして、組織間学習には組織と組織を結ぶ場という空間が必要となります。


アライアンスや研究コンソーシアムなどにおける企業と大学の異なった組織文化による連携では、大学は研究が主目的であるのに対し、企業は利益の創出が目的であるというように目的が異なるため、組織間での軋轢が生れやすいです。

そのため、異なった組織文化や組織規範のギャップを埋め、コミュニケーションを円滑に行えるようにすることが必要となってきます。

また、社会的課題が複雑になり、その複雑な課題を解決するために、幅広い分野の産学官の組織の参画が必要になると、複数の組織が集まり、関係構築をより組織的に、効果的に行うことが必要となってきてきます。

そこで異なった組織の文化や言語(コード)がわかり、コミュニケーションの促進をはかる中間組織(Intermediary) が求められるようになってきています。


間組織とは、ある単体の組織が抱える文化や制度を超越した組織であり、その形態は、大学や公設試験研究機関などの公的な研究機関や、研究コンソーシアム、技術組合などや、ファンド組織や研究会なども含まれるとされています。

その中で中間組織としての研究機関 は、大学と企業のギャップを埋める橋渡し役を担うことが多く、具体的には、共同研究により、用途開発やスケールアップ、標準化技術開発などを担うことが多いです。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

 

愛媛県の外国人観光客動向

全国各地でインバウンドの拡大策がはかられています(中国のコロナウイルスの動向は気になりますが)。

愛媛県でも外国人観光客が2014年から2017年の3年間で約1万人弱増えています。県だけを見ると観光客数が順調に増加していますが、全国的に見たらまだまだです。

 

図1 愛媛県の外国人観光客数の推移

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外国人観光客数を都道府県別に見ると愛媛県は38位とワースト10でした。

香川県は22位と比較的高いですが、徳島県44位、高知県45位と四国は交通のハンディキャップもあり外国人観光客数が少ないです(外国人観光客数に限らず、国内の観光客数も少ないです)。

図2 都道府県別外国人観光客数(2017年)

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愛媛県に来訪する外国人観光客の居住地を見ると香港が1位で約50%を占めています。次いで、台湾の約20%、中国の約10%と3国・地域で80%を占めています。これらの人々は日本のリピーターと思われます。

(松山の全日空ホテルのエントランスに掲揚されている国旗は香港の旗の日がほとんどです。)

何度か日本に来たことがあり、行ったことのない地域として愛媛県が選ばれているのだと思います。

図3 愛媛県外国人観光客居住地(2017年)

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 疫病とか政治とか不安定な東アジアの状況の中で愛媛県のインバウンドも無関係ではないと思います。

今後は、他の地域(欧米豪・東南アジア)の日本リピーターに如何に食い込んでいけるかがカギとなると思います。

[教材動画]マンチェスターの盛衰を授業として行っています。

大学の授業の1コマを使って、産業都市マンチェスターの盛衰について学習しています。

産業革命が起きた都市としての発展から、20世紀に入ってからの衰退、そして近年クリエイティブ都市としての復活について解説しています。

 

マンチェスターは一般的にはマンチェスター市とマンチェスター都市圏とあります。

地図上の赤字がマンチェスター市です。

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Wikipediaより)

 

繊維産業の衰退は1900年から始まるのですが、マンチェスター市(青字)の人口動態は1930年代の約75万人から1990年代の約40万人へと右肩さがりで約70年間減少しています。

2000年に入り人口が大幅に回復していますが、その要因として、①大学の拡大とそれに伴う若年層の増加、②移民の増加、③サービス産業の発展が挙げられます。

それはマンチェスターに限らず、シェフィールド、リーズ、バーミンガムニューカッスルリバプールなどの旧工業都市は同じような理由で人口が増加しています。

しかし、マンチェスターの場合特に顕著ですが、都心部マンチェスター市)は復活していますが、工場の残る郊外部(オールダム、ウィーガンなど)は復活したとは言えません。

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Wikipediaより)

 

下図は街の中心部から徒歩15分ぐらいで行けるマンチェスター大学の工学部の新校舎です。11階建、延78000㎡、建設費350M£(約500億円)で今年完成予定です。

大学に多額の投資がされており、未来に向かって攻めているという感じです(うらやましい)。大学と市が一緒になってOxford Road Corridorという名前でイノベーション地区の形成を図っています。

 

マンチェスター市では、産業革命が起きた産業都市ではなく、いろいろな発明が起きたイノベーション都市として地域アイデンティティの刷新を図っています。

マンチェスターの科学産業博物館では、以前は紡績機などの展示が中心でしたが、コンピュータを発明したアラン・チューリングについての展示もあります。

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(The University of Manchester)

 

マンチェスターに行ったことがない生徒がほとんどですので、イメージをつかむために動画を紹介しています。

まず、産業革命について復習する意味で以下の動画が良く理解できると思います。

The Industrial Revolution (18-19th Century)  約4分

(音声は英語なので、字幕をONにして自動翻訳を日本語にすれば訳はちょっと変ですが意味は通じます。)

 

Expediaは主要観光地の観光ビデオを作成していますが、マンチェスターのものは歴史を詳しく説明しており、特におすすめです(秀逸です)。

Manchester Vacation Travel Guide | Expedia (7分16秒)

(音声は英語なので、字幕をONにして自動翻訳を日本語にすれば訳はちょっと変ですが意味は通じます。)

学習プロセスとしてのイノベーション

イノベーションは、ものやサービス、技術、ビジネスモデルなど様々なかたちで生み出されるが、それら創出の共通的要素として新しい知識の創造が不可欠であることがあげられます。

イノベーションのプロセスでは、例えば、研究開発では科学的原理や物性に関する知識などが、生産開発では生産ノウハウや品質、制御に関する知識が、マーケティングでは市場情報やビジネス戦略などの知識が創造され、集められ、統合されることによりイノベーションが生まれます

つまり、イノベーションとは集合知であると言えます。そして、イノベーションは新しい組み合わせにより生まれるとされているが、それは知識と知識を結合させる学習を意味します。

イノベーションのための新たな知識を生み出す学習は、個人や企業が単独で行うものではなく、組織間の相互交流的な学習により生まれます


イノベーション創出のプロセスにおける知識創造では、革新的な製品やサービスを生むための画期的で創造的なひらめきや創造性が重要視されます。

しかし、イノベーティブな製品やサービスを具体化していくプロセスのほとんどは、数多くの小さな発見や試行錯誤の積み重ねからなっています。

また、ひらめきや創造性とは、偶発的に生まれるのではなく、人が問題意識をもって考え続けたり、何度も試作品を作ったり、試行錯誤しながら地道な作業を積み重ねる中で生まれるものです。

つまり、イノベーションは、試行錯誤、経験、反省などの積み重ねる学習プロセスの中で生まれます。

そのため、ひらめきや創造性が生まれる環境を一部だけ抽出して、イノベーションの空間を論じるべきではなく、地道な作業を含む学習プロセスを見据えて議論すべきものです。

 

野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆

地域経済学の初学者にすすめる経済学の基礎の本

「地域経済学」を学ぶのに経済学の基礎のようなものを学んでいると理解が早いです。

そこでどのような本があるかというと、『スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 』などの本があるが、これらは経済学部で経済学を体系的に学ぶ人向けであり、経済の素養のない人には難しすぎるし、ここまでのレベルは必要ないです。 

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編

スタンフォード大学で一番人気の経済学入門 マクロ編

 

 

そこで、経済学を学んでない学生にどのような本をすすめているかというと、『池上彰のやさしい経済学』です。

長年ジャーナリズムで培った伝える力は素晴らしく、経済の基本的なしくみがよくわかります。

 2巻あります。(1)だけでも良いので読んでみてください。 

 <目次>

はじめに
金は天下の回り物――経済とはなんだろう?
お金はなぜお金なのか――貨幣の誕生
「見えざる手」が経済を動かす――アダム・スミス
資本主義は失業者を生み出す――マルクス
公共事業で景気回復――ケインズ
「お金の量」が問題だ―フリードマン
貿易が富を増やす―比較優位

 

<目次> 

インフレとデフレ――合成の誤謬
政府か日銀か――財政政策と金融政策
バブルへGO! ――なぜバブルが生まれ、はじけたか?
円高と産業空洞化――日本に残るか海外に出るか
君は年金をもらえるか――消費税をどうする?
リーマン・ショックとは何だったのか?
日本はどうして豊かになれたのか?――戦後日本経済史

 

 参考までにこちらの本もある。端折ってあり、内容がちょっとわかりにくい。

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる (角川文庫)

大学4年間の経済学が10時間でざっと学べる (角川文庫)

 

 

 間違っても『マンキュー入門経済学』なんか読まないように。

イノベーションのためのプレイス(場所)ブランディングを考えています。

地域ブランディングと言えば、地域特産品のブランド化や観光における観光商品の開発においての議論が多いです。

しかし、イノベーションの創成においてもプレイス(場所)ブランディングが重要だと考えます。なぜなら、イノベーションのためには、多くの資金が必要であり、すぐれたタレント(才能ある人)が必要であり、それらの人々が活動できるコミュニティが必要であり、それらリソースを集めるには、他の地域とは違った魅力があり、それが幅広く認識される必要があるからです。

 

オランダのコミュニティ学者のロバート・ガバース場所ブランディングに関する5つの原則として以下の5点を提示しています。

1.卓越性

2.正統性

3.記憶

4.共創

5.場所の創造(プレイス・メイキング)

 

イノベーション政策と空間政策の融合を考えた時、ブランドの構築が1つの鍵となると考えています。

 

次著『イノベーションの空間論』ではオランダ・アイントホーフェンを事例に場所ブランディングを意識したイノベーション政策の展開について紹介しています。

 

イノベーションのための場所ブランディングについては文献をちょっとあさっている途中です。考えがまとまったら論稿として発表していきたいと考えております。

 

プレイス・ブランディング -- 地域から“場所"のブランディングへ

プレイス・ブランディング -- 地域から“場所"のブランディングへ

 

 

 

 

 

 

オープン・イノベーション3.0

企業は研究開発の戦略において、弊害の大きくなった自前主義を見直し、自社内の研究資源にとらわれることなく、大学などの研究機関や他企業から技術やアイデアなどを、アライアンスのような形で積極的に取得するようになっていきました。

企業の研究開発は、自社内で充足する“クローズド・システム”から“オープン・システム”への転換が図られていきました。Chesbrough,(2003)はこのような仕組みをオープン・イノベーションと名付けました。

 

オープン・イノベーションについては、多くの企業で実践させるようになってきており、ただ単に、外部のアイデアを自社内に取り入れることを意味するものだけではなくなってきました。

イノベーションとは1企業が外部の機関と1対1の関係を構築するオープン・イノベーションから、市民などを含んだマルチディシプリナリーでマルチレイヤ―な関係を構築しているものもみられます。従来の1対1の外部連携によるものをオープン・イノベーション1.0と称し、複数の関係先が相互に混じり合う連携体制であるエコシステムオープン・イノベーション2.0と称しています(オープンイノベーション協議会2016)。

 

企業は単にオープン・イノベーションにより技術やアイデアを外部から導入すればよいのではなく、迅速に的確な相手を探し新たな知識を創造しなければならないです。また、イノベーションは新たな製品やサービスであることが多いので、標準化やルール作りが必要なため仲間づくりが必要です。そのためには、企業や研究機関が集まった間組織が存在し、それがプラットフォームとして機能することが求められてきます。

オープン・イノベーションは企業が外部から知識を取得することを意味するだけでなく、機関間の関係構築を促進し、そこで生まれた知識を有利な形で実装できることが求められてきます。そのようなオープン・イノベーションの制度的進化をオープン・イノベーション3.0と呼べるでしょう。

 

 

野澤(2020予定)『イノベーションの空間論』(一部改筆)

 

 

[学生に聞いてみました]海外で働いてみたいですか?

愛媛大学の地理学入門(3Q,4Q)を受講している学生227人に「将来海外で(2年以上)働いてみたいですか?」というアンケート調査と取ってみました。

(2年以上としたのは数か月のインターンや1年程度のワーキングホリデーなどを除くため)

 

「働いてみたい」と回答した学生は38.8%「働いて見たくない」という学生は58.1%と「働いて見たくない」という学生が約6割と過半を占めており、あまり海外進出には積極的でない意向が明らかにされました。

 

学部別の比率をみると(回答数にばらつきがありますが)法文学部、社会共創学部は

約半数が海外で働いてみたいという結果でした。社会共創学部は地域に貢献する学問を標榜しておりますが、意外にも海外でも働いてみたいをいう学生が比較的いることがわかりました。

理系学部で「海外で働いてみたい」との回答を見ると、医学部が44.6%と最も多いです。ついて工学部の37%、農学部の26.2%、理学部の20%という順でした。

 

理由は自由記述で書かせているため数値では表せませんが、海外で「働いてみたい」学生の理由として、医学部、工学部では、海外の先端技術・スキルを身につけたいとか、発展途上国で貢献してみたいという意見が比較的多かったです。

「働いて見たくない」という理由でもっとも多かったのが「英語ができない、意思疎通が難しいから」でした。その中で、医学部の学生は英語が苦手という理由は少なく、工学部、農学部でそのような理由を挙げている学生が多かったです。

 

海外で働きたいかどうかは英語力が一番のバリアのようです。日本のエンジニアの給料は低いですが、英語ができないので日本にとどまり低い給料に甘んじている可能性があります。

 

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地域活性化に熱心な自治体の人口動態

地域活性化に熱心に取り組んでいて、マスコミなどで”成功事例”としてよく取り上げられる自治体がいくつかあります。

地域活性化の目的の1つが”地方消滅”を回避するため、人口の増加を図ることが挙げられますが、そこで地域活性化に熱心に取り組んでいるいくつかの市町村の人口動態を見ていきたいと思います。

事例として、徳島県神山町徳島県上勝町高知県馬路村、大分県由布市島根県海士町を選んでみました。

(下記グラフはRESASで住民基本台帳を基に作成したものです。1994年から2016年までの自然増減(赤)、社会増減(緑)、増減率(青)を示しています。単位は人です。)

 

徳島県神山町は、ワークインレジデンスによりICT企業のサテライトオフィスが作られるなどマスコミで良く取り上げられています。なので移住が進んでいるのかと思いましたが2011年にちょっとだけ社会増が見られますが、基本的に社会減が進んでいます。移住は実際にあると思いますが、それより地元高校生などの流出が続いているのでしょう。

しかし、神山町「創造的過疎」として、人口増加を目標にしているわけではありません。高齢者がなくなっていくので人口減少は致し方ないとしています。赤い自然減はしょうがないとしてみどりの社会減を以下に抑えていくか(伸ばしていくか)がやはりカギでしょう。

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徳島県上勝町葉っぱビジネスなどで有名な自治体です。こちらは、社会増の年が4回あり神山町に比べて社会減の数は少ないです。しかし、傾向としては人口減少でありここ数年減少率が大きくなっています。

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高知県馬路村「ごっくん馬路村」をはじめとしたゆず製品の製造販売で有名です。「ごっくん馬路村」自体だいぶ前の取組みなのでそれが良くマスコミに取り上げられていた90年代後半には人口増加の年もありましたが、基本的には人口減少が続いています。2015年に社会増になっているのは希望が持てる現象ではないでしょうか。

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大分県由布市由布院温泉で有名な観光地です。由布院が湯布院で観光ブームであった2000年代前半までは社会増も多く人口は増加していましたが、最近では観光ブームがちょっと去ったような感じになり、人口減少が続いています。

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島根県海士町は政府の地方創生で成功例としてよく取り上げられる自治体です。若い人たちの島への移住が進んでいることや島前高校の取組みで若年者の流出が抑えられていることで社会増の傾向が見られるのだと思います。

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北海道東川町は人口が増加していますが、旭川市のベットタウンとして移住が進んでいる側面が強いです。

地方にある大都市圏に属さない自治体で人口増加しているところは基本的にないです。海士町は数少ない例外だと言えます。(それでも人口増加傾向がいつまで続くかは見通せません。)

 

以下に、各地域の参考文献を掲載させていただきます。

 

  

そうだ、葉っぱを売ろう! 過疎の町、どん底からの再生

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由布院モデル: 地域特性を活かしたイノベーションによる観光戦略

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未来を変えた島の学校――隠岐島前発 ふるさと再興への挑戦

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